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Design&Art|デザインを覗く 〈09.言葉と物語〉
日本でも世代を超えて長く愛されている、フィンランドのデザイン。アアルト大学でデザインを学び、現在は日本とフィンランドを繋ぐデザイン活動を行っている、lumikka(ルミッカ)のおふたりが、フィンランドデザインをつくる様々な要素を探り、その魅力を紐解きます。
言葉の連なりは文となり、文の集積は物語となる。
そして、物語は本となって、大きな世界を人々の心へ届けます。
言葉とは、それ単体では極めて小さなものに過ぎません。しかし、そのような「言葉」でも糸のように編み込んで、より大きな塊へ、より意味のある物語へと昇華させることで、人の心に長く残り続けるものとなるのです。
糸を編むこと、言葉を編集すること。
そして、そこから生まれるテキスタイル(Textile)とテキスト(Text)。そのどちらも行き着く先には「コンテキスト(Context)」つまり文脈と物語があり、テキスタイルをはじめとするフィンランドデザインが多くの人を魅了するわけは、まさにそこに潜んでいるのではないでしょうか。今回は、言葉がもたらす物語性に焦点を合わせて、フィンランドデザインに編み込まれた様々な魅力を紐解いてみます。
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例えば、この緑の写真はどのように目に映るでしょうか。爽やかな雰囲気は感じられますが、1枚の写真から得られる情報にはやはり限りがあり、イメージは抽象的なまま人の心へと届けられます。
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次に、言葉を添えてみます。すると、写真がひとつの視点を持つようになり、想像の奥行きが生まれます。初夏の散歩中にふと出会った風景なのか、それとも初夏を待ち望むような気持ちで新緑を見ていたのか……などと、そこに物語の片鱗を見出すことができます。
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さらに写真を1枚追加してふたつを並べてみると、今度はそれぞれのイメージが交差してより鮮明な物語が露わになってきます。小さな要素を、糸のように編み込むことで生まれてくる新たな風景。初夏の緑と昼の月の組み合わせにより、北欧ならではの白夜の1日を想像することができないでしょうか。
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そのような視点からルート・ブリュック(フィンランドを代表するセラミックアーティスト)の代表作「陽のあたる街」を見てみると、色や形の奥に広がる豊かな風景や物語が感じられます。オレンジは太陽の光を、大小さまざまな形は都市の建築群を連想させてくれます。
このように、ビジュアルイメージに言葉が伴うことでデザインに奥行きが生まれ、美しい物語を纏うようになります。フィンランドデザインの多くには、モチーフとなった自然や風景の名前がわかりやすく添えられているため、世界中のあらゆる人がデザインを通じてフィンランドの風景や物語を連想しながら楽しむことができるのです。
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デザインとは、まるでテキスタイルが編まれていくように素材や言葉、色や形など様々な要素が複雑に編み込まれて出来ています。シンプルだと言われるフィンランドデザインも、実際には言葉による「わかりやすさと物語性」、そして手仕事ならではの「クオリティと芸術性」が高い密度で編み込まれています。そのどちらもが、バランスよく共存しているからこそフィンランドのデザインは人々を惹きつけ続けるのでしょう。
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LAPUAN KANKURITのテキスタイル「SAARI」には、このような言葉が添えられています。
“ヘルシンキ在住のデザイナー、吉澤葵さんが自身のアトリエがある、ヘルシンキにほど近い小さな島、ハラッカ島での日々からインスピレーションを得てデザインしました。……SAARIは、吉澤さんがハラッカで最も好きな場所から見える、南にまっすぐ延びる水平線からインスピレーションを得て生まれたデザイン。デザインを表現するために生まれた、複雑な織りによる凹凸と不規則な質感も、まるでさざ波や澄んだ空気のようにかんじられます。”
島を意味する「Saari」という言葉と、そこに広がる物語もひとつの要素としてデザインに編み込まれていて、いっそうプロダクトが美しく見えてきますよね。
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また、この「まるで織物のような」デザイン哲学が、テキスタイルをはじめプロダクトや建築などあらゆる分野にまで及んでいるのがフィンランドデザインのおもしろいところ。例えばアルヴァ・アアルトは、イタリアの都市シエナの建築物をモチーフとしたテキスタイル「Siena」や、野菜のカブをモチーフとしたライト「Nauris」をデザインしています。その上、「Koetalo」と呼ばれる夏の別荘ではテキスタイルのようなパターンの壁も見られ、共通の考え方でデザインをしていたことがわかります。
言葉によるわかりやすさや物語性は、結果として、大人から子供まであらゆる世代に愛される普遍性と、世界中の人々に愛される国際性をフィンランドデザインにもたらしてくれました。美しいかたちや装いの中に編み込まれた物語達を、じっくりと覗いてみるのも良いかもしれません。
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