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まだ見ぬ私の宝物に恋してる3

人生の節目節目に何か特別なものを自分に贈りたい。
宝さがしは佳境を迎える。

ティファニーである。
王道・ティファニー。
私は何故かこの選択肢を最初から除外していた。

婚約指輪も結婚指輪もティファニーでは買わなかった。
それどころか我が人生、これまで一つとしてティファニーのジュエリーを購入したこともなければ、プレゼントされたこともない。
何故だろう。
余りにも王道ど真ん中故、若干ひねくれ者である私は無意識にあえて回避していたのかもしれない。

そもそも私はあまり物欲の無いタイプで、よく考えてみたら私が所持している高価格帯のジュエリーは、婚約指輪と結婚指輪だけであった。

かといってジュエリーに興味がないわけではなく、むしろとてもとても好きである。

大粒のダイヤモンド、きらめく色石たち。

クレヨンしんちゃんの妹ひまわりは、幼児のくせにキラキラしたジュエリーを見るのが大好きで、広告チラシに載っているジュエリーを眺めて一人ニマニマしているが、その感覚、私には非常によく分かる。

多くの女性は生まれながらにキラキラと輝く石が大好きなのだ。
それはもう、遺伝子レベルで。

ひまわりと同様に私も、デパートのチラシの隅っこに載ってるジュエリーを目ざとく見つけ出し目を癒やす。
「譲り受けた古い型のジュエリーをリメイクしませんか?」というような、大抵リメイク後の出来も微妙な安っぽいチラシですら思わず眺めてしまう。
本能的に大好きなのだ。

ところがどっこい田舎の漁師の息子である父と、農家の娘であった母に育てられた私は、日常生活に彩りを加えるといったような考え方を知らずに生きてきた。

貧乏ではなかったのだが、「生活を楽しむ」ために何か、生きるのに不必要なものを買って愛でるというような習慣がそもそも存在しなかったので、大人になり働き始め、貯金が増え始めてからも思い切って買ったのは、最高6万円のネックレスがやっとであった。

それでも決断の時、震えたのを覚えている。
胸の内の小さな罪悪感と高揚感。

そんな私は婚約指輪探し以来、初めてティファニーに足を踏み入れた。
そこで、一つのリングに吸い寄せられた。

イエローダイヤモンドである。

目にした瞬間、20代の頃偶然その存在を知り心奪われた、ティファニーのイエローダイヤモンドジュエリーのことを鮮烈に思い出した。そうだ、あれは間違いなく恋だった。


なんて綺麗なんだろう。
透き通り輝く、太陽の色をしたダイヤモンド。

値段も確かめず、付けてみていいですか?という言葉が口をついて出た。

小さなイエローダイヤを守るように、周囲を小粒のダイヤモンドが幾重にも取り巻き、まばゆい輝きを放っている。

素敵…
声にならない言葉が胸の奥にコトンと落ちた。

もっと黄色味の強い石もありますよと出していただいたものは、明らかに先程のものより黄色い輝きを増している。
まるで持ち主の指の上で輝く小さな太陽だ。

思わず感嘆の息をもらす。

例え石の大きさを少しばかり小さくしても、絶対にこっちの色のが欲しい。


しかしながら、そうでなくとも既に大幅に当初の予算をオーバーしている。

頭を抱えたのは予算だけではない。
こんなに素敵なジュエリーを、私の圧倒的にハレの少ないケばかりの日常でどれだけつける機会があるのか、そしてそもそもこれほどに煌びやかで美しく高価な石を、私なんかが付けてもいいものか。

普段の自信はどこかに消え去り、急激に弱気になる私。
小声で夫と緊急会議を始めた。

「こんなの私には分不相応過ぎない?罰当たらないかな」
もし私が暴走しているのならブレーキをかけてほしい。そう思って夫に尋ねると、夫は一切の躊躇いも迷いもなく言った。

「たいたいちゃんがこれまで一生懸命生きてきた証と、これからの人生のためのものでしょ?何で罰なんて当たるの?これは間違いなく「宝物級」の指輪だよ」
「宝物感凄すぎて今の私に似合ってなくない?」
「今も似合ってるけど、これからどんどん似合うようになっていくんじゃない?70歳のたいたいちゃんがこれしてたら絶対もう分不相応じゃないよ」

でも‥と泣きだしそうになりながら私は言った。
「こんなん買って来年○んだらどうするのさ!」

「大丈夫!売って息子を育てるために使ってあげるから安心して!!」

あっ…そうか。
夫のこの言葉が私の精神的命綱となった。

石のサイズを一段階小さいものにして値段を抑えるというアイディアについても、夫は否定的だった。
「9月から価格改定で7~8%程度値段が上がる可能性が高いって言ってたよね。そうなると今日小さい石を買ったら数日後には、この大きめの石とそう変わらない値段になるってことだよ。それならちょっと無理してもこの大き目の石を買ったほうがいいよ」
「でも、私には分不相応じゃ…」
「ないよ!」


そう、価格改定が目前に迫っていて、もはや待ったなしの状態だったのだ。
人生でこんなに大きな買い物をしたことは未だかつてなく、私は吐き気と眩暈がするほど悩んだ。

最後は、店内に入ってこの石を見つけた瞬間の胸のときめきが決め手だった。

私の永遠の宝物。
太陽の光のようにまばゆい黄色いダイヤモンド。

この震えるほどの緊張感と、高揚感。
大きな不安と、明るいフロア。
夫と二人、足が痛くなるほど歩き回った時間。
お店選びに失敗して美味しくなかった昼食のパエリア。

力強い夫の後押し。

それら全ての思い出がこの一つの小さなイエローダイヤモンドに刻み込まれていく。
そしてこれからは、新しい思い出を刻みながらずっとこの石と生きていく。
多分死ぬまで。

購入を決め、お会計の処理をしている間、飽きもせず再び私は言う。
「ねえ、こんなもの買って罰当たらないかな?」
「なんでよ?俺はむしろこんな凄いものを買ったことがきっかけで、ここから人生もっともっと良くなっていく気しかしないよ!」


普段どちらかと言えばプラス思考な私と、マイナス思考の夫が、この時なぜかまるきり逆転していた。
この不思議な出来事も、きっと一生忘れない。

終わり


ちなみにイエローダイヤモンドの石言葉は
「自信」「神々しさ」「富」
とか、
希望」「金運」「永遠の絆」
なんですってよ、奥様。

今サイズ直し中なので手元に届くのは9月中旬予定です。
ドキドキとワクワクで、眠れない日々が続きそうです。

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