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「audiobook.jp」創業者の上田さんに聞いてみた!自分の人生をブレずに生きる方法

「本を"聴く"文化を広めたい」

そう語る瞳には、一ミリの迷いもありませんでした。

2021年12月。私は、本郷にあるオトバンク社のオフィスにいました。

「オトバンクの想いを改めて伝えるためにインタビュー記事を制作してほしい」そうご依頼をいただき、株式会社オトバンクの創業者であり会長の上田渉さんに、ラブソルの取材チームでお話を伺っていたのです。

知的で柔和な雰囲気の上田さん。しかし、時折、揺るぎない信念のようなものをその内に感じました。

すべての言動が「本を"聴く"文化を広めたい」に帰結する。そのブレない姿に、仕事であることを忘れ、ただただ引き込まれていったのです。

揺るぎなさの根底にあるものは何なのか」そう思っていた折、上田さんの新刊『超効率耳勉強法』のプロモーションのお手伝いをきっかけに、弊社のラジオ番組に出演いただくことが決まりました。

ラジオでは新刊に込めた想い、そして上田さんの根底にあるものに、株式会社ラブソルのデザイナー小野寺が迫りました。

※こちらの記事は、ラブソルが運営するラジオ番組「ラブラジ」の放送をもとに再構成してお届けしています。

ラブラジ 上田さん

株式会社オトバンク 代表取締役 会長 上田渉(うえだ・わたる)
1980年神奈川生まれ。東京大学経済学部経営学科中退。在学中から複数のNPOの立ち上げ・IT企業の経営を経て、2004年にオトバンクを創業し、代表取締役に就任。2012年3月より現職緑内障で失明していた祖父の影響で、目の不自由な人のためにもなる仕事をやりたいと強く思うようになる。自身が受験時代の勉強法として活用した音声学習もヒントに、オトバンクを創業。日本一のオーディオブック書籍ラインナップ数を配信する「audiobook.jp」を運営。「聞き入る文化」の普及に日々奔走している。2022年7月に耳勉強法についてまとめた『超効率耳勉強法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を刊行。

上田さん3

祖父にまた本を読んで欲しい! 叶わなかった思いを胸に「聴く文化」を広げていく

ーーaudiobook.jpを運営するオトバンクさまとの出会いは、昨年のインタビュー記事の制作がきっかけでした。私も含めてラブソルメンバーは本が好きなので、オトバンクさんからご依頼をいただいた時は、本当に嬉しかったです。上田さんは、そもそもなぜオーディオブックをつくろうと思われたのですか?

祖父は学者で、すごく本が好きな人だったらしいんです。でも、僕が物心がついた時には、緑内障で目が完全に見えなくなってしまっていて。本を読んでいる姿は見たことがありませんでした。記憶に残っている祖父の姿は、大きなテレビの真横にあるソファーに座って、ずっと野球中継を聴いている姿です。

「祖父がまた本を読めたらな」という気持ちを抱いていましたが、実現できないまま、僕の大学入学前に亡くなってしまいました。

就職活動の際、自分が何をしたいのか自己分析をしたんです。すると、「祖父みたいな方のためにできることはないだろうか」というところに思い至って。最初は、本を朗読するNPO法人はどうかなと思ったんですよ。

祖父の姿を見ていたからこそ感じたのですが、サービスはいろいろとあっても、周りの家族が知らないと本人に情報が届きません。そもそも、知らないとサービスって使うことができないんですよね

例えば、日本点字図書館には点字の本を貸し出す以外に、朗読CDを貸してくれるサービスがあります。それを知っていれば、祖父は本を聴くことができたのです。

「本は、目で読む以外に耳でも読める」ということを知ってもらわないと、サービスは届かない。そこから「聴く文化」を広げないと! という発想になりました。そして、大学三年生の時に事業会社を立ち上げました。

亡くなってしまった本好きな祖父に、「本を読んで欲しかったから」という思いからのスタートでした。

ーーそうだったんですね。以前上田さんにインタビューさせていただいたので、お祖父様がきっかけだったことは知っていたのですが、学者でいらっしゃったというお話は初めて聞きました。学者という職業において、本を読むという行為は生命線に近いですよね。私はデザイナーなので、目が悪くなりデザインソフトが使えないとか、色が分からないとか…。それってもはや、命を取られることに近いですよね。

