まぼろしの子犬

仕事関係のおじちゃんがついこの前見たという話だ。

 スーパーの前で相棒が出てくるのを待っていたところ、遠くから年配の男が歩いてくるのが見えて、その足元を楽しそうにじゃれつきながら子犬がついてくるんだそうだ。

 ノーリードで危ねえなあと思いつつ他に気を取られて目をそらし、再び視線を戻したらだいぶその男は近づいていて、子犬がいなくなっている。もうその男は目の前だったので、思わず「ねえ、さっきまでいた子犬どうしたの?」と訊ねると、怪訝な顔をして「え、犬?い、いないよ。。。」と。「ああ、私の見間違えでしたか。。。」と答えると、相手は悲しそうな顔をして「いやあ、実はついこの前交通事故で子犬を亡くしたばかりで。。。」というので「そうですか、失礼しました。」としか答えられなかったと。

「いやあ、あんなこともあるんだねえ」と言って話してくれた。普段そんなことを言う人ではないので、妙に印象に残ったから記録しておく。お盆も目の前だしまあこんな話を。

 悲しい顔するめえにリードくれえつけて歩けよ。と思うとともに、せめてもの救いは、その幻の子犬が楽しそうだったことか。

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