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東北暮らしが面白い#2

皆さんはゴールデンカムイをご存知でしょうか。
日本の歴史やアイヌ文化、山岳信仰に魅了されている私にとって、これほどまでに面白い漫画、アニメはありません。
ゴールデンカムイ』は、明治末期の北海道・樺太を舞台にした、金塊をめぐるサバイバルバトル漫画。『週刊ヤングジャンプ』(集英社)にて、2014年から連載中です。

ゴールデンカムイにハマってしまいました

明治末期、日露戦争終結直後の北海道周辺を舞台とした、金塊をめぐり様々なドラマが繰り広げられる内容です。また戊辰戦争・日露戦争・ロシア革命などの歴史や、マタギの話やアイヌの衣食住、信仰などの民俗文化も知れるとても面白い漫画です。

タイトルの「ゴールデンカムイ」とは、英語(Golden)とアイヌ語(kamuy)を組み合わせた造語です。
カムイとは、アイヌ語で「神」だと言われることもありますが、アイヌのカムイは人と駆け離れた高尚な存在ではありません。人間以外の生物や自然現象などは、人々の役に立つ命の素であり、敵わない程の大きな力を持った存在でもあります。樹木、動物、火、風、家、刃物、鍋、弓など、自然や生き物、道具などもカムイです。人間には出来ないことをやってくれたり、すごく身近だけれども、人間の力が及ばない存在でもあるという感じでしょうか。尊敬し感謝しながらも利用する相手であり、中には悪さをするやつもいる。
人間以外の存在(環境)がカムイです。

「ゴールデンカムイ」2巻12話より 野田サトル/集英社

「アイヌ(aynu)」と「カムイ(kamuy)」
今回は、初めてですので、「アイヌ」という言葉から始めます。
「アイヌ」という語は、(1)人間(2)男・男性 といった意味を持つほか、 民族の自称として用いられたり、 コロ(kor :~の)という語の後ろに置いて「~のお父さん」といった意味にもなります。
このうち、(1)の「人間」というのは、カムイ(神)に対応する意味での「人間」です。
アイヌの伝統的な信仰では、あらゆるものには"魂"が宿っていると考えられています。 中でも、植物や動物など人間に自然の恵みを与えてくれるもの、火や水、 生活用具など人間が生きていくのに欠かせないもの、天候のように人間の力の及ばないものなどを、 カムイとして敬いました。そして、この世界は、人間とカムイとが、 お互いに関わりあい影響を及ぼしあって成り立っているものだ、と考えられていました。

北海道立アイヌ民族文化研究センター

人と環境の良い関係

アイヌの伝統的な思想では、人(アイヌ)の世界である"アイヌモシリ"とカムイの世界である"カムイモシリ"があると考えています。
人を取り巻く世界にあるのは、動物、植物、道具でも、カムイモシリから何らかの目的を持って、アイヌモシリへ来た存在です。
このような考え方があるので、鹿を害獣駆除と称してただ撃ち殺してしまうことや、木をただ切り倒して捨ててしまうことは、例えて言うなら、遠方から来た訪問者に、何も語りかけず、何もさせず、説明もせず強制労働させた挙句、もてなしもせずに「お前なんか、とっとと家に帰ってしまえ!」と送り返してしまうことと同じです。
カムイ(環境)たちにそんな失礼なことができますか?
樹木を家などの材料にする時には、ちゃんとその理由を説明して「私の役に立ってください」とお願いします。人の役に立ってくれたカムイをカムイモシリに送り返す時も「私たちの役に立ってくれてありがとうございました。またお越しください。」と丁寧にお見送りをします。
その方が、良い関係が作れそうじゃないですか?

アイヌ文化では、カムイを擬人化して考えていると言ってもいいかもしれませんね。カムイたちはカムイモシリで生活をしており、人と同じ姿をしていると考えられています。ただ、人間はカムイを見ることが出来ません。魂のような存在だからです。そこで、カムイたちはアイヌモシリに来る際に、人間の目にも見えるように、動物の毛皮や火などの衣装を身に纏ってくれています。

「ゴールデンカムイ」2巻12話より 野田サトル/集英社

彼らの身につけてくるものはまた、人間へのお土産でもあります。火は人間に光と熱をもたらしますし、クマのカムイは毛皮と肉を、樹木のカムイは樹皮や木材を、山菜のカムイたちはもちろん食糧や薬を人間たちにお土産として持ってきてくれます。
それらは人間が自分の手で作り出すことは不可能であり、カムイたちに持ってきてもらわなければ手に入りません。人間はそのお返しとして、カムイに感謝の言葉を述べ、お酒や米の団子といった、人間の手を経なければこの世に存在しないものを、カムイに贈り物として捧げるのです。

大ヒット漫画『ゴールデンカムイ』監修者が「アイヌ文化」を徹底解説

人(アイヌ)と環境(カムイ)は、お互いを支援し、協力し合うパートナーなのです。人間は、環境からの恩恵によって生きています。そして、その恩恵に感謝して受け取ることで、環境へ配慮して生活できるようになります。

アイヌ文化では、獲った獲物の肉を食べ残すことは、強くいましめられています。それはカムイからもらったお土産を粗末にすることだからです。
カムイたちから「せっかく持って行った土産を粗末にするなら、もうあそこの家に土産を持っていくのはやめよう」と思われると、動物たちが姿を見せなくなり、飢饉(ききん)という最も恐ろしい災厄がもたらされるからです。だから、必要以上に動物を殺すことや、樹木や山菜を採りつくすようなことはしません。

現代は飽食の時代で、フードロスの問題や、森林伐採による環境悪化など様々な問題が起こっています。そしてその陰で、飢餓に苦しむ国があったり災いも生じています。
SDGsと世の中は叫んでいますが、アイヌ文化やエミシ文化、マタギ文化の中には、元からそんな考えが当たり前のように存在しているのです。


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