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FRB金融政策と世界経済のリスク展望:国際通貨基金のチーフエコノミスト


 8月23日(金)のジャクソンホールでのFRB パウエル議長のスピーチ後に行われた、国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストであるピエール=オリビエ・グリニャシャ氏へのYahoo Financeのインタビュー内容を紹介します。
 FRBの金融政策に対する評価や今後の見通し、新興国経済への影響を含む世界経済のシナリオ。また世界経済の包括的な成長見通しや貿易摩擦の可能性などについてコメントがなされています。 ご参考下さい。

[主なトピックス]
(1)米国の金融政策
  
・FRBの金融政策は、現在の米経済状況を踏まえて適切であると評価
  ・年内に最低1回の利下げ。但し、回数やタイミングは経済動向次第
  ・利下げによる金利差縮小が新興国通貨を支える
  ・一方で、経済活動の冷え込んだ場合、新興市場に逆風となる

(2)世界経済
  
・世界的にインフレは落ち着きつつあるもサービス分野で依然根強い
  ・世界経済成長率は、2023年 3.2%、2024年 3.3%と予測
  ・先進国の中央銀行の緩和策転換によるインフレ再燃や金融市場の
   ボラティリティ上昇リスクに注意

(3)国際貿易
  
・貿易制限的措置の導入には慎重であるべきと警告




(1)インタビュー

[ジェニファー・ショーンバーガー](Yahoo Finance)
 
国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミスト、ピエール=オリビエ・グリニャシャ氏に独占インタビューをさせていただきます。ピエールさん、お越しいただきありがとうございます。お会いできて光栄です。

[ピエール=オリビエ・グルンチャス](IMF)
 お招きいただきありがとうございます。

[ジェニファー・ショーンバーガー]
 7月の雇用統計を受けて、米国経済が減速しているのではないかとの懸念がありましたが、その後、失業保険申請件数や小売売上高といった、より安心できるデータも出ています。
 それでもなお、一部では、FRBが後手に回っているのではないかとの意見もあります。あなたの見解はいかがでしょうか?FRBは後手に回っているのでしょうか?また、米国経済がハードランディングする可能性は高まっているのでしょうか?

[ピエール=オリビエ・グルンチャス]
 我々は、ここで一度立ち止まって、現在の状況と1年、あるいは1年半前の状況を振り返ってみるべきだと思います。まず重要なのは、米国経済が極めて好調であるということです。期待を上回る経済活動が見られ、インフレも徐々に落ち着いてきています。年初はやや鈍化したものの、再び落ち着きを取り戻している状況です。全体的に見ても、米国経済は非常に良好な状態にあります。
 確かに、労働市場が少し冷え込み、失業率が上昇し、退職や採用の動きが減少していることも事実ですが、これは依然として強い経済基盤からの変化です。このような状況から考えると、FRBの方針は非常に適切だと思います。現在、インフレのリスクが低下しているとされており、パウエル議長も、今後のインフレ動向に労働市場が大きな影響を与えるわけではないと述べています。したがって、FRBは今後、経済活動を維持しつつ、さらなるインフレの抑制を図っていくことを検討していると考えられます。

[ジェニファー・ショーンバーガー]
 今朝のパウエル議長の発言を受けて、今秋の金融政策の方向性についてどのようにお考えですか?単に9月に25ベーシスポイントの利上げを行うかどうかだけではなく、大きな転換点や次のサイクルについても注目すべきですよね?

[ピエール=オリビエ・グルンチャス]
 先進国の多くの中央銀行がすでに利下げを開始しています。先週の欧州中央銀行、イングランド銀行、カナダ銀行などがその例です。そして、インフレ率が目標に近づいていることが見られます。国際通貨基金(IMF)では、今年末にはPCEコアインフレ率が2.5%前後になると予測しており、来年には目標値に戻ると見込んでいます。したがって、FRBが中立的な金利に戻す動きが出るのは自然なことです。
 もちろん、これが実際にどうなるかについては、私たちも9月にその一部が進むと予想していますが、そのペースは、インフレや経済活動において予想外の事態が起こるかどうかによって左右されるでしょう。

[ジェニファー・ショーンバーガー]
 つまり、今年末までに3回の利下げがあるというような具体的な予測は、今のところ持っていないということでしょうか?

[ピエール=オリビエ・グルンチャス]
 以前の報告では、年内に1回程度の利下げを予想していました。しかし、7月の更新以降、労働市場がさらに冷え込み、インフレも一段と緩和していることを考えると、それ以上の利下げが期待できるかもしれません。

[ジェニファー・ショーンバーガー]
 おっしゃる通り、欧州中央銀行やイングランド銀行はすでに利下げを開始していますが、米国は少し出遅れていますね。円キャリートレードの巻き戻しも見られました。米国が利下げに踏み切った場合、どのような影響が考えられるでしょうか?どのようなドミノ効果が予想され、世界の金融市場にどのようなリスクが生じる可能性があるでしょうか?

[ピエール=オリビエ・グルンチャス]
 2つの可能性があると考えています。1つ目は、FRBが政策金利を引き下げ始めることで、米国と他国との金利差が縮小し、特に新興市場経済の通貨を支えることになるというシナリオです。これにより、新興国も自国通貨の下落リスクが減り、さらなる利下げが可能になるでしょう。これは好ましいシナリオです。
 一方で、経済活動が急激に冷え込み、FRBがより積極的に緩和策を取る必要が生じる場合には、大きな市場の変動が発生する可能性があり、新興市場経済にとって逆風となるでしょう。
結局のところ、世界の市場がどのように反応するかは、経済活動の冷え込みのペースによって左右されると思います。

[ジェニファー・ショーンバーガー]
 インフレについてはどうでしょうか? 7月に発表されたグローバル経済見通しの中では、サービス部門のインフレが粘り強く、インフレが緩やかにしか低下しないため、金利は長期にわたって高止まりする可能性があると述べられていましたが、現在の世界的および米国の状況を踏まえて、まだその見通しを維持されていますか?

