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【わたしのイッピン】ー益子焼の器ー

6月に入り、段々と暑くなってきた日に、お茶を飲むために何気なく取り出した淡い灰色の器。
普段使うガラス製のカップと違い、縁が厚く、ぽってりとした印象の土で出来たもので、何年も前に益子町で購入したものでした。
土が持つ柔らかで素朴な温かさが気に入って、使っている物です。

ふと、そういえば家には土物の器が少ないな。と思いました。
これの他にあるのは、数点のみ。食器棚の1割もありません。

そう思うと、急に益子町に器を見に行きたくなりました。

益子町

益子町の登り窯のある風景

栃木県南部にある益子町は、焼き物で有名なところです。
その起源は江戸時代まで遡るほど。明治に入ってからは、民藝運動を興した陶芸家の濱田庄司が窯を構えたことで、この地の焼き物は“益子焼“として広く知られるようになりました。

“益子焼”の特徴は、厚みがあり、素朴で温もりを感じる焼き物だという点。
これは、鉄分と空気を多く含んだ土により、生み出される物です。その性質上、薄く焼くと割れやすくなってしまう為、厚みを持った優しい器になるそうです。

器を求めて

今回目指すのは、益子町の城内坂じょうないざか通りという場所。多くの陶器店が軒を連ねる、益子町のメインストリートです。

ですが、その前に1ヶ所。
かねてより気になっていた、“道の駅ましこ“へ立ち寄りました。

道の駅ましこ

▼ 道の駅ましこ

“民藝の町”の道の駅というだけあって、建物のデザインも目を引きます。
大きく取り入れられたガラスに、屋根を支える剥き出しの木部。無機質なものと有機質なものという、対称的な組み合わせがとても印象に残りました。

お店の中は、地元品のマルシェとお食事処が入った複合施設となっています。
販売されているお野菜が、どれも瑞々しく新鮮で美味しそうでした。

ましこのごはん

お食事処の“ましこのごはん”では、地元食材を使ったお料理を“益子焼”の器でいただけます。
こちらでのお食事は美味しいだけでなく、器から盛り付けまで楽しめるため、帰ってからお家で“益子焼”の器を使う際のイメージも湧いてきます。

益子町に訪れた際は、ぜひともこちらにも足を運んでいただきたいです。

後になって知ったのですが、“道の駅ましこ”の建物は2018年にグッドデザイン賞を受賞されていました。屋根の形は益子の山々を表し、手前から向こうまで見えるガラス張りの建物は、連なる風景の一部として。また、建築素材も益子の木や土を使われているとのことです。
土地のことを考え、たくさんの思いの詰まった素敵なデザインでした。
今度訪れた際は、周囲の景色と一緒にじっくりと眺めてみたいと思います。

城内坂通りのお店

▼ 城内坂通り

さて、いよいよ目的の“器探し”です。
城内坂通りには、「益子焼窯元共販センター」をはじめ、「テント広場」や「やまに大塚」、「陶庫」といった陶器店が道沿いに多く並んでいます。

どのお店もそれぞれの味を持っていて、一店一店入るたびに違った驚きと楽しさを感じられます。
わくわくと心惹かれる中で、わたしが特に気になったのは「陶庫」と「ふくしま」という2つのお店です。

「陶庫」は、古民家の昔ながらの古き良きところを残しながらも、モダンなあしらいを取り入れた造りとなっていて、商品だけでなく店内を見て回るのも面白かったです。
また益子焼に限らず、全国の民芸品も取り扱われていて、焼き物が中心となっているお店たちの中では少し意表を突く存在でした。

「ふくしま」は、陶芸家の福島さんご家族の作品が販売されているお店です。
柔らかな白い釉薬ゆうやくに“しのぎ”という技法で、削り出して描かれた、独特な文様が印象的な花瓶や器。温かな黄色いお皿の中心に、愛くるしい動物が描かれたお皿。バーナード・リーチのような優しい風合いを感じさせてくれます。
それぞれの方の魅力が感じられて、どの器も使ってみたいと思いました。

我が家に来た器

福島さんの器

今回、新しく我が家の仲間入りしたのは、“ふくしま”で購入した器です。
模様が美しく、益子焼には珍しい、薄い淵で口当たりの良いものとなっています。中は白く、うっすらと螺旋を描き、入れたお茶の色を綺麗に見せてくれます。

日常のお供として、使っていくのが楽しみです。

▼ 目止め

土物の器は、使う前に一度、お米の研ぎ汁で“目止め“を行うと良いです。

鍋に器が被るくらいのお米の研ぎ汁を入れ、弱火のまま20分ほど煮ます。
そのまま自然に冷めるのを待って、洗って乾燥させてお終いです。

こうすることで、お米の澱粉を器に染み込ませ、汚れにくく、丈夫に使えるようになります。

簡単なので、みなさんもお気に入りの土物の器を買われた際は、ぜひやってみてください。

まとめ

今回、益子町に訪れて、たくさんの素敵なお店があることを改めて知りました。益子町の中を全て回り切れず、見られなかったお店もあります。
なので、今度は春に開催される”陶器市”に来て、またお店に訪れてみたいと考えています。

みなさんも是非、自分の“好き”なお店、イッピンを見つけてみてほしいと思います。

おまけ

今回、器以外に印象に残ったお品があります。
それは、“濱T”という濱田庄司さんの似顔絵がプリントされたTシャツ。
かつてこの地を盛り上げた陶芸家が、今なお愛され続けていることに魅力を感じ、器も人も、とても温かな場所だと思いました。


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