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Culture|星さんに聞く、フィンランドと食 〈03.サステイナブルな食と環境〉

ラプアン カンクリ 表参道では今、「HerkulLinen / 食とリネン」を開催中。前回に続き、フィンランドの数々のレストランで調理を経験し、その後に自身の料理店を開業、現在はヘルシンキからオンライン料理教室を行うなど、多方面で活躍する料理家・陶芸家の星 利昌さんに、フィンランドと食にまつわる様々なお話を伺います。

みなさん、こんにちは。ラプアン カンクリ 表参道のコラム3回目を書かせて頂きます、星です。

今回は食と環境について。フィンランドにいると、首都のヘルシンキに住んでいても自然が生活のすぐそばにあると気付きます。自然に近い生活をするということもとても重要視されていて、環境を守ったり、大切にするといった意識を持った人が多いです。しかし、たとえ環境を守っていたとしても環境バランスが気付かぬうちに崩れていっている、そういった現場に行くことができたので、その時の話をしたいと思います。

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去年の11月上旬、ヘルシンキから車で1時間ほど走らせたところにある湖で漁をしていると聞き、穫れた魚のよい利用方法はないか、どういった料理ができるか、そういった相談を受け、漁に同行できるということで行ってきました。湖で大がかりな漁をしている人がいることを聞いたことがなかったので、すごく興味が湧きました。

この時の11月は急に気温が下がり、すでにマイナス気温が続いていました。もう初冬です。この日も曇り空で小雨が降っていて、マイナスになるかならないかくらいの気温の中で漁が行なわれました。想像していたよりも寒くなかったので、何とか漁を楽しもうという気持ちになれました。

ここでの収穫目的の魚はsalakka(サラッカ)、Lahna(ラハナ)、Sarki(サルキ)です。その他にも、Hauki(ハウキ)やAhven(アハヴェン)の稚魚も穫れました。全て食べられる魚です。後ろの2種は穫った後、また湖に逃がしています。

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この日の収穫量は600kg。大体平均して1日2000〜3000kg、多い時で5000kg穫れるそうです。湖中の流れが悪かったそうで、この日は収穫量が少なかったです。それでも600kgの魚を目の前にすると、とんでもない量でした。

穫り方はというと、250m近くある網を同じ出発点から二艘のボートで互いに半円づつ描くように周り、同じ到達点に来たら、同じ力でゆっくりと網を引っ張っていきます。早く引っ張れば、魚がびっくりして網の目にひっかかってしまうので、ゆっくりとそっと網を引いていきます。そして小さく集結したところを手網で何回もすくって、かごにいれていきます。網を引っ張るのはとても人力では無理なので機械を使いますが、最後のかごに入れる作業は手網ですくうのでかなりの力仕事です。そして、綱の中に入ったハウキは手で穫って湖に逃がします。この時50匹くらいハウキがいました。この魚は歯が鋭いので噛まれると危険な魚ですが、そんなことはお構いなしに、冷たい湖に手を突っ込んで1匹7kgくらいある魚体を手づかみで取り、湖に逃がしました。

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ここからが本題になるのですが、この人達は食べるために魚を捕っているわけではなく、主に湖を守るため、環境を守るために、魚を穫っています。このような湖の周りには植林がたくさんあり、その植林をした際に、栄養土が敷かれたそうです。その土の中の栄養が長い年月をかけて、湖に流れ出て、湖の中に栄養が増えすぎた結果、プランクトンやバクテリアが増え、小魚が大量発生しているそうです。簡単に言えば、小魚が育つエサが増えすぎたのです。

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この小魚は、ハウキやアハヴェンがエサとして食べるので、これらの魚は穫ってもまた湖に返すわけです。それでも食べきれない程の小魚が大量発生しているという問題が起こっています。大量発生した小魚は放っておくと増え続け、湖いっぱいになります。この日に行った湖も、魚探レーダーを見ると、湖全体に大量に魚がいる状態でした。それらはやがて死骸となり、湖の底に沈んで、水質の汚染に繋がります。こうして美しい水質の湖が失われていくのを防ぐために、生態系のバランスを取るために、漁が行なわれています。こういった漁もあるんだということをこの時、初めて知りました。

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ここの湖は水質がとてもきれいでしたが、フィンランドには水が濁りきって汚染されてしまった湖もあります。そして、ここで穫れた魚は総称してRoski kala(ロスキカラ)と呼ばれていました。ゴミ魚という意味です。これらはエネルギーやペットフードに変えられたりしています。

このような自然環境の中で育った魚は天然と言えるでしょうか。人工的に調整された栄養土から出たプランクトンを食べて育った魚はLuomu(オーガニック)と呼べるのでしょうか。かなり考えさせられました。このまま放っておくと、湖が汚染されてきれいな水質を保てなくなる。そのために魚を穫る。木を育てるために、撒いた栄養土が今度は環境汚染に繋がっている。何ともどうしようもない、何かが犠牲になる仕組みは、現代社会そのものだなと感じました。

現時点で出来ることとしたら、穫った魚を食べること。この日はそれぞれの魚を持ち帰り、調理して食べてみました。サラッカは、初めて見て知った魚でしたが、形状はMuikku(ムイック)に比較的似ており、頭、内蔵、鱗を取り、丁寧に下処理をして、ライ麦を付けて焼いて食べました。ムイックよりも骨が若干太く、食べている時に口に当たる感じはありましたが、水質がきれいな湖で穫れただけあって、湖魚特有のクセもなく、美味しく食べることができました。

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ラハナは市場でも売られているので、魚屋さんに聞いてみたところ、魚体のサイズが小さすぎて売り物にならないと言われ、受け取りは断られました。ラハナ、サルキはコイ科の魚で、特にラハナはフナのような魚で、僕にとっては調理も食べることもなかなか難しい魚でした。処理に時間がかかる上、身が小さくて骨も複雑、ご家庭の食卓にあがるまでには、根気と魚を扱う技術がいるなと感じました。これらは木のチップを使い、燻して、香りをつけて、薫製にして食べました。

フィンランドでは穫れる魚の種類が限られていて、尚かつ、お肉を食べない人が比較的多いです。こういった魚は貴重なタンパク源にもなるので、生活に根付くような使い方を考えたいです。

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捨てずに資源を有効活用する取り組みも、より多くの人が普通に関われるようになればと思います。この日は600kgの魚が穫れたとはいえ、一人で1回で食べられる量は300g程度ですし、これらの量の魚を食べられるように下処理するだけでも、一人で出来る量は本当に少ないです。自然を相手にした時の人間一人の力はほぼないに等しいです。こういった資源を見つけて、有効活用するアイデアは今までも重要視されてきましたし、これからの社会でも重要視されるべきです。

今回、この漁に同行させてもらい、このように湖の環境を必死に守る人達と出会い、環境が崩れる理由を身を持って知ることができました。何も知らずにものを食べられる世の中ですが、食と環境は密接につながっていて、こういった食の見えない部分も考えたり、触れたりしながら、今後も食と向き合っていきたいと思います。

星さん

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