まさにそうですね。祖父は、一般企業に勤める研究者だったんですけど、退職した時、大学教授などの声かけもあったものの、目が見えないからと全て断ったらしいんです。目が見えないことで、道が閉ざされてしまう。それは悲しいことですよね。

上田さん4

耳勉強法」はハードルの低い勉強法!?技術の進化とともに広がる「耳」の可能性

ーー今回、上田さんが出版された『超効率耳勉強法』の中で、耳を使って勉強するといいということが書かれていましたが、私も学生のうちに知っておきたかったです。

以前の出版は2009年(『脳が良くなる耳勉強法』)で、世の中にiPod touchが流行り始めた時期。しかし、通信速度が遅いなど、耳勉強をするための環境は整っていませんでした。
それに比べて今は、ワイヤレスイヤフォンやスマートフォンさえあれば、いつでも、どこでも、誰でも気軽に音を使った学習を楽しむことができる。耳勉強法は、今が一番やりやすくなってきているんです。10年以上経って聴覚の研究が進み、学術論文も進歩しました。前回は論文を100本くらいリサーチしたのですが、今回はさらに100本以上追加でリサーチして書きました。

ーー合計200本以上の論文を調べて書かれているんですか...!

例えば、「オーディオブックを聴きながら、同じ本を目でも読むと何が起こるのか」という最新論文があるんです。読解力、つまり、読書の流暢性の能力が上がるという結論でした。仕事や勉強をする上で役立つ、基礎的な力が身につくということです。もちろん、小さい子どものほうが上昇幅は大きいのですが、高齢者でもある程度は上がるということが分かっています。

ーーあらゆる能力は20歳前後にピークを迎え、その後は衰退をするというイメージを持っていました。

スピードが遅いだけで、きちんと獲得はしていくのですよ。高齢者の方でも、英会話を始めて英語を話せるようになったという人はいると思いますが、それと同じです。オーディオブックを活用しての勉強方法も、年齢問わず有効です。

上田さん5
『超効率耳勉強法』の出版を記念して、青山ブックセンター様にて「オーディオブックカフェ」公開収録を行いました。左:鳥井弘文さん・右:F太さん

ーーこの本に出会って、私は自分に合った勉強方法を知らなかったんだなと実感させられました。本の中に、「学習スタイルテスト」がありますよね。聴覚、言語感覚、触覚、視覚の4つのどれが優れているかを、チェックで簡単に知ることができる。ちなみに私は、触覚と視覚でした。

へぇ〜!僕と真逆ですね。僕だと聴覚と言語感覚なんですよ。

ーーやはりそうなんですね! 私は、本をスラスラ読める人にすごく憧れがあって…。でも無いものを求めるのではなく、自分の得意なこと、私であればビジュアルを使って物事をまとめたり、表現したりすることにもっと自信を持つというか、頼っていいんだなと納得できました。

本当におっしゃる通りで、それぞれ自分に合った勉強法があるんですよ。僕なんかも、全て音声にしないと逆に理解しづらいし、しんどい。意識的にそういうことをやるようにした結果、うまくいったという感じなんです。自分に合っている方法にスポッとハマれば、すごく上手くいくんですよね。

ーーそうなんです!自分の中で腑に落ちていく感覚があるんですよね。私はこの本に出会えてよかったなあと感じているのですが、上田さんは、この本を主にどの層に読んで欲しいと思って書かれたんですか?

