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羊角の蛇神像 私の中学生日記⑤

空気の読めない私とは、具体的にどんな子どもだったのだろうか。
その辺りを詳しく思い出し、整理していきたい。

バトルフィールドの戦士たち 1

このシリーズを書いて良かったと思うことがある。
それは、当時のことを文章化する中で、色々な気づきがあった点である。

私はずっと、私が学校に行けないことを「集団」や「群集心理」に耐えられない違和感を覚えたからだと考えていた。しかし、それは正しい分析ではなかったと思うようになった。

中学に入って最初のホームルームで、順番に自己紹介をした。教室の廊下側の席からひとりずつ立って、名前と自分の性格を一言で言う、みたいな内容だった。
私は芸術家だったので、そういう場面では自分の独自性を面白く表現することが大切だと考えた。
しかし、級友たちの自己紹介は、私からすれば異様なものだった。

〇〇です。性格は明るいです。
〇〇です。明るいです。
〇〇です。明るいです。

私は恐怖を覚えた。明るいやつが早口で事務的に「アカルイデス」なんて言うわけがない。つまらなそうな顔で、言うわけがない。

群集心理とか同調圧力と言うのだろうか。
個性を殺して目立たないようにする彼らの自己紹介を聞いていて私は恐怖を覚えた。

クラスの半分と少しが過ぎた辺りで私の順番が来た。

私はこう言った。

ぼくの性格は暗いです。
小学生の時、クラスの憎いやつ数人をドラえもんのスモールライトを照射するような感じで虫けらと同じサイズにして、「スパルタンX」的な横スクロールのバトルフィールドと虫の飼育ケースのレイアウトを混ぜたようなところで虫やネズミと戦わせるのを想像して、絵が得意なので落書き帳に描いたりしていました。
ぼくは、彼らにとって神のような存在で体が巨大ですが、虫けらのようにちいさな彼らをいたぶるだけでは心が痛みますので、虫や小動物を相手に戦う中で段々強くなっていく彼らが、いつか自分を倒すという少年漫画的な目的を彼らに与えました。
だから、5階建てのバトルフィールドは、1階から徐々にボスが強くなっていきます。
アリ・スズメバチ・カマキリ・カミキリムシ・ネズミと段々強くなっていくので、順当にボスを倒していけば、その内猫や犬を倒せるようになってその次はぼくが相手です。
しかし、ぼくは性格が陰湿なので、そうなる前にキッチンハイターとかトイレマジックリンのような、手をよく洗わないと肌が痛くなるような、刺激臭のある洗剤をたくさんかけて弱ったところで水でよく洗い流してボロボロの所になった所でアリ地獄に落とすとかすると思います。
今日からよろしくお願いします!

バトルフィールドの戦士たち 2

このシリーズで初めて嘘を書いたことを許してほしい。
自己紹介で自分が何を言ったか覚えていないけど、「アカルイデス」は言わなかったと思う。
あと、横スクロールのバトルフィールドに1/100サイズの級友と虫たちを上手に描いたのは本当。
そっち本当なんかいと突っ込んでくれたらうれしい。

小学4年生の頃、私はそのバトルフィールドの戦士たちと表面上では仲良くしていた。彼らは運動神経が良くて女子にもモテるそこそこの中流家庭の子どもだった。
その中のひとり、Nくんが近所に住んでいて、集団登校が一緒だったから学校でも一緒に遊んでいたのだと思う。

私は死ぬほど運動が苦手だった。
ちいさい頃から、友だちに遊びに誘われても、「ひとりで絵を描きたいから」と断るような陰テリだった。

カナヘビやイモリを集めるのが好きだった。
大小のカナヘビを捕まえて、油粘土で馬車のようなものを作り、彼らにくっつけて引きずらせるなど独特で残酷な遊び方をしていた。

ある時、水を入れたビンの中に30匹ほどのイモリと1匹のカナヘビを入れた。カナヘビはトカゲの仲間であり、水の中で呼吸はできない。
ビンの中で蠢くイモリが作る複雑な水流の中で、弱ったカナヘビは目を細めていた。
その時の光景を今でも覚えている。
漆黒の体に腹部の禍々しい赤を持つたくさんのイモリたちの中で、ひとりぼっちで死にゆくカナヘビに、7歳の私は自分を投影したのかも知れない。
それはとても美しかった。

バトルフィールドの戦士たち 3

Nくんと学校に行きながら、私はキン肉マンの内容を丁寧に伝えていた記憶がある。1コマ1コマを思い出しながら、かなり丁寧に説明していた。

中学生の時も、ジョジョの第3部の、judgmentと戦う回を鑑別書に入るようなヤンキーに話して聞かせたことがあった。
鑑別書に入ったヤンキーたちと交流する話は、今後このシリーズで紹介する予定だ。

荒木飛呂彦「ジョジョの奇妙な冒険」より

それで、Nくんは野球が好きな正直者だった。NくんはMさんが好きだった。

私は最初、最も家が近いという理由でNさんが好きだった。「バラのようにかれんな君が好きだ」と紙に書いた。自分の名前を書かずにそれを彼女のうちの郵便受けに入れた。怖かっただろうな。

