臨床心理士がなぜ「ちょっと違う」読書会をするのか
こんにちは。レタススタッフの三宅です。
昨年から続けているニュータイプの相談援助職のための読書会について、もっと多くの相談業務をしている人たちに知ってもらい、体験してみてほしいと思っています。レタスがなぜこの読書会をしているのか、今回は書いてみようと思います。
私たちが生きるこれからの時代
これからはVUCAの時代だと言われています。VUCAとは何か?それは、Volatile(不安定)、Uncertain(不確実)、Complex(複雑)、Ambiguous(曖昧)のこと。
山口周 著『ニュータイプの時代』では、VUCAの進行がもたらす影響について3つのポイントにまとめています。
①経験の無価値化
<これまで>環境がどんどん変化していくということは、過去に蓄積した経験がどんどん無価値になっていくということを意味する。
<これから>過去に蓄積した経験に依存し続けようとする人は早急に人材価値を減損させる一方で、新しい環境から柔軟に学び続ける人が価値を生み出すことになる。
②予測の無価値化
<これまで>企業にしても個人にしても、何かを実行しようというとき、中長期的な予測をもとに計画を立てることが「良し」とされてきた。
<これから>計画に時間をかけ、立てた計画を実直に実行するという行動様式は極めてリスクが大きいと言わざるを得ない。今後はむしろ、とりあえず試し、結果を見ながら微修正を繰り返していくという、「計画的な行き当たりばったり」によって、変化する環境に対して柔軟に適応していくことが求められる。
③最適化の無価値化
<これまで>常に、周辺環境に対して最適化することで自分のパフォーマンスを高めようとする。
<これから>ある瞬間において環境への「最適化の度合い」はどうでもよくなり、むしろ変化していく環境に対して、どれだけしなやかに適合できるかという「柔軟性の度合い」のほうが重要。
*p.27-29を参考に要約
これまで「良し」とされてきたものや考えでは対応しきれない、予想外のことが起こる時代です。COVID-19もそうですよね。
正解を探すより問題を見つけて提案するほうが面白い
『ニュータイプの時代』で指摘されていますが、昔は生活するうえで多くの不満や不便さがあり、これらを解決することが求められていました。これはある意味で企業や人が取り組む方向性、「正解」があったと言えるのではないでしょうか。それを探して問題を解決することに、みんなエネルギーを注いできました。
しかし、今はどうでしょう。不便と感じることはほとんどなく生活できています。多少の不満は感じても、過去と比べたらかなりアップデートされた生活を送ることができています。つまり、生活の中で問題がなくなりつつあり、問題を解決することが「供給過剰」の状態に陥っている点は納得できます。では、どうしたら良いのか。
これからは、問題を自分で見つけて解決案や代替案を提案することが求められています。しかし、今までそんなことやってきたでしょうか…?SDGsでも話題になっているバックキャスティング思考が参考になります。対照的なのが、フォアキャスティング思考です。
バックキャスティング思考:望ましい未来の姿を描いてから逆算して、現在の状態からどう進んでいくかを考える
フォアキャスティング思考:現在の延長線上に想定される未来をもとに進んでいく
バックキャスティング思考で大事なのは、未来の姿を描いて現実の姿との差分を埋めていくこと。それには「未来の姿を描く」ことが必要で、それによって問題を自分で見つけることができます。しかし、正解の呪縛から逃れられない人にとっては、未来の姿を描くこと・想像することが乏しくなっていると考えられます。
学校では「正解」を求められていたのに、仕事を始めてみれば「正解」はなく、自分で考えて進めなければならない。そこで苦戦する人も多いのではないでしょうか。「正解」が見つけられない自分はだめだ…と思うこともありませんか?しかし、「正解」と呼ばれているものは、その時代、その場における1つの解です。もっとマクロレベルで、広い視点で見てみればいろんな解が存在し、その1つを選択したに過ぎないのではないかと思います。
役に立つものから意味のあるものへ
昔は不便な社会だったので効率的で便利なものをどうやって作るか、という考えが圧倒的に多く、またそれで十分でした。いわゆる「正解」を探せば多くの人の役に立ちます。しかし、今は次々と便利で役立つものが登場し、不自由なく過ごせています。
役に立つことを追求しすぎると、かえって役に立たなくなることを山口周さんがリモコンを例に挙げている記事があります。1つ1つは便利な機能のボタンであっても、それを集約しすぎるとかえって不便になってしまう。全てのボタンを活用できているかと言えば、電源ボタンかチャンネル、音量ボタンくらい…?リモコンの本来の役割、価値はそもそも何だったのか。リモコンの存在する意味、価値が薄まっています。
リモコンに限らず、これからの私たちの活動において「役に立つ」ことよりも、「意味のある」もの、「価値のある」ものにシフトしていくと、それに興味を持ってくれる人がおのずと出てくるのだと思います。
世界を変えた人たちは皆チャレンジング
次の数字、何を表すと思いますか?