勉強法は色々ありますが、その中でも「耳勉強法」は、割とハードルが低い勉強法なんですよ。そもそも人間は、赤ちゃんの時に「ママって言ってごらん」と言われて「ママ」と喋る。そして、幼稚園などへ行き、文字などを学ぶんですよね。

実は、言葉は音声で脳に記憶されているんです。つまり、全ての言語は音声から記憶されていることが大前提なわけです。本を読む時に人間の脳がどう動いているかというと、文字を目で見て頭の中で音声に変換して、それから言語で理解するというプロセスをとります。脳の領域でいうと、視覚や聴覚や言語、全てをフル稼働している作業なんです。

本を読んでいる時に、他のことを同時にしづらいというのは、それだけリソースを割いているから。多分これって、多くのインプットの仕方にも言えることで、ほとんどを視覚に頼っているということですよね。実際には、目を使うことに長けている人もいるし、文字を音声に変換することが早い人もいる。僕の場合、一般的な勉強法はダメでした。でも、偏差値30の状態から東大に合格するまで成績を上げられた。それが、「聴覚」に注目した独自の勉強法だったんです。

ーー一夜漬けで、無理やり目で覚えた内容って、すぐ忘れてしまいます。逆に、音声として耳で覚えたり、発言できるほどまで理解したものは忘れないですよね。

もちろん個人差はあると思うんです。その中で、僕は音声にしたほうが記憶できるタイプ。今までの日本の勉強法だと、音声が得意な人が取り残されている状態だったと思うんです。音声が得意な人は音声でやればいいんだよ、ということを伝えたかったのです。
選択肢を持つか、持たないかは大きいですよね。「これしかない」と言われたら、合わなかった場合、キツいじゃないですか。

ーーそうですよね。この本はお子さんがいらっしゃる方にも、是非読んでほしいなと思います。家事や育児をしているとなかなか目が空かないかと思いますが、耳からであればインプットしやすいですよね。そして、お子さんにも是非教えてあげて欲しい。

そうなんです。耳の隙間時間を利用するだけで、手軽に本が読むことができます。忙しい人にこそ、おすすめなんです。

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「起きていることは、全て正しい」上田さんを構成し、動かすもの

ーー本の話を色々と伺いましたが、上田さんの人物像にも迫っていきたいと思います。上田さんは起業をされて、リーダーとして会社を率いていらっしゃいますが、「帝王学」みたいなものは、どなたから吸収したものなのか気になっていました。

自分が帝王学を持っているとは全く思っていなかったので、意外な質問でした(笑)。本の影響は大きいですね。オーディオブックにはなっていませんが、『ビジョナリー・カンパニー』の影響も受けました。人を動かすことに関する本を愚直に学んで、その通り実行していきましたね。ピーター F. ドラッカーも、すごく好きです。
僕は東京大学経済学部経営学科にいたんですが、ゼミではいろいろな学者が書いた経営書を見て勉強しました。また、著者の方にお話を聞く機会もありましたので、そういったところで学んだのも大きいですね。

ーーやはり、本の影響を受けているんですね!

そこは大きいですね。あと、影響を受けた人物という意味だと、瀧本哲史さんです。オトバンクの創業者の一人で、2019年に亡くなってしまったんですけど…。瀧本さんの推薦した本や教えは、愚直にやってきました。

ーーちょうど今、瀧本さんの本をオーディオブックで聴いているのですが、上田さんが話されていることとリンクすることも結構あり、影響を受けていらっしゃるのかなと思ってました。

瀧本さんはメンターというか、先輩というか、身近にいるお兄ちゃんという感じだったので、困った時はなんでも相談していました。その場で解答をくれることもあるし、教えてくれないこともあるし。教えてくれない時は、「この本を読みな」って渡されるんですよ。

ーーそうなんですね。瀧本さんの本を読んだり聴いたりするたびに、「これを瀧本さんの肉声で聴きたい」と思うんです。

文字を頭の中で音声に変換するときは、好きな声に変換できるんですよ。僕は、好きな俳優の声で音声にしています。ちなみに瀧本さんの本で言えば、『2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義』のオーディオブックは、瀧本さんの話し方に近づけて朗読をしてもらったんです。瀧本さんの話すスピードも含めて再現してもらいました。

ーー似ていると思いました! オトバンクさんのオーディオブックは、本当に手が込んでいますよね。私もビジネス書や小説などいろいろと聴きますが、一つ一つに魂がこもっているなと感じます。

あれだけ力を入れて多くのオーディオブックを制作するということは、一緒につくる仲間がたくさん必要になってきますよね。

仲間がいないと無理ですね。「聴く文化」を広げていきたい仲間がたくさんいるということは、本当にありがたいことです。

ーー弊社でも、一緒につくってくれる仲間を増やしたいと思いつつ、なかなか…。上田さんが仲間を増やすにあたって、気をつけていることはありますか?

