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『100年前の写真で見る 世界の民族衣装』(ナショナル ジオグラフィック編集)

Twitterで大学教授の方が昔の写真の色を再現して話題になっていたり、YouTubeではスライドショーで教科書に載っていないような写真(これまた昔)を流して多くの再生回数があったり。

過去の写真って、なんだかロマンがあってワクワクしますよね。

宮本常一が撮った日本の風景はページをめくったことがあるけれど、世界×民族衣装の切り口は初めまして。文章で魅力を伝えにくいとは思いつつも、ちょっと紹介します。

発行はナショナルジオグラフィック、通称ナショジオ。本書をきっかけに知ったのはナショジオはアメリカで生まれた非営利の科学・教育団体で、設立はなんと1888年。

当時明治21年、日本では東京朝日新聞が創刊、キリンビールの全国発売。そんなときナショジオは地理知識の普及と振興の目的をもってスタート、月刊誌を発行します。

本書では、その膨大なアーカイブから100年前の民族衣装の写真を212点を収録しています。世界中を訪ねて撮り集めた結晶。

日常から祝祭まで

祝祭といった非日常の瞬間を切り取るだけでなく、日々の暮らしとしての民族衣装もちゃんと写真に収めています。本書はざっくり以下のような構成です。

・日々の暮らしのなかの服装
・家族の肖像、同郷の絆
・特別な日の特別なよそおい
・アッパークラスのよそおい
・子どもの姿
・学び舎の若者たち

北ヨーロッパからバルカン、イスラム、アジア、アメリカ、南アメリカ。世界地図のビジュアルとあわせてちゃんと地域の特性を確認しながら味わえるようなつくりになっています。

いま、世界では民族衣装がどれだけ残っているのかは知り得ません。一ついえるのは現代の均一化したグローバル社会を、服飾から感じられる機会はそうないのではないでしょうか。

いまっぽい衣装たち

写真で伝えられないのが残念ですが、1934年のルーマニア北東部のある集合写真は、構図と佇まいがどことなくいまに通じていてアート系の雑誌が取り上げそう。

「POPEYE」の間に挿入されてても違和感がないかも。表情もクールで、男性も女性も洗練されている印象で驚きます。

中国で撮られた1911年の写真はアッパークラス、つまり支配階級の満州族の男たち。読者がイメージする中国の民族衣装は身につけている頭から爪先までイメージ通りです。

そのうえで表情がとてつもなく引き締まっていて怖い。いや、睨みを利かしている。でもなんだろう、感情表現は100年経っても変わらないともいえるし、どこかいまっぽい雰囲気を纏っているようにも思えます。

まだまだある。1927年のエルサレムで撮られた裕福なユダヤ人たち男性の一枚。色鮮やかなローブに身を包んでいて雑誌「装苑」とかに出てきそうな香りも漂います。

当時の流行を取り入れているはずなのだけど、その解説まで理想をいえばほしいところ。

絵画っぽい一枚

あと紹介したいのは1932年の一枚。アルジェリアの白人少女たち。家の中で撮られていてシーンは食事の支度中。赤を基調とした絨毯・カーペットが床から壁まで統一されていて、デザイン柄も凝っています。

そこに水色とピンク色の部屋着を身につけた姉妹にも見える少女たち。経年でフィルムが少し色あせていて輪郭が朧げ。でも、それらが絵画のような世界を醸していて、つい見惚れてしまいます。

凛とした日本人

1918年に撮影された日本の学びの風景では、小学・中学校とみえる男性生徒がみんな坊主頭で着物姿。

若々しいのだけど、凛とした表情で背筋はピンと伸びています。「はい!」と返事が聞こえてきそうな一瞬。

そうそう、着物姿の女性を撮っているカットも二枚ほどあるのでお楽しみに。

貴重な資料たち

いまや民族衣装は博物館や祭事でしかお目にかかることはなく、祝祭やそういった行事は、地域と人々の関係性が希薄化してフラットになることで減少をたどる一方。

グローバル社会では、不可逆的にいやでも均一化していきます。

写真の資料的価値は年々増すはずで、くやしいけれどナショジオの先見の明を認めざるを得ません。

膨大なアーカイブから別のテーマ切り口でもこういった写真集を出しているようなのでチェックしてみます。

というわけで以上です!


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