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ドキンちゃんのタルトタタン

 時々、無性に食べたくなるもの。

コンビニのレジ横にあるアメリカンドッグ。
パンコーナーの隅っこにある80円位のちっさな羊羹(こしあん)。
凍らせてから半解凍したチーズ蒸しパン。


  酸味の強い紅玉で作る、タルトタタン。

 無性に食べたくなる時は、決まって私の中のドキンちゃんが「〇〇が食べたい!食べたい!!食べたーーーい!!!」と騒ぐ。
なぜドキンちゃんなのかといえば、アンパンマンの物語で大抵が、ドキンちゃんの「〇〇が食べたい(ほしい)!バイキンマン、何とかして!!」とおねだり全開で始まるから。
(私のアンパンマンのイメージです。実際とは異なります。)
 そのイメージがそのまま私の「食べたい!」と直結する。

 まさにドキンちゃんみたいな真っ赤なリンゴとシナモンにバター、カラメルソースと冷凍パイシート。これだけで良いなんて、タルトタタンって小洒落た名前の割に手順も多くないし簡単。
 実は、今年の目標として「旬のものは絶対食べる」を掲げているので、このタルトタタンは目標達成への第一歩でもある。

 キッチンでリンゴを煮る間、この空間と時間は幸せに満ちてるなぁ、と至福に浸る。焦がさないように弱火で、トロリとしてくるリンゴを見ながらニヤニヤする。換気扇の風量を「強」にしてもキッチンやリビングに広がるシナモンとリンゴの甘酸っぱい香り。そして出来上がったばかりのリンゴ煮を食べて、口の中を火傷するところまでがお約束。

 型にカラメルソースとリンゴを敷いて、冷凍パイシートを被せる。
「タルト」タタンだからってタルト生地は敷かない。ホロッと崩れるタルト生地も好きだけど、今回はザクッとするパイの食感とリンゴの柔らかさを楽しみたい。
 オーブンに入れて、パイが美味しそうな色になるまでほっとけば完成。

 なのに、いや、だからか。
ちょっと目を離した隙にパイが真っ黒に…。慌ててオーブンから出したけど、焦げ臭い匂いと白い煙が漂う。黒くなったパイ生地をナイフでゴリゴリ削り落として、一口。


 …甘『苦』酸っぱい。


 カラメルソースも焦げ付いてしまって、いやに歯にくっつく。
中のリンゴは無事だったけれど、この見た目と味をお気に召さないお方が。

『なによコレ、真っ黒じゃ無いの!美味しいタルトタタンが食べたかったのに、どーしてくれんのよっ!!!』

ごめんなさい、とバイキンマンと一緒にしょぼくれて、どうしたらこのタルトタタンを美味しくできるか考える。

 冷凍庫からバニラアイスを探し出して、まだ少しあったかいタルトタタンの上に乗せる。
ゆっくり熱で溶け出すバニラアイスをリンゴ煮に染ませて、一口。

 ドキンちゃんがニンマリする。

バイキンマンと一緒に胸を撫で下ろして、残りのタルトタタンを頬張る。

 うん、バニラアイスが大正解。

でも本当は、バニラアイスなしで食べたかった…。


でも本当は、ザクッとしたパイが食べたかった…。


でも本当は、もっとちゃんと出来るはずだった…。

      よし、リベンジだ。

 これは、ドキンちゃんではなく私のワガママ。
これじゃ終われない。

 明日は、袋いっぱいのリンゴを買ってこよう。

たくさんリンゴ煮を作って、迷惑なくらいリンゴ煮の香りでキッチンを満たして、完璧な私のタルトタタンを作ろう。

バニラアイスは、最後までお預けだ。








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