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Design&Art|フィンランドのアートと人を巡る旅 〈09.フィンランドのパブリックアート〉

アアルト大学院でアート教育やアート思考を学ぶまりこさんが、フィンランドのおすすめスポットやイベント、現地に暮らす人々の声をお届けします。

公共空間にある芸術作品「パブリック・アート」。パブリック・アートは美術館などに行かなくても、無料で誰でもアートを楽しむことができます。日本のパブリック・アートでは、大阪の万博記念公園にある岡本太郎の『太陽の塔』や、六本木ヒルズにある蜘蛛の彫刻、ルイーズ・ブルジョワの『ママン』などが有名なのではないでしょうか。今回は、ヘルシンキ近郊そしてアアルト大学内で見つけたパブリックアートをご紹介します。


ヘルシンキ駅のStone Guys

1. ランタンキャリアー

まずはこちら、エミル・ウィックストローム(Emil Wikström)の『Lantern Carriers』。この像はヘルシンキ中央駅の入口にあり、旅行に来たことのある方には馴染み深いかもしれません。エミル・ウィックストロームはフィンランドの黄金期を代表する彫刻家です。真剣な顔としっかり鍛えられた腕でランタンを持っている姿が印象的。友達のお父さんは幼い頃、ランタンが落ちてこないかいつも心配しながらこの場所を通っていたそうです。彫刻の男性は去年までマスクを着けていましたが、ワクチンを打ったのか、マスクは洗濯中なのか、最近はマスクを外して腕に絆創膏をしています。


遠くを見つめる記念碑

2. 記念碑 1

そして、この周辺で一番印象的なパブリック・アートが、ペッカ・カウハネン(Pekka Kauhanen)の『National Memorial of Winter War』。冬戦争とは、第二次世界大戦中にソ連がフィンランドに攻め入って始まった戦争です。2017年11月にコンペを経て選ばれたペッカ・カウハネンの作品は、ステンレススチールでできていて、丸い球体の上に穴が空いた腕のない人間の像が立っています。

3. 記念碑 2

4. 記念碑 3

球体にある窓を覗くと、丸いフレームに105枚の冬戦争の時の写真が飾られています。亡くなった人たちの傷が像の穴になり、その穴と同じ数が丸いフレームになっているのかなと思うと、胸が締め付けられました。とても平和な印象のあるフィンランドですが、今も兵役があります。記念碑を見て、大国に挟まれて独立を勝ち取ったフィンランドの歴史を感じました。


小さな太陽系

ヘルシンキに隣接する都市・エスポーには、少し不思議なパブリック・アート、太陽系を10億分の1スケールにした模型が並ぶ『Pajamäki Solar System Scale Model』があります。アアルト大学のキャンパスもエスポーになり、友人と回ってみることにしました。

6. 太陽系 1

上の写真は木星です。森の中にひっそりとあるので見逃してしまいそうになりました。

7. 太陽系 1

こちらは地球。地球だけ他の惑星と違い、球体ではなく尖ったノコギリのような形をしています。

8. 太陽系 1

10億分の1のスケールでも見て歩くのに2〜3時間かかり、それが10億倍と考えると途轍もないなと体感しました。小さな太陽系がエスポーにもあると思うとロマンを感じます。


アアルト大学内のパブリックアート

5. カタログ

One Percent For Art」と呼ばれる公共建築費用の1%をアートに使うという考えがあります。アアルト大学もその考えを取り入れ、建築費用の1%を大学内にあるアート購入に充てています。フィンランドの大学でこの考えを取り入れたのはアアルト大学が初めてだそうです。アアルト大学の卒業生、教授、学生など、大学にゆかりのあるアーティストの作品やコンペで選ばれたたくさんの作品が、アート学部とビジネス学部のキャンパスにそれぞれのテーマで飾られています。

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アート学部のキャンパスにある作品のテーマは「Global Equality」。人種・年齢・国籍・文化を超えて作り出す新しい価値の創造という思いが込められています。

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いつもキャンパスに行くと見上げている、キルシ・カウラネン(Kirsi Kaulanen)の『Lumen』。この作品は、フィンランド神話に出てくる、地球と空を結ぶ支柱「Sammas」をモチーフにしています。私は最初見た時に、空から滝が流れてくる様子を想像しました。人が動くと少し揺れてキラキラと光を反射するので、建物の中に水が流れているような雰囲気を生み出します。人と自然とのつながりを表現しているこの作品のパーツは、150種類の絶滅に瀕している世界中の植物や花をモチーフにしているとのこと。それを聞くと、地中に根を張る木々を逆さにしたようにも見えてきます。

8. ビジネス キャンパス

ビジネス学部のキャンパスでは、アートが知見や視点を広めるきっかけになるようにという思いから「Human Approach」、人間の介入や行動をテーマにした作品が集められています。

11. ビジネス キャンパス

ただ、どれも人間が中心に置かれている作品ではなく、何気ない日々の中で見過ごしてしまう空間を観察して、人間であることに感謝できるような作品が選ばれています。

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その中でも、食堂の奥の非常階段にあるアーティストグループ・IC-98の作品、『The Mare Tranquillitatis』が特に私のお気に入り。「Mare Tranquillitatis」は「静かの海」という意味で、月面にあるいくつかの海の中でも、地球に生命が誕生したのと同時に形成され、また、人類が初めて着陸した場所でもあります。誰もいない静かな非常階段の黒い壁、白い階段に包まれていると、月にいるのはこんな感覚なのかなと思います。

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一見何の変哲もない階段に見える足場をよく見てみると小さな小窓があり、その中には砂や木などの様々な資源が入っています。自然の力を借り、共存しながら、数十億年という時を経て今があるということを感じさせます。


普段何気なく目にしている風景には、実はたくさんのアート作品が隠れているのかもしれません。そして、その作品に込められた街の歴史や人々の思いを知ると、いつもの場所が急に新鮮に思えてくるものです。

日本交通文化協会が日本にあるパブリックアートの検索サイトを設けています。ぜひお近くのパブリックアートを楽しんでみてはいかがでしょうか。

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Instagram: @ma10ri12co
https://note.com/finlandryugakuki/

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