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『人生の教養が身につく名言集』(出口治明)を読んで

『人生の教養が身につく名言集―――「図太く」「賢く」「面白く」』より

古今東西の名著と呼ばれる本や言葉を引っぱりだして、ヒントをくれる本。すばらしいのは古典の読書ガイドとしても成立しているところ。

この本は、まえがきにある通り、出口さんが“たまたま思い出した”名言で構成されています。

「世の中 他にも名言ってたくさんあるよ」というニュアンスですが、むしろ出口さんの膨大なインプットを感じちゃいます。最近『哲学と宗教全史』という本も出版されましたが、出口さん、おそるべし。

章も構成も関係なく、自分の心に響いたものをクリップします。

『そして最後にヒトが残った』の著者クライブ・フィンレイソンが指摘しているように、「運がいい」というのは「適切なときに適切な場所にいる」ことなのです。

運という言葉に救われる人もいれば、足下をすくわれることもある。得体の知れぬ存在であり、概念。すぐれた経営者はインタビューでよくこんな回答をするといいます。「自分は運がいいんです」。

運には「たぐり寄せる、引き寄せる〜」のような、若干スピリチュアルなベクトルもありますが、ぼくはクライブ・フィンレイソンの言葉がしっくりきました。

運がいいとは、適切なときに適切な場所にいること。意思が介在しているニュアンスがいい。偶然と運とのちがいも、ここから読みとれなくもない。

シェイクスピアの翻訳で知られる小田島雄志さんが、日本経済新聞の「私の履歴書」で述べられていた言葉です。 「人生の楽しみは、喜怒哀楽の総量である」

島倉千代子の『人生いろいろ』は「死んでしまおうなんて悩んだりしたわ」という歌詞で始まりますが、壮絶な経験をしてきた人の人生を見方・とらえ方によっては豊かであるともいえる。喜怒哀楽の総量が人よりも多いからだ。

誰しもがそんな経験をするわけでもない。望んでも経験はやってこない。まさに人それぞれ『人生いろいろ』。

だからこそ疑似体験としてのエンターテインメントがあるように思うんです。登場人物に思いを馳せて、その人の人生を2時間浸る映画体験だとか。

エンタメ過剰になったいま、まるで空気のようにコンテンツは溢れているけれど、原点は「救済」である気がするし、疑似体験としての喜怒哀楽ってあるんじゃないかな。

シェイクスピア(1564~1616)の四大悲劇の1つ『オセロー』の中にも、こういうセリフがあります。 「過ぎてかえらぬ不幸を悔やむのは、さらに不幸を招く近道だ」

くよくよすんなってことなんだけど、説得力があるのが不思議。たしか『ジュリアス・シーザー』でこんなセリフがあってもおもしろいと思いました。「人間が死ぬと良いことは墓とともに葬られて、悪事は千年の後まで語り継がられることである」

極めて人間的なムハンマドの「言行録」であるからこそ、『ハディース』という書物には重みがあると思います。われわれ一般の人間も努力次第で、それを成し遂げることができる、という意味で。

そして、この『ハディース』の中で私がとりわけ好きなのが、この言葉です。 「力強いとは、相手を倒すことではない。怒って当然というときに自制できる力を持っていること」

『ハディース』の自制しかり、武士道やヤクザしかり、孫子の「百戦百勝は善の善なる者に非ず」しかり、ランチェスター戦略しかり、アンガーマネジメントしかり。どこか「戦わずして勝つ」のエッセンスを感じます。

江戸時代後期、各地の農村立て直しに尽力した二宮尊徳(1787~1856)の次の言葉です。 「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」

両輪の必要性を説いているところがおもしろい。道徳と経済。世界観と利益。感性とロジック。いずれにしても実行者の言葉には伝わる力がありますね。

知識の習得において、「経験」を非常に重視したベーコン(1561~1626。「イギリス経験論の祖」と言われる)がいいことを言っています。「お金は肥料のようなもの」と。そして、「ばらまかなければ役に立たない」

お金の考え方。いろんな見立てがあるからおもしろい。肥料・水・信頼・刄・友だち・悪魔・エトセトラ。

著者は洪自誠という人ですが、彼がどういう人だったのかは、よくわかっていないようです。さて、この本(菜根譚)の中で、自戒を込めて、私が気に入っている言葉があります。

それは、「花は半開を看、酒は微酔に飲む。この中に大いに佳趣あり」。意味は、花は半分開いたころを鑑賞し、お酒はほろ酔い程度でやめておく。これくらいが、花や酒を楽しむ最上の方法なのだ、ということ

腹八分目はこのごろよく感じます。頃合い・見計らい・適当・ほどほど・程よいの言葉のイメージ。「楽しい」「もっと」が残っているうちにお開きするのが、なんかいい。余韻をかみしめる帰路。ネガティブとしての意味もあるけれど、欲求としての「後を引く」って言葉に興味があります。

というわけで『人生の教養が身につく名言集―――「図太く」「賢く」「面白く」』オススメです!

以上です!

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