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生きたい場所に行く

10月最終日の今朝、同僚が離島していった。
見送りはこの2年のあいだ既に何度も経験してきたけれど、わたしのメンタルを維持する重要人物のひとりでもあり今回の旅立ちは胸に迫るものがあった。

いつもMy boss!と声をかけてくれて大変なときや暗い顔をしていると、あなたは大丈夫だからと背中をぽんと押してくれる人だった。
スタッフの誰よりもTPOをわきまえていて、引くところ押すところの絶妙な加減でナチュラルにファンを増やしていくその姿は、真似しようとも追いつけない独自の強みがある。言葉の壁も感じさせない人間としての魅力で様々な困難も越えていく。とても明るいが繊細で、ナイーブな一面でさえも人を惹きつける魅力が彼にはあった。親子ほども年の差のある素晴らしいスタッフとオープンから重要な2年を共にできて、本当に本当に、有り難かった。

たまたま島外に遊びにいく同僚たち ノリで見送られる側に加担

見送りのあと、少し肌寒くなった港のベンチで、青さんと雑談を散らかす。たまに欲しいこの名もなき時間。ひさしぶりにふたりで話す1時間程度の近況報告では、この数ヶ月それぞれ異なる役割で起きた視野の広がりを実感した。

この人と話していると、いい仕事がしたいという気持ちになる。恰好良さや成果のことだけではなく、いい仕事。

出張先で出会った人、旅先で感じたこと、互いのおもしろいと感じることを交換し合う場になり、毎度そうなのだが今回もあっという間に時が過ぎていった。纏まらなかった言葉や出来事は色褪せた船小屋の木製テーブルの上にふたりそのままにした。そのうち取りに行こうと思う。

夕方に立ち寄った桑本商店のレジで精算をしようとしたら、前に並んでいるおばあちゃんが誕生日なのだと店の人との会話で明らかになる。支払いもそこそこに、名前は分からないけれど釣られて祝った。この島いいな、あったかいなぁと思いながら店を出ると、今度は近所に住む魚突き漁師の岳さんと久しぶりの再会。先日来島されたアリス・ウォータースとの話しや最近また新たな3つ星レストランに魚を卸していること、魚のことで聞きたいことあったら遠慮なく連絡して、といった立ち話にしては濃度のある会話。岳さんと話しているあいだにも駐車場には代わる代わる車が入ってきて、ほぼ全員が顔見知りだった。当然、挨拶をする。

また近々会いましょうねと別れるころには山の向こうに夕陽が落ちかけていて、家路に車を走らせるとリネン工場にクリンネスチームの姿がちらり。シーツを積み込んでいるんだろう。ありふれた光景で日常業務のひとつではあるが、自分が休日だからなのか、なんだか頭が下がる思いで通り過ぎる。

日ノ津堤防へ寄り道したら、薄明かりの海面で魚が跳ねていた。

クリンネスチームの日常は客室清掃からはじまる
最近ソファやテーブルが増えてすこしずつ改良中のライブラリースペース
長松が初期に考案した往復書簡は健在 ぽつぽつと更新されている


これまで10回ほどの引っ越しを経て、都市にも地方にも山奥にも住んだ。
いまは海辺の近くに暮らして果たしていつまで居ようか時々考える。
場所に囚われる理由はなくて、どこに居ても繋がりをもつことが出来ることを海士に来てからは存分に実感できているし、むしろ本土での日々よりも、出会いたかった人々との偶然の関わりに驚いてばかり。

自分のことを「何者でもない」とずっと思ってきたけれど、懸命に誠実にやっていると周りが自分の新たな得意や苦手を見出してくれて、そこから着想を得て自分の生きる(活きる)場所を探し当てにいく。たぶん光脈は一つじゃない。そんなことを繰り返しながら今日も島で暮らしてみる。

菱浦港での紙テープのあとは、これまでにも港で見送った人たちのことや、本土でお世話になった人、長らく会えていない人たちのことを考える。ちゃんと生きてるかなというぐらい音沙汰のない人もいる。
また会えるんかな、どこかで元気でいてくれたらいいなと、誰に届けるでもない想いが胸の奥で湧いては消えた。


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