龍を祀る⑶終|虎の怪談
ある台風の晩。
小学3年生の僕は道路に面した窓がある部屋で寝ていた。
うとうとするも風が窓を揺らす音で目が覚める。
この日は久しぶりに強い勢力を保った台風だった。
お昼のニュースではニュースキャスターの人が、やたらと「外出を控えて」という言葉を連呼していた気がする。
「これ、窓割れないかな…」
ぼそっと呟いた自分の言葉に少し不安が胸に中に残った。
母はリビングでまだ起きているようだった。
襖の隙間から光が漏れている。
その光が室内をほんのり淡く照らすものの、部屋の中は薄暗いままだった。
ガタガタ…ガタガタ。
しきりに風が窓を揺らし、びょおおお、という音と共に雨が窓のガラス面を叩きつける音がする。
布団の中から這い出し、窓に近寄る。
窓からは坂道の上にあるカーブミラーが見えた。
オレンジ色で年季の入ったカーブミラー。
ずっとこのあたりの事故を未然に防いでくれているものだった。
いつもは頼りになるカーブミラーが、今日は何故か心をざわつかせる要因となっていた。
年季の入ったカーブミラーはギシギシという音を立てていそうな感じで、風に煽られていた。
「もう寝ようか」
そう思った時、カーブミラーのミラーの部分が外れてこちらに転がってきた。
坂道の上から最初はゆっくりと、バランスを保ちながら坂道の中腹にある僕の家へ転がってくる。
「やばい!!!当たる!!!!!」
そう思った時、天井からズズズ…という音がした。
昔、高熱で寝込んだ時と同じ感覚。
龍だ。
目の前に向かってきていたカーブミラーが、急に何もないところで弾かれて飛ばされていった。ガランガラン、と大きな音を立てて道路にたおれる。
するとまた、ゆっくりズズズ…という音がして、天井に何かが戻っていく音が聞こえた。僕は誰にも何も言わず、布団に戻り感謝を心の中で唱えた。
僕の家には龍がいた。
いまだに龍は好きだし、僕が楽しみにしている外出はほぼほぼ雨。
たまに夢を視る。海の中を駆ける龍の姿を。
これが一体何なのか。
僕にはわからないが、龍のお気に入りになるのは悪くない。
どうせなら龍を祀る場所にでも行ってみようか、そう思う夏の日。
龍を祀る|虎之助
BGM:冥迷妖踊
TOP画像:yosei
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