25,21,19,31,19
これらは、GAFAMと呼ばれるGoogle、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftを創業したラリー・ページ、スティーブ・ジョブズ、マーク・ザッカーバーグ、ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツの創業時の年齢です。
日本は、経験が必要などとよく言われますよね。確かに経験値がものを言う場面はあります。しかし、だからといって経験を積んだ人たちがすべて正しいのでしょうか。経験マウントをとられると、若い人、特に初学者が「自分は経験がないから何も言えない、言うことに従おう」となってしまっては、結局経験を積む機会が減るし、初学者だからこそ気づける視点や思い浮かんだアイディアが大事にされないのは、とっても勿体ないと思います。今や世界の多くの人が利用している上記のツールを生み出した人たちは、みんな大器晩成というわけではなく、若いときにチャレンジしています。
ただでさえ大人になると、創造性が乏しくなってしまいます。それは、危険を犯さないようリスク管理をする分、創造性が失われていると考えることができます(太刀川英輔 著『進化思考』をAudibleで聴いていた時に、とても印象に残った内容です。正確な内容は著書にあたるかAudibleで聞いてください)。「大人になると」の部分は、「経験を重ねると」と言い換えてもいいかもしれません。経験が少なくてもアイディアは自由に出していいし、それを実現するのに必ずしも経験必須ということはないと思います。
半径5mの世界へ飛び出すと、あなたには何が見えてきますか?
私たちが使っている「ニュータイプ」とは、何も今までの自分を変えて新しい心理士(師)になろう!なんて言っていません。
今居る世界からちょっと外へ出てみる、今居る領域を少しずらしてみることで、見えていた世界が変わる体験をぜひ皆さんにも感じてほしいのです。
「半径5m」というのは、縦にも横にも斜めにも自分が動けるイメージがあります。自分が専門としている領域の中でずらすことも1つですが、近しい別の領域に踏み出してみたり、専門に学んだ知見を全く異なる領域の人に説明してみたりすることもできます。
私たちスタッフも、半径5mの世界に踏み出して感じた問題意識から、レタスとしての活動で何ができるか考え、始めたのが「ニュータイプの相談援助職のための読書会」です。
ひねくれて専門書を扱わないわけではありません(笑)専門書の中でも、私たちが読書会としてみんなと読んで話したい本は沢山あります。でもそれ以上に、もっと自分の今いる世界から飛び出した世界に、自分の素手で触れてみてほしい気持ちが強くあります。だから、細々とではありますが読書会を続けることにしています。
それなら1人で本を読む、という人もいるでしょう。それはそれで良いと思います。
私たちの読書会では、本を読む時間よりも問いに関して対話の時間を多く設けているのも特徴です。本を読んだから終わりではなく、それを生活に活かすには腹落ちした感覚、学び落としが必要です。いろんな学び落としの方法があると思いますが、レタスでは本を読んだ人と一緒に対話することを選びました。
これまで、問いを自分で立てること、問いについて考えたり話したりする場はなかなかありませんでした。それは「正解」を探すことを求められていたからではないかと思います。しかし、「正解」よりも問題を自分で見つけて提案することが求められる今だからこそ、自分なりの引っかかりや問いを言葉にしてみたり、誰かが感じた問いを話してみる、その面白さを体験できる時間を作りたいと考えました。
言葉にするのには勇気がいります。否定されないだろうか、変だなと思われないだろうか、と。そんな心配はいりません。だって「正解」を探す場ではないですから。心理的安全性が感じられる場を作ることも、言葉にするためには必要な要素だとレタスは考えています。
改めて、読書会のお知らせ
こればかりは知ってもらう、体験してもらうしかないと思って、私たちの考えをまとめてみました。多くの心理士(師)、キャリコン、精神保健福祉士などなど…相談業務を日々頑張っている人たちに届けばいいなと思っています。
8月は2回に分けて、安宅和人 著『シン・ニホン』を読み、対話します。全部読み切るというより、1つの章を取り上げてそのテーマをもとに対話していきます。
2021年8月8日(日)10~12時→ https://newtype-book51.peatix.com/
2021年8月22日(日)10~12時→ https://newtype-book52.peatix.com/
スタッフ2人とも『シン・ニホン』アンバサダー養成講座に参加しました。そこでは本の内容を理解するだけでなく、問いを立てることやファシリテーションの面白さを学びました。その学びも活かした会にしたいと思っています。ぜひ、ご参加お待ちしております。そして、レタスの考えが多くの相談業務を日々頑張っている人たちに届きますように。
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