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短いおはなしのまとめ

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自分で書いた、短編と呼べないくらい短いお話をまとめています。ほとんど続いていませんが、たまに設定が同じ時があります。
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記事一覧

傲慢な男の或る夏の日

 「嘘つきだよ」 そうだね。黙ってコーヒーを飲みながら、瞬きだけで同意をした。 「分かって…

燈子
8か月前
3

偶然とか自然現象とかそういう類のもの

 幸せでありたいと願っていた。そういう風に思っていた。全部気のせいだった。最初から望むも…

燈子
3年前
4

だって許されているからもう救われているんだ

 魂を失っても人は生きていけた。これだけは奪わないでと懇願したものを自ら捨てた次の日も、…

燈子
3年前

悲しいねって誰かに言った

 アルミ缶の潰れる音がして、そうして私の世界は終わりを告げた。後には何も残らない、ひとつ…

燈子
3年前
1

恨んで羨んで焦がれている

 わかれて、違って、終わってゆく。全部が嘘で、全部が本当だ。羨んでいたあの子も、きっと誰…

燈子
4年前
1

余ったイチですらない

 足元ばかり見て歩いていた。そのうちにあまりにも美しくない後ろ姿に辟易して、今度は遠くを…

燈子
4年前
2

ミサゴの仔

 腕を広げた。そのままくるっと一回転。これが僕の世界。上を見上げて、それから後ろに続く獣道を見下ろした。これも世界。遠くで母さんが呼ぶ声がする。それもまた世界。いつだって、世界は広がったり閉じたりしている。  母さんがもう一度僕を呼んだ。余程逼迫しているようだ。その声は先ほどよりも大きく強い音だった。 「今いく!」 高い音で返事をして、駆け出す。助走をつけて、山頂から母さんの声がする方まで一気に滑空した。遠くの方で煙が立っているのが見えた。  両腕を大きく羽ばたかせ、母さん

誰かの特別でありたいと祈った

 部屋の隅に積み上がった箱を潰し、紐で縛った。もう着ないであろう服や靴をビニール袋に詰め…

燈子
4年前
5

だってもう、誰も守ってくれない。

 ぎざぎざになった爪先に、赤いマニキュアを塗った。安っぽい赤が、ぬめぬめと光って、終わっ…

燈子
4年前
1

奪われるだけが人生だと

 救いも祈りもない。飲み込んだ言葉は吐き出せない。黒い塊になって、ずっとずっと胃の底に沈…

燈子
4年前
1

きっとその代わり、別の誰かが救われてゆく

 「大丈夫だよ。毎日楽しいよ。私に何を言わせたいの?」最後に言われた言葉がぐるぐると頭を…

燈子
4年前
1

でも、許してもらわなければ入れない

 欲しいものは、称賛ではなく承認。止まない雨はないなんて莫迦みたいな言説ではなくて、大丈…

燈子
4年前
2

ある秋の穏やかな日

 明日に変わってゆくことが、堪らなく恐ろしい。だから朝を拒絶して、いつまでも今日が終わら…

燈子
4年前
3

どこかのメルヘン

 嘘を吐き続ければいつしか本当になると思っていた。空から星は降ってくるし、月も後ろをついてまわる。海の底では宴会が繰り広げられて、人魚の子は陸で蝋燭に絵を描く。そして、未来から今日を観測しに来た人と、今すれ違う。言い聞かせ続ければ、どこかでそういう世界が出来上がってゆくのだと、漠然と信じていた。ちかちかと点滅する街灯の下、すれ違った男性の電話の声が遠ざかってゆく。買い物を頼まれて、それに迷惑そうに答える声だった。ざりざりと爪先で地面を擦っても、固いコンクリートは灰色のままで、