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#3未来を見据えた「学び」を創造して 教育のイノベーションを目指す|校長の挑戦

新連載、「校長の挑戦」。いろいろなしがらみのなか、積極果敢にさまざまな挑戦をしている全国の校長先生への取材を掲載していきます。二人目は、東京都渋谷区立原宿外苑中学校長の駒崎 彰一先生です。

1901駒崎

プロフィール
東京都葛飾区で中学校・保健体育科の教員としてスタート。品川区立中学校を2校勤務し、葛飾区教育委員会事務局指導室指導主事・教育CIO補佐官を務める。その後、江東区立中学校の副校長を経て、荒川区教育委員会事務局指導室統括指導主事を3年間務めるなかで、学習者1人1台端末の導入を担当する。その後、葛飾区教育委員会事務局指導室統括指導主事を経て、中野区立緑野小学校長。文部科学省・総務省・経済産業省「未来の学び」コンソーシアム運営協議会委員、文部科学省ICT活用教育アドバイザー、デジタル教科書活用検討委員を務める。渋谷区立笹塚中学校長を経て、現職。
職務と趣味を兼ねて、デジタル一眼レフ、ドローン空撮やVR(3Dカメラ)などによる映像編集を学んでいる。

【駒崎校長の挑戦】
①  未来社会を見据えたグローバルスタンダードな「学び」に向けて
②  教職員自身で自力解決する持続可能な学校づくり
③  「校長室だより」という最強ツール

■子どもたちの学びを変える

 葛飾区や荒川区で指導主事(統括指導主事)を務めた後、2016年に校長となりました。指導主事在職中には、総務省の「フューチャースクール推進事業」を担当したり、文部科学省「ICT活用アドバイザー」や産学官連携「未来の学びコンソーシアム運営協議委員」を務めたりしていたので、私に対してICTのパイオニア的なイメージを持つ人が多くいます。
 しかし、私にはICTをメインに学校を経営している感覚が一切ありません。私が目指しているのは、子どもたちの「学び」を時代にあったものに「変える」ということ。ICTはそのための道具、子どもたちが楽しく主体的に学ぶためのツールにすぎません。
 このような考え方は、指導主事としての経験から構築されていきました。
 契機の一つは、ICTと「学び」の融合を進めるうえで出会った「Intel®Teach」という教育プログラムです。インテルが世界各国で展開する「Intel®Teach」を学ぶなかで、世界的なミーティングに参加する機会があり、2012年にイギリスのオックスフォードに1週間、滞在しました。
 このミーティングで行われたのが、今回の学習指導要領でやっと日本でも導入された「主体的・対話的で深い学び」と、仲間と共に新しいものを創り出す活動を通じて「協調的問題解決能力」を育む学びです。
 私が衝撃を受けたのは、子どもたちがグループで「橋」を設計するというプロジェクト型の学習活動の映像でした。最初に、教師が多様なデザインの橋を電子黒板に投影し、子どもたちはいろいろなタイプの橋があることを学びます。次に子どもたちは、グループのメンバーと協力しながら橋をデザイン・設計していきます。最終的には、3Dプリンターを使って自らデザインした橋の模型を製作します。その過程で、インターネットや書籍で橋の強度を調べたり、オンラインで専門家からのレクチャーを受けたりするなどして、プロジェクトを通して試行錯誤を繰り返します。そして模型が完成した後は、過重に耐える強度があるかを実験で確認します。
今から10年近く前のことです。当時、いまだ一方通行型の学びに終始して、ICTの導入や活用が停滞している日本の学校教育はこのままでよいのか、このままでは世界から取り残されてしまうのではないかと、強い危機感を抱いたのです。
 このような経験から、日本の学びをドラスティックに変えていかねばならないとの意識を強く持つようになりました。そして、未来社会を見据えた「学び」を創造していくうえで、今後はICT等の先端技術(テクノロジー)と学校教育の融合が不可欠になっていくと考えるようになりました。

