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Culture|フィンランドのカルチャーガイド 〈04.絵本〉

フィンランドカルチャーのあれこれを、シンガーソングライターのゆいにしおさんが独自の視点でご紹介。今回は絵本の世界をのぞいてみましょう。おうち時間を豊かにする3冊をゆいさんに選んでもらいました。

フィンランドの絵本が、密かに話題を呼んでいることをご存知でしょうか?内容は子ども向けでも、示唆に富む内容やまるでアート作品のような美しい絵柄のものもあり、大人でも十分楽しむことができるんですよ。今回は、魅力的なフィンランドの絵本の世界をご紹介します。子どもから大人まで楽しめる小さなアートを楽しんでみませんか。

1.『TUULEN VUOSI 風と出会う日々のこと』Hanna Konola 著

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〈日本とフィンランドをつなぐ「風」〉

ヘルシンキを拠点に世界で活躍するイラストレーターのハンナ・コノラが、風にフォーカスを当てた物語。ミナペルホネンのデザイナー・皆川明さんが日本語訳を手がけています。原作はフィンランドで最も美しい絵本に賞される「The Most Beautiful Books of the Year 2016」に選ばれるほど話題となり、これまでに8言語(フィンランド語、英語、中国語、フランス語、ガリシア語、イタリア語、韓国語、スペイン語)に翻訳され、出版されるなど世界中から愛されている作品です。


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〈おんなじでも違う風が吹く、フィンランドと日本〉

この絵本は、4月から3月までのフィンランドの季節が、シンプルな言葉と鮮やかなイラストで綴られます。フィンランドの風とその景色を思い浮かべながら、日本との共通点や違いを、自分の中で紐解いていくように楽しみました。

例えば、絵本をめくると「4月 凧さんとっても広い空」というページから始まります。日本で凧揚げをするのは1月ですが、「フィンランドにも凧があるんだ!」なんて、新しい発見。また、6月といえば日本では梅雨が訪れ、ジメジメとしていて風も生ぬるいですよね。一方、絵本のなかのフィンランドでは「ふんわり雲さん口笛吹いて」と表現されていて、とても爽やかな様子が伝わってきます。

流れる季節の風は違うものの、フィンランドにも日本にも風が吹き四季が巡る。忙しい日々の合間に、風を感じてみたくなる1冊です。

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2.『ルビィのぼうけん こんにちは!プログラミング』Linda Liukas 著

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〈プログラミング思考が身に付く絵本〉

ヘルシンキ出身のプログラマー、リンダ・リウカスが、子どもがプログラミングを学ぶ手助けとなるように作った絵本。ですが、コードは一切絵本の中には出てこないですし、プログラミング用語ですら、必要最低限のものが大人向けの部分に出てくるのみ。中心となる物語のほか、練習問題があることでプログラミング的な思考を身につけることができるという内容になっています。絵柄もかわいらしく、主人公のルビィがパパの隠した宝石を見つけるために、いろんな動物の助けを借りる姿に元気をもらえますよ。


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〈自分で考えて動かす楽しさに、大人も子どもも夢中に!〉

大人でも、プログラミングと聞くだけで身構えてしまう方もいるのでは。ですが、この絵本ではプログラミングの難しさよりも、自分で考えたものを形にしていく楽しさが味わえます。例えば、プログラミングには「ループ」という一回の処理を何回も実行する機能がありますが、練習問題のコーナーでは、「手を叩く」「ジャンプ」といった動作を組み合わせながらダンスの振り付けを考えることからスタートします。動きを組み合わせることで、ひとつのプログラムが出来上がり、それを繰り返すことで、自然とループの概念を身に着けられるというわけです。ストーリーはもとより、自分の考えた動作を形にする面白さに大人も子どもも夢中になれる、そんな一冊です。

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3.『マッティは今日も憂鬱』Karoliina Korhonen 著

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〈思わずうなずく、フィンランドと日本の「あるある」〉

フィンランドのデジタルデザイナー、カロリーナ・コルホネンの作品。2015年にネットで発表されて話題となり、書籍化された本作は本国で大ベストセラーに。日本語版は2017年に登場しました。

主人公のマッティは典型的なフィンランド人。サウナとコーヒーが大好きで、平穏と静けさを愛し、パーソナルスペースを何よりも大切にしています。「雑談のやり方がわからない」「自己アピール」…そんなことに憂鬱を感じるマッティ。日本に生まれ育った人の多くは、そんな気持ちの揺れ動きに「よくわかる!」と共感できるのではないでしょうか。


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〈シャイって実はチャーミング?〉

オリジナルのタイトルは、"Finnish Nightmares(フィンランド人の悪夢)" 。そう、超シャイなマッティにとっての悪夢のようなエピソードが綴られています。例えば、せっかく会社に採用されたのにその喜びを伝えきれないマッティ。すごく嬉しいのに伝わらないんです。そして、出かけたいのにドアの外に住人がいると、いつまでも家のドアの内側で、外の気配を探っているマッティ(笑)。

不器用に感情表現するマッティを見ているうち、映画『かもめ食堂』の撮影中にフィンランドを旅した片桐はいりさんのエッセイ『わたしのマトカ』の一節が思い浮かびました。

はいりさんが、フィンランド映画『過去のない男』に出演していたマルック・ペルトラと会った時、出演映画について語っても彼の表情は変わりませんでした。ところが、一緒にいた通訳の人曰く「そうは見えないでしょうけど、この人、今すごく舞い上がっています! 」。日本人でもここまでシャイではないのではないか、と思えるエピソードにクスッとなってしまいました。「むしろ、そんなフィンランドの男の人たちのぶっきらぼうぶりを見るのが楽しみ」とエッセイの中ではいりさんが語っていた言葉がマッティとリンクするんです。

表現しないと感情は伝わらないことが多いけれど、「シャイ」もチャーミングな要素に見えてくるような気がしてきますよね。フィンランド人の本質を今までとは違った角度から知ることで、なんだか近しい気持ちになるから不思議です。

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