Nさんのことを好きだったのには、もうひとつ理由があった。
夏休み、学校のプール開放に行った時のことだ。
プールに人工的に渦のような流れを作るお楽しみタイムの時、Nさんの太ももが私の足に触れる事件があった。
Nさんと言うか、太ももの感触が好きだったのだろう。

私は早熟だった。
6歳の時に父親の机を漁っていて、劇画(エロ漫画)雑誌を読んでしまったからだ。しかもSM系のハードなやつだった。
あと、私には兄弟のように一緒に育った従姉がいて、私たちは布団に入って祖母が観る土曜サスペンス(のちの火サス)をいつも観ていた。
私なら子どもに見せない。当時のあれはかなり刺激的だったし性的で暴力的だった。
私の祖母は母から「それって被爆じゃない?」と指摘されるまで原爆の被爆者であることに思い至らなかった愚かな人なので、子どもにとって不適切なテレビという発想は無かったし、それは当時の時代的な背景もあるかも知れない。
ちなみにその従姉とは金銭トラブルで疎遠になった。
祖母は昭和天皇と手塚治虫が亡くなった頃に逝った。
小言ばかり言われたけど好きだった。

話が飛び飛びになる。
記憶とはそういうものだ。

バトルフィールドの戦士たち 4

Nさんのあとに好きになったのはKさんだった。
Kさんの話はまたあとでする。バトルフィールドの話にも関わってくる重要人物だ。Kさんは本当にかわいかった。

そう、登校時にキン肉マンの話をNくんにしていた件について。
Nくんは素朴な野球少年だったので、私のキン肉マンの読み聞かせを熱心に聞いていたし、私たちは対等だったと思う。
しかし、のちにバトルフィールドで戦うことになるNくん以外のグループの男子たちは、私のことを疎んでいた。
たぶん、へんてこなことを口走っていたのだろう。
私がいかに空気の読めない子だったかの、具体例は必要ないだろう。
この回を読めば、子どもの頃の私がいかに陰湿でマイペースだったかはわかってもらえただろう。

他にも、乾燥した犬の糞をこっそりと舐めてみたり、おたまじゃくしを舌の上で潰して味わったりした。
私はそういう、奇妙な子だった。

時々、空気を読まない異様な言動があった私は、運動が苦手だったので彼らをいらつかせたことだろう。

ある休み時間、私たちはドッヂボールに興じていた。
私はボールを投げるのも受けるのも苦手だったので、とにかくボールを避けるだけの存在だった。
私が早々に当てられて外野に出ると、敵チームにいたバトルフィールドグループNo.2のEが、ボールを拾った私の前に立った。Eは無防備な体勢で私に微笑んだ。

「当てろ」と目で語りかけてくる。
私は彼にボールをぶつけた。Eは外野へ、私は内野へ行った。
内野に入った私に向かって、敵チームにいたバトルフィールドNo.1のWが思い切りボールを投げた。
スポーツ万能のWのボールが愚かな私の皮膚に食い込む。
恥ずかしさで焼ける私の心を嘲笑いながら。

そうして私は、彼らが私を内野に招き入れた狡猾さに応える形で、私が作った想像のバトルフィールドへ招き入れたのだった。
私は当時「魔太郎がくる‼︎」を読んで、ひどくsympathyを覚えたものである。

藤子不二雄A「魔太郎がくる‼︎」より

バトルフィールドの戦士たち 5

素朴な野球少年だったNくんも、途中で私へのからかいに参加したのでバトルフィールドに参加させた。
ここで我らがバトルフィールド縮小人間チームのメンバーを改めて紹介する。

  1. W:体が大きく顔と運動神経が良い 残忍

  2. E:マッシュルームカットがチャームポイントのぼんぼん グループのNo.2で顔が良い 陰湿

  3. N:素朴な野球少年だったが徐々に悪に染まっていった 顔はイマイチ

  4. R:顔と育ちが良く比較的印象は良い 恋敵で遠足の帰り道、ともにKさんに告白した

  5. 私:独特の世界観とサイコパス的言動とウンコもらしたまま2時間授業継続した根性でいじめのエスカレートを我知らず阻止したラッキーボーイ 顔はかわいい 空想世界を支配する

かわいい(左)

メンバー紹介で軽く触れたが、遠足の帰り道に好きな女子に告白しようという流れになり、私とRはKさんに、NくんはMさんに告白した。
ダッシュで対象に接近して「好きやで!」と喚いてダッシュで逃げるヒット&アウェイ式のやり方だった。

小学4〜5年生のことなので、それからつき合ったとか早過ぎるSEXとかの展開は無かったはずだ。

この話には後日譚がある。

19歳の頃に最寄りの駅でKさんに偶然会った。
私はKさんに声をかけ、電車の中で当時のことや現在の生活について話をした。
Kさんにたずねた。
「誰か好きなやつはいたのか?」と。

それは意外な人物だった。

気になるKさんの恋の相手とは?
脱線に次ぐ脱線の果てに、私は学校へ行くことができたのか?
て言うかどうして学校に行けなくなったのか?

物語は急速に進み出す
羊角の蛇神像⑥へ続く

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