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【色をめぐる旅】 -マミーブラウン-

“マミーブラウン”

皆さんは“マミーブラウン”という色をご存知でしょうか。
Mummy Brownマミー ブラウン“ もしくは、“エジプシャンブラウン”の名前でも知られています。
英語に詳しい方なら、うすうすお気づきかと思いますが、その名前の通り原料には“ミイラ”が使われているのです。

マミーブラウンの歴史

ゾッとすることですが、この色にはそういった過去がありました。

今でこそ、ミイラは博物館で目にする文化財としての印象が強いですが、かつては妙薬や高級絵具として重宝されていたのです。

『レディ・リリス』(1866-1873年頃)ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ作
※イメージです。

19世紀、ラファエル前派の画家たちは、好んでこの色を使ったといわれています。
あの美しい絵画に使われていたとは…。
一体どこに使われたのかと、絵の中を探してしまいそうです。きっと画家たちにとって、とても魅力的な色だったのでしょう。

さて、今皆さんが思い浮かべているミイラは、どんな形の物でしょうか。

ぐるぐると包帯で巻かれた人間をイメージすることが多いかと思いますが、実は動物のミイラもあり、どちらも絵の具の原料とされ、松脂まつやに没薬※もつやくというメディウム接着剤と一緒に練られて絵具にされていました。

たとえ、人間ではなかったとしても、やはり好んで使いたい色ではないですね。

…とはいえ、今の私たちがこの絵具に関して恐ろしく感じるように、当時の人々も同じだったようです。
知らずに使っていた画家たちは、原料を知ると使うことを控えるようになり、またある画家は庭に持っていた絵具を埋葬したという話さえ、残っています。

※没薬…アフリカ自生する没薬樹から取れる樹脂のこと。メディウムだけでなく、お香や鎮痛剤、ミイラの防腐処理などにも用いられた。

現代のマミーブラウン

今でも絵の具に“マミーブラウン”の名はありますが、20世紀に入ってから使えるミイラの数が減り、作られることはなくなりました。現在では原料を変えて、その色名だけが残っているようです。

今では、安心してこの色を使うことが出来ます。
この色を手に取られた際には、是非その歴史を思い出し、使っていただけたらと思います。
この絵の具が誕生した背景には、そういった出来事があったのだと。

色の歴史は、なかなかに奥深いものです。


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