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リファービッシュ電化製品市場を牽引するフランス発のスタートアップ

著・グラフィック:吉岡 大樹

2021年11月17日 - バックマーケット社でアジア成長・オペレーション戦略を牽引するアレクシス・ジェローム氏をクラブハウス上でお招きし、フランス発のスタートアップが日本市場へ進出する際の課題や経緯などを中心にお話を伺いました。

バックマーケットは2014年に創立されたフランス発のユニコーンスタートアップです。リファービッシュ(一度市場に流通した中古品などを新品同様の状態に整備をして販売する事を指す)された電化製品(タブレット、スマートフォン、等)をEコマースプラットフォームにて販売をしています。2021年の5月に、世界中の累計ユーザー数が500万人を突破し、総額3億3500万ドル(380億円相当)のシリーズD資金調達を実施した事で話題になりました。

アレクシスさん、本日はお時間をいただきありがとうございます。簡単に自己紹介を頂いてもよろしいですか?

皆さん、こんにちは。アレクシス・ジェロームです。2016年にバックマーケットに入社をした時には創立後まもない頃でした。現在はアジア成長・オペレーション戦略の責任者を努めています。

当社は昨年、アジアへ業務を拡大する際の最初のステップとして、市場規模が大きい日本への市場進出を決定しました。日本へのローンチ後、事業発展のコアメンバーとして現在は韓国に拠点を置いています。

バックマーケット創業の経緯や、バリュープロポジションについて教えていただけますか?

2014年、バックマーケットの創業者はフランス市場内のある「欠落」に気付きました。リファービッシュをされた数千もの電化製品が市場内で存在するものの、効果的に販売をしているリテーラーが居なかったのです。この市場内の欠落は、後に事業発展の閃きとなりました。

私たちは業界内で最初、そして最大規模のリファービッシュ済み電化製品を専門に取り扱うオンラインマーケットプレイスです。リファービッシュ済み電化製品の品質が我々の最大のバリュープロポジションです。高品質の電化製品を安全かつスムーズにアクセスいただける様に日々改良を重ねています。実際、当社の30-60%の製品は新品同様の品質を誇っています。

創業後、バックマーケットのバリュープロポジションは世界規模で通用し、国を跨いでの事業開発も不可能ではないと確信しました。フランスで事業を成功させた後、ドイツ、スペイン、イタリア、英国、ベルギーなどヨーロッパ諸国にていち早く事業を拡大しました。現在はヨーロッパ内の14カ国でサービスを展開し、ベルリン、ロンドン、バルセロナにてオフィスをオープンしました。

フランスに続きヨーロッパでも事業を成功させた後、ヨーロッパ外にも事業を拡大する事を決定しました。2018年に米国のニューヨーク州でオフィスをオープンしてから、現在に至るまで60人以上の従業員を雇っています。その後、日本を筆頭にアジアへの事業拡大に着手しました。

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進出する国や地域はどの様に決定をされたのですか?なぜアジア内で最初の進出市場が日本市場なのでしょうか?

バックマーケットにとってアジア市場は規模が大きく、創業当初から進出を狙っていた市場の一つでした。Eコマースの市場成長率も早く、欧州や米国市場と比べ、事業展開・拡大がしやすかったのも事実です。

アジア市場の中で日本市場を最初に選んだのには4つ理由があります。
  1. バックマーケットとのシナジー
  2. 市場規模(中国に次いで2番目の大きさ)
  3. 国内の需要と供給(大手キャリアなどが行う下取りキャンペーンなど、一定数の需要・供給を裏付ける事例)
  4. 中国市場などに顕著な市場規制の緩さ

以上の理由から、日本への進出を決めました。

Eコマース市場や消費者のマインドセットなど、「日本市場ならでは」といった気付きはありましたか?

日本市場の特性は、当社でローンチ計画を進める上で幾つか気づいた点があります:

● UI & UX(ユーザーインターフェース&ユーザーエクスペリエンス)が欧米と非常に違います。楽天やヤフー!など日本独自のEコマースサイトを見てみると、Amazonなどの欧米発のプラットフォームと比べ、コンテンツや文字の量が圧倒的に多いです。当社は日本ユーザーの為にインターフェースを変更するより、ホームページ上のコンテンツ量を増やす事で日本のEコマースサイトと似たUXを提供できる様に工夫をしています。
● 決済方法の多様性も特筆すべき特徴だと思います。欧米の消費者はクレジットカードを主に好みますが、日本の消費者はクレジットカードの使用を好みません。LINEペイなどのデジタル決済を筆頭に、コンビニ払いや着払いなど決済方法の豊富さが印象に残っています。
● 欧米の消費者と比べ、エコなサービスや製品の市場はまだ未熟です。特に欧州では中古品を購入する事への躊躇いが日本の消費者と比べ圧倒的に少ないです。

日本市場進出時の主な課題について教えてください。日本進出を目指すフランス拠点の起業家が学べる事はありますか?

