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小説「儚い」シリーズ

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文:家猫しろ、絵:助手くんの、ファンタジー短編小説シリーズ
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宝箱、それは儚い

宝箱、それは儚い

「ねえ、まだなの?」
 女戦士が気だるそうに言う。こいつは冒険者の酒場で初めて会った時からこういう調子で、いつも俺の事を見下していた。ただでさえ、たいまつの灯かりしかない上、蒸れてじめじめした迷宮の奥深くで、女の言動は俺のいらいらをさらに逆なでた。俺は宝箱を目の前に、サシガネ、ノコギリ、ゲンノウ、ノミ、チョウナ、針金、ワイヤーでひと揃えの、盗賊の七つ道具を自分の周りに並べながら、うるせえな、てめえ

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宝石、それは儚い

宝石、それは儚い

 街のカジノで奇跡が起こった。そこかしこから、おめでとう、と祝福の声が聞こえてきた。まさかのスリーセブン。ついに私に神が微笑んだのだ。私はいつものくせで、愛用していた魔女の帽子のひさしを、左右から両手で掴み、ぎゅっとひっぱる。それから嬉しさを、深く被った帽子に隠すようにして笑った。うひひっ、と声が出た。
 私はカジノの従業員にお願いして、大量のメダルを物品交換カウンターへと運んでもらう。メダルは全

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魔城、それは儚い

魔城、それは儚い

 我輩が、自らデザインしてやった、人間のしゃれこうべの飾りをつけた、観音開きの大窓に、両手を当てがう。この大窓は、いつか冒険者がここに辿りついたまさにその時に、我輩が登場してあのセリフを言う為の場所であった。あのセリフというのは、人間共をすくみあがらせるのに十分な効果を発揮する恐怖を具現化したような、そんな言葉だ。しかし我輩が、人間に対してこの言葉を発する機会は未だ訪れない。我輩が復活を果たしてか

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鍵束、それは儚い

鍵束、それは儚い

 カラン、コロン。
 店先で来客を示す真鍮の鐘が鳴った。
 入店した男は、腰に皮の袋をぶら下げたこそ泥だった。物腰を見ればだいたい客がどんな職業なのかくらい、わしにはすぐに見破れた。コソ泥が万引きでもしにきたか。こんな町外れの小さな、古びたわしの店にやってくるという事は、よほどせっぱつまっているのだろう。わしはそしらぬ顔をして、こそ泥の様子を仔細に監視した。

 わしは骨董品を扱う道具屋を営んでい

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