見出し画像

【報道機関必見】メタバース取材どうする!?元地方紙記者のヘビーユーザーが伝授!

 Facebookの社名が「Meta」に変更してから社会的に注目されている「メタバース」。Webメディアに留まらず、連日テレビや新聞の紙面を沸かせています。特にテレビや新聞の記者の方は「メタバースって何だ?」と疑問に思っている方も多いと思います。報道の基本は現場を歩くこと。実際に生きている人間に会って声を広く届けるからこそ、社会の木鐸としての存在意義を果たします。

 仮想空間と言えど、実質的に人間が存在している「メタバース」はまさに現場。メタバースで生きている人間の本当の姿を伝えるために、元地方紙記者で、プレイ時間1500時間を超えるヘビーユーザーの私、蘭茶みすみが、報道現場から見た「メタバース取材の始め方」をお伝えしたいと思います。

メタバース(Metaverse)って?

 メタバースとは、「後発の(Meta)」と「宇宙(Universe)」を掛け合わせたSF小説「スノウ・クラッシュ」由来の造語で、広義にはインターネット上に構築された3次元仮想空間を指します。現在注目されている狭義の「メタバース」は、「VRChat」や「cluster」「NeosVR」などのいわゆる「ソーシャルVR」と言われている概念が近いです。仮想空間で、現実の社会生活と同じように、VRで実際に会っているような交流・活動ができます。

記者がVRヘッドセットでメタバースに入る意義は?

 一度は取材対象者とVRヘッドマウントディスプレイを被った状態で会うことをお勧めします。PCのデスクトップでもメタバースは使えますが、体験度で実際のVRユーザーとの乖離が生じます。デスクトップからはゲームのキャラクターに見えますが、VRでは現実と同じようにそこに人がいて、そこに世界があります。ここが個人的には現代メタバースブームの最大の理由だと思っています。この臨場感や没入感を体験せずに、すべてをわかったように書いてしまうと、そのメディアはメタバースユーザーからいい評価を受けない可能性があります。

 また、VRが使える場合、絵づくりで大きな効果を発揮します。メタバースで使えるカメラ機能を使いこなし、映画やドラマ、ミュージックビデオを制作しているアーティストも現在では多数います。報道写真や映像でも大きな効果を発揮するでしょう。

機材の選び方は?

 「イベントを開いている」「生活している」レベルのメタバースユーザーが、実際に使用している機材は「Quest2」のようなヘッドマウントディスプレイだけではありません。多くのヘビーユーザーが現在体験している「VRChat」や「NeosVR」のようなメタバースには、3D空間や3Dアバターをリアルタイムで描写し、体の動きを反映する「グラフィックボード」「ビデオカード」と言われる部品を搭載した高性能なPCが必要です。記者の持つ取材用PCや、制作環境で使われるPCではメタバース利用者に会って取材するには性能が足りません。

 しかし、予算の関係上すぐに高性能機材を揃えられない場合があると思います。そこで、メタバース体験度を無~強まで分類して必要機材の選び方をお伝えします。

メタバース体験度「無」

 メタバース利用者にZoomなどの映像通話で話を聞く方法です。VRユーザーは主にDiscordというチャットアプリを使用していますから、Discordをインストールしてアカウントを作ることをお勧めします。あとは取材側は通常の方法で映像通話アプリを立ち上げればいいだけです。メタバースユーザー側にはストリーミングカメラで、メタバース側の映像と音声を送信してもらいます。

必要機材:Zoom会議ができる取材用PC


メタバース体験度「弱」

 PC単体でメタバースに入る方法。高性能グラフィックボード搭載型のPCが必要です。「ヨドバシカメラ」「ビッグカメラ」などの家電量販店や、「TSUKUMO」などのパソコンショップで約20万円以上で販売されている「ゲーミングPC」と言われるPCが該当します。よくわからなければ店側に「VR対応のPCが欲しい」と伝えましょう。この方法では「VRChat」「NeosVR」に入ることができます。