事業展開に事務手続き。両方の側面で課題に直面しました。

事業展開に関する課題
消費者への知名度を上げる事に苦労しました。バックマーケットを知らないことはおろか、リファービッシュ済み電化製品についての認知も低い状況です。例えば、メルカリ社との違いを聞かれる事も多いのですが、メルカリはC2Cのプラットフォームです。当社の様に、販売をしている電化製品に保証がついたり、専門のプロフェッショナルがリファービッシュを行う事はありません。

アジアでもリファービッシュ済み電化製品のニーズが高い事からわかる様に、バックマーケットのバリュープロポジションはグローバルです。日本市場参入時、その他グローバルEコマースサイトと似た様に、ブランディングとバリュープロポジションは変更しませんでした。リファービッシュ済み電化製品に詳しいユーザーの価値を最大限に活用する傍ら、ウェブサイト上にコンテンツの量を増やすなど、国内ユーザーの信頼を勝ち取り、リファービッシュ済み電化製品の認知度を上げれるように努力をしています。

来年には国内の広告代理店等をタッグを組んで検索エンジン広告などを更に打ち出す予定です。新型コロナウイルス感染拡大の影響でウェルネスやグリーンテックなどに消費者の関心が高まっている今が絶好の機会と捉えています。

事務的な課題
デジタル決済を可能にする為、日本国内のデジタルバンクと連携を取ろうとしていた所、ローンチの数週間前にアプリケーションを拒否されてしまった事がありました。弊社の代表者が銀行を直接訪れる様指示をされたものの、当時はチーム全員がフランスに拠点を置いていた為、苦労した覚えがあります。

会社の立ち上げなどその他事務的な作業は、日本在住でフランス語話者のパートナーを雇い全面的に任せていた為、特に弊害等なくスムーズに進みました。新しい市場を開拓する場合、現地事情(法律など)を把握しているコンサルタントやビジネスパートナーを雇う事をオススメします。

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日本市場進出時、国内のサプライヤーとはパートナーシップ等を結んでいましたか?

はい。正確に言うとアップル社やサムソン社などグローバルな企業とパートナーシップがある為、現地法人とのパートナーシップを開始するだけでした。消費者の認知不足とは違い、サプライヤー間との連携は非常にスムーズに進行した認識です。日本市場へ問題なく事業を拡大出来たのも、「グローバルサプライヤーとの関係性」は大きかったと思います。

日本市場への進出はどれほど時間がかかりましたか?

9ヶ月掛かりました。本部から手厚いサポートがあり、5FTE(フルタイム当量)を日本市場ローンチプログラムに振り分ける事が出来ました。

感覚的には会社の中に会社を作るイメージでしょうか。営業担当や財務担当など、個人個人が組織的な役割を担っていて、日本チームのマネージャーに報告をする組織構造でした。試行錯誤を繰り返し、「学び」に対して素早く適応する事をモットーにチームと連携しました。

本社側としてはバックマーケットの「DNA」を市場に合わせて変える事は望んでいなかった様で、バックマーケット本来のブランド性が保たれているか、週に1回チェックが入りました。

ローンチ後の最初の20ヶ月は、事業成功を測る為にKPIが3つありました。(1) ウェブサイトの訪問者数 (2) 日本市場の消費者の期待値に応えられるキャパシティ (3) 顧客満足度 です。 もしひとつでもKPIが当社のスタンダードに満たなかったら日本市場撤退、というシナリオも十分にありました。(お陰様で全てのKPIは余裕でクリアを出来た所です)

日本市場を目指すフランス在住の起業家に向けて、アドバイスやメッセージ等を頂いてもよろしいでしょうか?

私からは、

● アジャイルな企業文化を保つ事。ローンチをして試行錯誤を繰り返す事はとても大切です。
● 事務的な作業は現地のパートナーやコンサルタントを雇う事を推奨します。
● ラ・フレンチ・テック東京、在日フランス大使館、フランス貿易投資庁などのリソースを最大限に活用する事をお勧めします。

ご検討を祈ります。

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