見出し画像

ガラス作家 ソウザ・ムリロさん

今回は千葉県鴨川市で「ガラス工房 アルコス」を営む、ガラス作家のソウザ・ムリロさんにインタビューをしました。作家として、人として、とても素敵なことをたくさん語っていただきました。ぜひ、多くの人に読んでいただきたいと思います。

ガラス作家 ソウザ・ムリロさん 2021年撮影

千葉県の鴨川市は、私の故郷ブラジルに似て暖かく、海や山、土地の文化が残っている場所です。
ガラス作家として“はじまりの場所にする”。その思いでここに来て、『ガラス工房アルコス』を建てました。
ですが、当時の私にはお金がなく、工房を建てたこの土地にも何もなかった。
だから、“どうやったら始められるか”を考え、そこに生えていた竹や土を使って、工房を建てたんです。周りに木を植え、庭も作りました。
ですから、ここに来て最初の作品はこの工房なんです。
文化の違いや生活、仕事、色々な問題がありましたが、“ここで始める”という強い思いで頑張りました。
暮らしていた横浜を離れ、この地に来て、ここの自然を感じ、生活や自分の方向性、本当にやりたいことを決められたんです。

千葉県鴨川市 ガラス工房アルコス 2021年撮影

ガラスワークを始めたのは、17年ほど前。
当時は、まだ横浜の町工場で働きながら工房で学び、帰ってからは練習の日々でした。
そんな中である日、職場の人が「ソウザさん、趣味でガラスを教わっているんだって?」と私に言ったんです。
その時、咄嗟に「いえ、仕事です!」と返してしまいました。
日本人は、趣味と仕事を分けて考えがちだと思うんです。私は趣味でなく、もっと真剣にガラスと向き合っていました。ガラスのことがとても好きだったし、もっと深く知りたいと考えていたんです。
咄嗟に出た言葉でしたが、その時には既に“ガラスワークを一生の仕事にしたい”と考えていたんでしょう。

ソウザさんの作品たち

今の作品のモチーフは、ここで出会ったものが多いです。
毎年、庭の小池に咲く蓮の花や工房の中に迷い込むトンボ。水仙もバラも、ここにあるもの。
木々の間から見える星空を見て、ガラスの中に宇宙を閉じ込めた作品も作りました。
作品には、作っている時の自分の“想いだったり、力だったり”が込められています。そこには、”何か”を目指して力を込めた先の”美しさ”が入っているんです。
私は、一つ一つの作品を大切に思っていますが、中には売れずにずっと棚に飾られたままの物もあります。
そんな作品も、“誰かのために、私の中から出てきたもの”だと考えています。
すると、面白いことに何年かしたら買い手が現れる。“ああ、この人のためにずっとそこで待っていたんだな。”と思うんですよ。

ガラスって、不思議な素材だと思いませんか?
透明なガラスの中から現れる、7色の光の美しさ。
それが、スッと心に入ってくるんです。

ずっと見ていられるくらい美しい…ガラスの一番凄いところだと思います。
工房の名前“アルコス”は、そこから名付けていて、”虹”を意味する言葉なんです。

ガラスだけでなく、素材にはそれぞれの限界があります。
その限られた中で最も美しい、“完璧なバランス”というものが存在すると思うんです。
ですが、私はまだガラスの“完璧なバランス”を見つけられていません。
もしかしたら、そういったものはないのかもしれない。
私が美しいと感じるものを、他の人も同じように感じるとは限らないですからね。
それでも、調整や練習を重ねると必ず良くなります。

“出来ることの中で、素材を楽しく使う”
そのためには、扱い方の基本を覚え、学ぶ必要があるんです。
自分には何が向いているのか。また、何が出来て、出来ないのか。
そういった事が分かってくると、“いいバランス”というものが作れるのではないでしょうか。

体験教室での制作風景 2021撮影

“つながり”
どれも、みんな繋がっています。
やってきたこと1つ1つが繋がっていて、無駄なことはなかった。
ガラスに出会い、成長し、本格的に仕事として出来るようになったのは、これまで出会った人たちのおかげ。だから、みんなへの感謝の気持ちでいっぱいです。
また、これから出会う人たちが、私の作品をきっかけに喜びを感じてくれたら嬉しく思います。

私のガラスへの想いは溢れ続けているので、これからもガラスワーク一筋でいくつもりです。
実は来年、ここよりも広い場所に引っ越すんですよ。そこは、工房とギャラリーを分ける予定です。

2021年 取材

“身近な美術”の情報の発信のために役立てたいと思います。