必要機材:グラフィックボード搭載PC

メタバース体験度「中」

 VRヘッドマウントディスプレイ「Meta Quest2」を使う方法です。Quest2では、「VRChat」の一部のワールドに入ることができます。比較的実際のヘビーユーザーに近いVR特有の体験が可能です。しかし、大半のメタバースユーザーはWindowsPCを使っており、Androidのスマートフォンと同じOSを使っているQuestで表示できる3Dアバターを持っていないため、アバターが正しく表示されません。

必要機材:Meta Quest2

メタバース体験度「強」

 グラフィックボード搭載の高性能PCに、VRヘッドマウントディスプレイ「VIVE Pro」や「Meta Quest2」を接続する方法です。大半のメタバースユーザーと同じ世界を見ることができて、同じ機能を使うことができます。現代のメタバースは、ゲーム配信プラットホームが提供する「SteamVR」を基本に動いているため、SteamVRをインストールしましょう。

必要機材:VRヘッドマウントディスプレイ+グラフィックボード搭載PC


スマホ対応メタバース「cluster」を使う

 メタバースプラットホーム「cluster」はスマホからQuest2、PCVRまで対応しています。記者はスマホや取材用PCにclusterアプリをインストールし、取材対象者とclusterで会うことができます。

必要機材:スマートフォン、PC、VRヘッドマウントディスプレイ

VR機器のレンタルもできる!

 VR機材のレンタル事業を展開しているアストネスという企業もあります。

メタバースに入ろう!

 多くのメタバースプラットホームはゲーム配信プラットホーム「Steam」で配信されています。Steamにアカウントを開設したうえで、ダウンロードしましょう。また、それぞれの「VRChat」「NeosVR」「cluster」などのメタバースプラットホームでもアカウントを別に開設しましょう。

 VRChatはプレイ人口が多く、文化が発展しています。NeosVRは最先端のメタバースで、VRでプレイしながらワールドやゲームを制作できます。clusterは使える端末の幅が広く、一度に大勢が集まることができます。取材対象者から、どこのメタバースで会うかよく確認を取りましょう。

アポの取り方

 メタバースユーザーは「なりたい自分」「自分で表現した自分」を大切にしています。「アバターの見た目」「声」「ハンドルネーム」を統合した「存在」のような概念を、芸能人の芸名や、文化人の雅号のように「自分の存在」として用いています。芸能人の「ゴー☆ジャス」氏や「デーモン閣下」氏をイメージしていただけると近いかもしれません。肉体側の姿を聞き出したり、掲載することは、ゴー☆ジャス氏やデーモン閣下氏に「その姿をやめるように」要求することと同じようなことですから、きちんと失礼がないように配慮して同意をとりましょう。

 メタバースユーザーの多くはTwitterで発信、交流をしています。#VRChatや#cluster、#NeosVRのタグで検索をかけると見つかるかもしれません。フォローをしたら、最初にリプライやダイレクトメッセージでアポを取りましょう。Discordというチャットアプリを使うメタバースユーザーが多いですから、記者もDiscordを開設、取材対象者に教えることをお勧めします。

取材してみよう!

 メタバースユーザーは、メタバースの外では「存在」を保つことができませんから、テーマ上の理由がなければ、基本的にメタバースか通話アプリを通じて取材をするように心がけましょう。また、「バ美肉」のように性転換をしている場合は、ボイスチェンジャーなどで声を変えている場合がありますから、特に女性メタバースユーザーと電話する場合は同意をとってからにしましょう。

 メタバースは、「ワールド」と「インスタンス」という2重の世界で構成されています。「ワールド」は、実際に世界が表現されたもの。「インスタンス」は、平行世界や鍵のかかった部屋のように、物理的に相互に行き来できない空間のパターンです。メタバース取材では、「ワールド」という概念より、「インスタンス」の方が重要です。鍵のかかった「インスタンス」という部屋に、実体のある空間「ワールド」があると解釈できるかもしれません。「インスタンス」は、「誰と会えるか?」を選ぶことができます。

 VRでメタバースに入る場合、メモを取ることが難しいため、同意を取ったうえでの録音、録画をお勧めします。メタバースの映像作品の多くは「OBS」という配信ソフトを使って撮影されています。「VRChat」では写真とストリーミングは同時にできないため、視線をそのまま録画することをお勧めします。高品質な映像が欲しい場合、メタバースフォトグラファーとして活動するユーザーにアポを取って協力してもらう方法や、取材対象者に映像を用意してもらう方法があります。

掲載時は権利関係の確認を!

