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存在することそれだけで誰かの生きる糧となる

実家帰省から帰った後は必ずパパ・ママロスになる四十路!

こうやって文章にするとちょっと自分、やばい奴なんじゃないかと思うのだが、ロスになるような両親の元に生まれ落ちたことが幸運だったのだという考え方に変換、よし!

帰省前は自覚こそしていなかったのだが、年末は1年の疲れも溜まりに溜まり私の精神的な余裕もなくなっていた気がする。
その結果が福太郎の問題行動(つねる、引っ掻く、反抗する)として表れていたのではないだろうか、なんてしっかり充電できた今となっては冷静に考えられるのだが、疲れているとまともな判断ができなくなったりするのだ、にんげんだもの。

ダウン症を持つ私の息子、福太郎(仮名)は私の父と非常にウマが合うらしく、帰省中は朝から晩まで猿の子みたいに父にまとわりついて過ごしていた。

父にピッタリ寄り添いテレビを見る福太郎。
父の体をよじ登り父の顔の輪郭が変わるほど自分の頬をグリグリ押し付け愛情を表現する福太郎。
父の膝に座りおとなしくジュースを飲む福太郎。
冷蔵庫まで父の手を引っ張りアイスクリームを日に2個要求する福太郎。(&日にアイス2個は多すぎると困り果てる父)

そのべったりな様子を見た夫が心底驚いていて、もしかして二人はソウルメイトなんじゃないかと半ば本気で言っていた。

昔から、何かあるとすぐに女同士で結束する母と娘たちを横目に、俺にも息子が一人欲しかったと淋しげにぼやいていた父が、数十年の時を経て今、孫(男児)から熱愛されている。

福太郎が父に夢中なのをいいことに、私と母はいそいそとコーヒーの準備をする。
母は、私が来ると決まって事前にドリップコーヒーを数種類用意してくれる。その中から今日はどれを飲もうかなんて二人で相談している時間も含め母とのコーヒータイムは帰省時の至福のひと時だ。

飲み比べをするために、私と母は大抵別の種類のコーヒーを選ぶ。
私たちは、こっちのほうが苦いねとか、酸味がある気がするね、なんて言いながら互いのカップを交換してコーヒーを味わう。

私と福太郎の面倒を見るため1日中忙しくしている母が、やっと腰を落ち着けニコニコして私に言う。
「上手に休みなさいよ。しっかり寝て、自分を一番大切にしないと。自分がきつかったら福太郎にも優しく出来ないよ。福太郎のためにもまずはたいたいちゃんが幸せに過ごすことだよ」

40代にもなって帰省中は両親におんぶに抱っこ状態である私の罪悪感を知ってか知らずか、母は何度も私に「家でくらい、たいたいちゃんを休ませたいの」と言う。
有り難いのと同時にやっぱり申し訳ない。
本来なら私が両親を楽させてあげなければならない立場だろうに、私はいつまでも甘やかな「子供」という立場を手放せないでいる。

実家での最終日は、両親と私と福太郎で横一列にソファーに座り、夫から写真を撮ってもらうのがお決まりだ。

私たちが帰った後、父はその写真を大きくプリントアウトしてリビングに飾る。

もう家に帰るだけ、のタイミングで写真を撮るため、私はいつもすっぴんで、髪の毛には寝癖が付いてたりする。

そのせいで写真の私は普段よりややブサイクでやや幼く見える。
毒気の抜けきった無防備な顔で、でもとびきり幸せそうに笑っている。

赤ちゃん時代はお地蔵さんのように静かに眠ってばかりだった福太郎も、今や知恵も付き、悪いこともし、そして言葉より雄弁にじいちゃん、グランマ大好き!と体中で表現するようになった。
そんな孫との別れは、両親にとって年々辛いものとなっているようだ。

車に乗り込みバイバイと手を振る孫を見て、父も母も目に涙を浮かべるようになった。

福太郎もじいちゃんグランマロスになり、家に着いた後も、時々二人を探すような素振りをする。
夜中に目を覚まし半泣きでじいちゃんに会いに行こうとする姿を見ると、胸が締め付けられる。

こんなにさみしい思いをさせるくらいなら長期の帰省はやめたほうがいいのではないかとすら考える。
だけど、ロスになるほどに大好きな祖父母と共に過ごす日々は、別れの寂しさも含めて幸福で得難い体験なのだと考え直す。

「じいちゃんはいないんだよ。じいちゃんに電話する?」
そう聞くと、私の言葉が分かっているのか、福太郎が頷く。

スマホの画面に二人が映った瞬間、福太郎は画面の二人に向いチューを浴びせ始めた。
「ふくちゃんがパパたちにチューしてるよ!」
私が吹き出すと、両親も弾けるように笑い出したが、まだ言葉で気持ちを表現することの出来ない福太郎が、何度も何度も何度も狂ったように夢中でスマホにキスを続けるうちに、徐々に父のまぶたが赤く染まっていった。
福太郎の背中に隠れて私もそっと泣いた。







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たいたい
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