まず重要視しているのは、理念が合うかどうかです。スキルというよりも、その人の人間性や我々の持っているビジョンや理念に共感してくれるかが重要です。

僕、「ロマンとそろばん」とよく言っているんですけど、これは瀧本さんから教わった言葉なんです。ロマンというのは理念や目標や夢で、そろばんは、お金勘定のこと。
ロマンだけでいってしまうと稼ぎが低い状態になってしまうので、働き続けることができなくなってしまいます。逆にそろばんだけになると、お金のトラブルで人間関係がバラバラになるんです。バラバラになった状態を何度も見てきているので、「そろばんだけではダメなんだ」と感じています。

社員は、会社を通して「どうなりたいか」が大事だと思っています。会社の理念やビジョンや目標などに対して、自分がそれと同じような夢を見られるかどうか、またはその人個人の理念や目標が会社を通じて実現できるかどうか。そうであればその会社で働き続けるでしょうし、そうでなければ、できなくなったタイミングで離れていきます。それプラス、食べていけるかどうかもありますよね。

上田さん7

ーー「audiobook.jp」というサービスは、今でこそ世の中に浸透してきていますが、さまざまな過程を経てきたんですね。思うようにいかない時に、上田さんが頼りにしているものはありますか?

なんでしょうね。僕自身で言えば、基本的には「いつ死んでも後悔しない人生を送りたい」と思っています。時間が足りなくてやり残したことは仕方ないです。それまでに十二分に努力を尽くしているかどうかが、大事だと思うんですよね。やり尽くしていれば、いつ死んでも天命だから仕方ないと思える。
あとは日々、毎日よく生きたかどうかだけです。その時にベストを尽くしているのであれば、何が起きたとしても、それは仕方ないことなんですよ。「起きたことは、全て正しい」と瀧本さんが言っていました。

ーーその言葉は弊社の代表、柴山もよく言っています…!そういえば、柴山にその言葉を教えてくださった人の先輩が瀧本さんだったと聞いたことがあります。
いつお会いしても、上田さんはいつも前を向いていらっしゃる印象で。その姿にひそかに憧れていたので、伺えてすごく嬉しいですし、納得しました。

過去は変えられないんですよね。起きたことは、変えられない。起きたことを悔やんでも無駄なんです。でも、未来は変えられるじゃないですか。僕はコントロールできることしか興味がありません。過去はコントロールできないので、興味がないんです。もちろん歴史から学ぶことは好きですけどね。成功パターンは無数にありますが、失敗パターンは共通するんですよ。なので、失敗から学ぶという意味でも、歴史から学ぶことは重要です。

ーーなるほど…。今日は本当に貴重なお時間をありがとうございました。 最後に、今後上田さんがやっていきたいことを一つ教えてください。

「聴く文化」を広げることに尽きます。そのために出来ることはなんでもやります。最近では、法人向けのオーディオブック事業を始めて、すでに50社以上が導入しています。法人向けオーディオブック聴き放題プラン「audiobook.jp 法人版」導入企業のユーザーを対象に実施した「オーディオブックの利用傾向」に関する調査によると、導入している会社の社員の平均読書数が4冊以上の人が約2倍増えたという結果もあります。「導入してから、社員が勉強するようになりました」という喜びの声をいただいているほどです。個人的には面白い結果なので、色々と広げていきたいなと。

関西福祉科学大学の重森健太教授や社会医療法人生長会 ベルピアノ病院のリハビリテーション室との高齢者の認知症予防トレーニングに関する共同研究を経て、実施介護の場面でも、「オーディオブックは認知症予防に活用できる」という結果が出ているので、こちらも広げていきたい。やることはたくさんあるので、楽しく仕事をしていきたいと思います。

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聞き手:小野寺 美穂
執筆:上村 ゆい
編集:柴山 由香
撮影:池田 実加
バナーデザイン:小野寺 美穂

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