[ピエール=オリビエ・グルンチャス]
 世界を見渡すと、一部の国では依然としてインフレ圧力がかなり大きいことがわかります。例えば、ブラジルのような国があります。そのため、各国ごとの状況をしっかりと区別する必要があります。全体的なインフレ率を見ると、確かに良い方向に向かっていますが、サービス分野においてはインフレが根強く残っていることが見受けられます。これが今後どの程度続くかは、労働市場や経済活動の冷え込み具合に一部依存するでしょう。現時点では、これが緩やかになり、サービス分野のインフレも落ち着くと予測されていますが、それでもインフレが上振れするリスクは残っています。

[ジェニファー・ショーンバーガー]
 現在の世界経済成長の見通しについてはいかがでしょうか? 7月には、今年の成長率を3.2%、2025年を3.3%と予測していたと思いますが、その見通しに変化はありましたか?

[ピエール=オリビエ・グルンチャス]
 現在、次回の世界経済見通しに向けた評価を進めており、10月に発表する予定です。現時点での予測は、先ほど引用していただいた7月の更新内容と同じで、今年の成長率は3.2%、来年は3.3%となっています。7月の更新以降、特に米国を含むいくつかの地域で経済活動の冷え込みや緩和が見られますが、それが世界的な見通しにどのように影響するかはまだわかりません。

[ジェニファー・ショーンバーガー]
 当局者は価格上昇圧力のリスクと、経済が低迷に陥る危険性をどのように天秤にかけているとお考えですか?また、これによって市場のボラティリティがさらに高まるリスクがあるのでしょうか?

[ピエール=オリビエ・グルンチャス]
 多くの中央銀行の使命は、まず価格の安定を確保することです。インフレが高い状態では、成長や経済活動にとって好ましくないため、インフレを抑えることが優先事項です。インフレが中央銀行の目標に近づくにつれて、例えば現在のFRBや他の中央銀行で見られるように、労働市場の圧力がインフレに大きな影響を与えなくなった時点で、より広範な経済状況を考慮する必要が出てくるでしょう。その段階では、労働市場や経済全体の活動が過剰に冷え込みすぎないよう、いわゆる、ソフトランディングを確実にすることを検討する必要があると思います。

[ジェニファー・ショーンバーガー]
 現在の世界経済を見渡して、最も懸念していることは何でしょうか?

[ピエール=オリビエ・グルンチャス]
 現在、先進国の多くの中央銀行が緩和策に転じていますが、この動きには注意が必要だと思います。依然として不確実性の高い環境下で、インフレが再び上振れする可能性もあります。その場合、一部の中央銀行は金利を長期間高めに維持せざるを得なくなり、それが金融市場における再評価やボラティリティを引き起こす可能性があります。
 数週間前にも、米国経済の急速な冷え込みと日本など他国の金利上昇への期待が重なり、金融市場における不安定な動きが見られました。このような事態は今後も起こり得るため、政策担当者はその可能性に備えるべきだと思います。

[ジェニファー・ショーンバーガー]
 この秋にかけて、世界の金融システムで何か破綻するリスクがあるとお考えですか?

[ピエール=オリビエ・グルンチャス]
 予測は常に難しいですが、「備えを万全にしよう」というメッセージが重要だと思います。市場の変動が発生した際に対処できるよう、適切なバッファーや政策手段を準備しておくことが大切です。

[ジェニファー・ショーンバーガー]
 話題を変えますが、7月の世界経済見通しで、貿易関税が国境を越えた悪影響を生み出し、報復関税を招くことで、コストのかかる“底辺への競争“(Race to the bottom)を引き起こす可能性があると警告されていましたね。
 トランプ前大統領がすべての米国輸入品に10%、特に中国からの輸入品に60%の関税を課すと提案していますが、もしこの政策が実施された場合、世界の貿易フローや経済にどのような影響があるとお考えですか?

[ピエール=オリビエ・グルンチャス]
 まず、はっきりと申し上げたいのは、国政選挙の文脈で特定の候補者の経済政策についてコメントすることは控えるということです。ただ、一般的に言えるのは、関税などの貿易制限的措置の導入については、慎重であるべきだということです。これらの措置は、世界経済に悪影響を与え、貿易相手国からの報復や貿易摩擦のエスカレーションを引き起こす可能性があります。
 ここ数年、多くの新たな貿易制限的措置が導入されてきましたが、それが経済成長や世界貿易に悪影響を及ぼし、我々が直面している課題への対応を遅らせる可能性があることを懸念しています。そのため、この分野では、慎重さを強く求めたいと思います。



(2)オリジナル・コンテンツ

 オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。

Yahoo Finance より
(Original Published date : 2024/08/25 EST)

[出演]
  国際通貨基金(IMF)
    ピエール=オリビエ・グルンチャス(Pierre-Olivier Gourinchas)
    チーフエコノミスト

  Yahoo Finance
    ジェニファー・ショーンバーガー(Jennifer Schonberger)



以上です。


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だうじょん


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