 人工現実感とも言われるVR。存在するものは全て誰かの著作物です。商業メディアへの掲載は商用利用に当たる可能性があります。アバターやワールド、アイテム、BGM、効果音、それらを構成するアセットなどの部品のような概念が映りこんでしまった映像が掲載されると、権利上の問題が発生する可能性があります。取材に協力してくれるメタバースユーザーなど、詳しい人物に作者などを教えてもらい、直接本人に問い合わせることをお勧めします。過去には、メタバースワールドの一部が映り込んだことで、書籍が回収されるなどの例もありました。
 また、HMDなどのデバイスには、法人や商用利用のライセンスを別に定めている場合があります。こちらも確認することをお勧めします。

おすすめメタバースメディア

 突然メタバースに行っても、どこへ行けばいいのか?誰に会えばいいのか?はわかりません。事前に情報収集することをお勧めします。メタバースに関する情報を積極的に発信しているインフルエンサーやメディアを紹介していきます。

 Webメディア

インフルエンサー

企業・団体

ソーシャルVR国勢調査

 メタバースの生活実態は「バーチャル美少女ねむ」氏によって「ソーシャルVR国勢調査」として統計が取られています。調査では、プレイ時間や用途だけでなく、性の在り方や社会的な人間の関係についても興味深い結果が出ています。

メタバースと報道の可能性

 存在を自由に決め、空間を共有するメタバース。自分でデザインしたアバターを持つことは、自分の肉体と自分の表現したい存在が乖離している状態を解決することにつながるため、「カメラに不本意な自分の姿を載せたくない」という方を取材することもできますし、遠隔地や、政治的に危険な地域に住む人に対する取材にも使えるでしょう。メタバースインタビューという手段は、メタバースを題材にしているWebメディアでは既に一般的に行われています。

 メタバースの、空間を自由に表現し、共有できる特徴は、今後の普及によって、取材だけでなく、「伝える」手段にもなりえると考えています。私はVRChatで、立体日本地図ワールドを活用して、地理を語り合うイベント「空から日本を見る会」を開いています。また、フォトグラメトリなどの技術で現実空間を再現することもできます。被災地の状況を再現したうえで、被災者と読者を実際に呼んで、当時の状況を聴くなど、「体験する」「話し合う」を通じたソリューション(問題解決)ジャーナリズムのような使い方ができるでしょう。


 「属性を超える」「他者の経験を体験できる」というメタバースの特性は、障がい当事者のような不自由がある人の体験を追体験することにもつながります。

最後に

 空間と存在のプラットホームと言えるメタバース。今後、「空間が欲しい」「存在を決めたい」という多様性に合わせてさらに普及していくでしょう。「伝える」という点では、既存の報道と地続きの概念です。私の願いとしては、国民とともにあり、権力を監視する立場にある報道機関こそ、メタバースを活用して欲しい。新しいメディアであるメタバースを報道が活用することは、報道の信頼だけでなく、最終的にはわが国の民主主義を復活させることだと考えています。

 また、メタバースは、「家族」や「性」といった「人間の在り方」を根本から問いかけてきます。これからの多様性の時代、メタバースが果たす役割は大きくなります。多様な声を伝える報道機関だからこそ、メタバースを積極的に活用して欲しいのです。

 もし、メタバース取材についてわからないことがありましたら、私、蘭茶みすみまでお気軽にお声がけください。TwitterのDMを常に開放しています。取材のサポートも可能です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?