見出し画像

Design&Art|デザインを覗く 〈03.光と色彩〉

日本でも世代を超えて長く愛されている、フィンランドのデザイン。アアルト大学でデザインを学び、現在は日本とフィンランドを繋ぐデザイン活動を行っている、lumikka(ルミッカ)のおふたりが、フィンランドデザインをつくる様々な要素を探り、その魅力を紐解きます。


"この世があまりにもカラフルだから、ぼくらはいつも迷っている。どれがほんとの色だか分からなくて。どれが自分の色だか分からなくて。"

小説『カラフル』(森絵都, 文藝春秋, 2007)の中の言葉です。日常には色が溢れていて、私たちはその「カラフル」を絶え間なく感受しながら日々を生きています。窓から見る青い空や道端に咲く赤い花、木々の新緑や夜空に煌めく月明かりなど。時に迷ってしまいそうになるほどの色彩が、私たちを包み込んでいます。

画像1

フィンランドにもたくさんの色がありました。例えば、こちらの抽象的なイメージ。パステル調の水色とオレンジ、そして黒いもやが混ざり合っていますが、何か連想される風景はあるでしょうか。

画像2

元の写真は、フィンランドの森から見た夕暮れの空です。フィンランドの空とまではいかずとも、夕暮れの空を連想された方はいるのではないでしょうか。色はあくまでも抽象的な情報に過ぎませんが、私たちの脳の記憶と強く結びついています。「青」を見ただけで海や空を連想したり、「朱色」から日本っぽさをなんとなくイメージできたりしますよね。

フィンランドの美しい風景が、そこに住むデザイナーやアーティストたちに何らかのインスピレーションを与え続けてきたとするならば、その色彩からも「フィンランドデザインらしさ」の種を探ってみることもできるはずです。今回は、ちょっとぼやけたレンズを通じてフィンランドの色彩を覗いてみます。


画像3

優しいブルーとピンクのグラデーション。日本に戻った今でも記憶に残り続けているフィンランドの風景のひとつです。西の空が夕焼け色に染まるころ、反対側の東の空が淡いピンク色に染まることがあります。この帯はビーナスベルトと呼ばれるそうで、上側の昼の青と下側の夜の青(地球の影)に挟まれた、まさに昼と夜の境界線です。空の風景はいつも抽象的でぼんやりとしているので、いつまでもぼーっと見ていられます。


画像4

空の青と雪の白、斜めに深く差し込む光のオレンジ。

画像5

ヘルシンキから北へと向かうと一帯は雪に覆われて、目に入る色の数は限られてきます。こちらは11月の朝9時頃にロヴァニエミで撮影をしたのですが、日本の感覚だとまるで夕方のような光なのでちょっと不思議な感覚がします。また、北欧の冬は暗く重たい印象がありますが、雪が積もると街は明るくなります。白い雪が空からの光を反射し、街の景色も人の心も軽やかにしてくれるのです。冬の日常に明るさをもたらしてくれる雪は、空からのギフトのようでした。


画像6

画像7

雪の白が街の色彩を引き立ててくれることもあります。これらはヘルシンキ市内で撮影したものですが、雪の白さがそれぞれ建物の質感と色彩をより美しく演出しています。派手すぎず、地味すぎず、主張しすぎない自然体な色のイメージはフィンランドデザインの重要なエレメントのひとつではないでしょうか。


画像8

冬の夜には、また少し違った色たちが街を彩ります。

画像9

クリスマスが近づくと街は暖かな色に包まれます。北欧で多く使われている暖色系の灯りは火の色に似ており、視覚的なあたたかさを感じます。それをいっそう引き立てているのは北欧ならではの冬の暗さと寒さかもしれません。お店のショーウィンドウから、トラムの窓から、そして街のイルミネーションから溢れる光が混ざり合い、夜の街はきらきらと輝きます。


画像10

長い冬の中でも、11月が一番気分が落ち込むとフィンランドで暮らす人たちはよく話していました。実際には12月の方がより寒く日照時間も短いけれど、雪が降ったりクリスマスの装飾で街が賑やかになり、その明るさから元気をもらえるようです。この国の人々にとって、冬のイルミネーションは単なる装飾以上の意味を持つのかもしれません。


今回は、色彩に焦点を当ててフィンランドの風景を覗いてみました。誰かと同じ風景を見ていても、かたちを見る人、色を感じる人、意味を考える人など捉え方は様々ですが、その中でも「色」には人の感情をより強く動かす何かがあるような気がしています。日本でも夜が長いこの季節。「あまりにもカラフル」な日常の風景から印象的な光を、自分の記憶に残る色を探してみるのもいいかもしれません。


画像11

2021年ももうすぐ終わりですね。私たちのコラムを継続して読んでくださっている方々、そして今回がはじめましての方々も、お忙しい日々の中、ご覧いただきありがとうございます。私たちがフィンランドで培ったデザインへの眼差しが、誰かの生活を彩る小さなきっかけとなっていましたら幸いです。

それでは、よい年末年始をお過ごしくださいませ。

画像13


スクリーンショット 2021-10-29 13.49.41

instagram:@lumikka_official