サクレ _ ショート
まったく、暑すぎるって。どうなってんの。みんな、なんでそんな平気な顔で歩いてる?猫みたいに舌が出ちゃうよ。
とにかく歩くしかないな。南公園の前の道を真っ直ぐ行って、橋の手前で左、かな?ちょっと怪しいけど、まぁ、多分、大丈夫だろ。まだ大丈夫なはず。しかし、久しぶりだなぁ。覚えてるかなぁ、婆ちゃん。まさか、忘れてないよなぁ。もしそうなら、嫌だなぁ。あんなに散歩したし、あんなに一緒にテレビも見たし。いっつも部屋の端っこで二人。忘れてはないと、思うんだけどなぁ、おれのこと。
や、しかし、遠いな。なんでもっと近くにしとかなかったんだ?わざわざ出向かないといけないこっちの身にもなってほしい。
だいぶ今日は雲が白いな。あ、カラスが二匹こっちを見てる。たいしたやつらだ。ま、気にしない気にしない。
あれ、こんなとこに、たこ焼き屋がある。あ、かき氷もやってる。そういや、婆ちゃん、かき氷好きだったなぁ。よく半分こしてたっけ。普通、半分こしないんだよな。とゆうか、かき氷なんか好きじゃないのよ。めちゃくちゃだよな。終いにはレモンまで半分ことかいいだして。サクレだっけ?食べないよ、レモンとか。
おお、ようやく着いたか。さて、婆ちゃんのは、どこだ?結構いっぱいあるなぁ。ま、頑張って探すか。日が傾いてきたなぁ。急ごう。
石のせいなのか、夏のせいなのか、まぁ、どっちでもない可能性のが高いかもだが、なかなか、匂いがわからないなぁ。まぁ、そういう場所だからなのかな?しかし多すぎるだろ。参ったなぁ、ここまできたのに。もうちょっとで日が落ちてしまう。約束の時間に間に合わない。んー、どこだ?ちくしょう。ここまで頑張ってきたのに。電車まで乗ったのに。婆ちゃんがいけないんだぞ?段ボールなんかに入れやがって。誰ももらってなんかくれないっつーの。そもそも、婆ちゃん、字が汚すぎるよ。そんなに想いを込めて文字いっぱい書いても、まず、読めないんだよな。
そういや、端っこが好きだったなぁ婆ちゃん。やっぱ、端っこなのかなぁ。端っこまで、走ってみるか。
ん?なんでだ?なんか、自分の匂いがするぞ?これは、なんだっけ。すげぇ懐かしいような。なんの匂いだっけ?この先だ。あ、ここだ。わかる。文字なんかもちろん読めないけど、わかる。婆ちゃんだわ。あー、見つかったわ、よかったぁ。ちょっともう無理かと思ったわ。ちょうど日も落ちそうだ。なんでこんなに自分の匂いがするんだ?んー、あ、なるほど。これ、か。あぁ、婆ちゃん、こんなもん持ってくんなよな。遺言なのか?それとも誰か気を利かせたのか?普通取っとかないだろ、首輪なんか。馬鹿だなぁ。
さ、もう限界だわ。身体が透けてきた。満月だもんな。でも、ここで消えてなくなるのならいいんだ。もうすぐまた会えるな、婆ちゃん。今度はずっと一緒だぜ。
了
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