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第五話「怒られない子供達」

楽器店の音楽教室に勤めて、3か月ほど経った。
先日、楽譜が届いたことを告げて、一人のお母さんに恥ずかしい思いをさせてしまった。

前もって伝えておかないと、楽譜代を持ち合わせていない。
受付の私が悪いわけではないが、可哀そうなことをした。
かといって、いつ楽譜が届くかは私達スタッフにも知らされていないのだ。

子供にピアノを習わせていても、親たちの生活はそれほど余裕がないのだ、とまたもや自分の状況もが悲惨なことを忘れ、同じ年くらいの生徒の母親が気の毒になってくる。

中にはシングルマザーで、ラーメン屋でアルバイトをしながら娘をこの音楽教室に通わせている女性もいた。

それにしても、だ。この教室は、行儀の悪い生徒が多い。
お菓子を食べた手で鍵盤を触るので、時々ピアノやエレクトーンが汚れているのには参った。鍵盤にポテトチップの油やチョコレートがついている。

必死に鍵盤を拭きながら考えた。

これはこの教室だけではなく、ひょっとすると全国的に今、音楽教室だけではなくいろいろな場所で待ち時間に生徒はお菓子を食べているのだろうか。

私が小学生の頃、音楽教室に通っていた時は、待ち時間にお菓子を食べている生徒など一人もいなかった。昭和の子供は、厳しく育てられたものだ、と思う。
今の母親は、レッスン前に子供をなだめて静かにさせるために、教室の受付でお菓子を与えるのだ。

そして、先生達の生徒への気の遣いようにも驚いた。
ピアノやエレクトーンのレッスンで容赦なく
「練習してこないなら、やめていいわよ。もう帰りなさい。」などと言われた時代は、とっくに終わっていた。

ごちゃごちゃ子供が沢山いて、雑に育てられた昭和は遠く過ぎ去った。
時代は少子化だ。
今、生徒は、神様なのである。(連載第六話「過去からの論客」に続く)

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