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■荒川区で、日本初の1人1台端末の取り組み

 その後、統括指導主事として勤務した荒川区での西川太一郎区長との出会いが、さらに「学びを変える」という想いを強くさせます。当時、西川区長の講演に何度か随行したときの、「子どもは未来社会の守護者である」という考え方が今でも私の心に残っています。
 この考えのもと、荒川区は区内小・中学校に1人1台端末の導入プロジェクトを展開していきます。自治体単位での導入は日本初の挑戦で、私はこのプロジェクトのリーダーとして1人1台端末の環境構築や授業実践を広げていく業務にあたりました。
 まだ誰も経験したことのない、前例のないプロジェクトです。毎日が試行錯誤の連続で、さまざまな方とコラボレーションして必死に課題解決にあたっていったことが思い出されます。
 上手くいかないことばかりでしたが、毎日が充実し、ICTの活用が少しずつ進むなかで、学校現場での学びは確実に変わっていきました。子どもたちが主体的に学び、考え、表現する授業実践が広がっていったのです。
 とくに、荒川区立諏訪台中学校の清水隆彦校長と共同で取り組んだ実践研究では、わずか導入2ヵ月間のうちに9教科すべてで端末が活用されるようになり、授業が「教師主体」から「学習者主体」へと変わっていく様子を実感することができました。
 当時の実践をまとめた映像が残っていますが、ある生徒が「先生の話を聞いているだけでなく、自分で考えながら授業に参加できていい」とコメントを残しています。当時の荒川区は、日本の最先端を走っていたと思います。
 この頃、総務省事業の会合で東京大学の三宅なほみ教授との出会いがありました。この出会いもまた、「日本の学校教育を変える」という想いをさらに強くさせます。三宅教授の研究室で、「今のままでは日本の学びの本質は変わらない」と強い口調で熱いご指導をいただき、「知識構成型ジグソー法」等についての考え方を学びました。
 これ以降、これからの未来社会をたくましく生き抜くためのスキルを育成するために、「学び」の本質から見直し、世界水準(グローバルスタンダード)の「学び」を創造すること、そして新しい「学び」を全国の学校に広げていくことへの挑戦が本格的にスタートしました。
 文部科学省や教育委員会でさまざまな施策を展開しても、現場での「学び」の本質はなかなか変わりません。「学び」をドラスティックに変えていくには、校長として教育実践を積み重ね、学校現場の最前線から情報発信して日本全国に広めていくしかない。「イノベーションは現場で起こる!」という強い信念をもって、2016年に校長職に就くことになりました。

■「“やっちゃえ”緑野」

 最初に着任したのは、中野区立緑野小学校。もともと中学校の保健体育科の教員で柔道が専門、「教育困難校」での生徒指導を中心に携わってきたので、小学校の校長となることには、正直強い戸惑いと違和感がありました。「お前は小学校には向かない」と周囲から言われていたので、どのような学校経営になるのか……大きな「挑戦」に見えていたのかもしれません。しかし実際には、確かに当初は小学校と中学校の文化の違いに困惑することもありましたが、やがてそのようなことは気にする必要のないことが分かりました。
 校長として着任して、日本の学校文化のなかでまず「変える」必要があると最初に強く感じたのは、「会議」のあり方です。着任して連日、長い会議がもたれました。分厚い資料が準備され、説明が延々と続きます。新しい企画が提出されるわけでもなく、新しい企画があったとしても「できるか、できないか」を机上で考え、できない理由をひたすら探し、「無理だ」と理屈をつけて、挑戦せずにできることしかやらない……この手法では、「例年どおり」から変えることができないと強く感じました。
 まずは「とにかくやってみる!」こと。
 さまざまな学校行事について、準備を進めながら新しいことに挑戦し、その場で課題解決に取り組んで詳細を詰め、試行錯誤して変える必要のあるところは躊躇せずスピード感をもって変える。「とにかくやってみる」ことで新しい学校行事をつくりあげていきました。教職員も、そのやり方が合理的だと認識したようで、その後は少しずつ無駄な会議の時間が消えていくことになります。
 当時、日本を代表するロックミュージシャンの矢沢永吉さんが、彼のこれまでの生き方と、大手自動車メーカーが企業として「挑戦」するという意志が一致したことで生まれた「“やっちゃえ”○○○○○○」というCMが放映されていて、強い衝撃を受けました。矢沢永吉さんの「やりたいこと、やっちゃう人生のほうが、間違いなくおもしろい」という哲学には、圧倒的な説得力があります。
 そこで私も、「やりたいことやっちゃう学校のほうが間違いなくおもしろい」と、「“やっちゃえ”緑野」をキャッチフレーズに学校経営を進めていきました。
新たな取り組みを進めるうえでは、「新たな課題」が数多く出てきます。そんななかでも子どもたちのためになることは躊躇せずに実行する「実行力」。 そして、最後まで試行錯誤を繰り返し粘り強くやりきる「突破力」。これらの意識を共有してさまざまな取り組みを展開していきました。

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■先端技術(テクノロジー)と学びの融合

「日本の学校は時間が止まっています」
校舎や教室の外観、黒板とチョークを使った授業、例年どおりが繰り返される学校行事等は、何十年も変わらないまま。実社会の仕事や暮らしでは最新テクノロジーが次々と導入され、日々進化しているにもかかわらず、学校だけが時代から取り残されています。もっとテクノロジーと学びを融合する必要があるはずです。このような考えから、これからの時代にあった未来社会を見据えた「学び」に変える実践を積み重ねることを目標に、中野区教育研究指定校として新しい教育実践に「挑戦」していきました。
 当時はまだ緑野小でも学習用端末が整備されていなかったので、IT企業とコラボレーションをして1学級分40台のタブレット端末を導入。また、当時は高価なものであった「Web会議システム」の活用についても、企業との共同研究を行いました。さらに、ドローンと教育活動を融合する挑戦にも着手しました。ドローンで空撮する創作活動や、トイ・ドローンを使ったプログラミング教育を展開しました(この取り組みを通して、私も飛行許可を申請し、ドローンを操縦するスキルを身につけました)。
 こうした実践を積み重ねていくなかで、テクノロジーを活用した教育活動が、日常的に学校全体で展開されるようになっていきました。
 数多くの実践が創造されました。社会科ではマインドマップをつくって児童が自信をもって電子黒板でプレゼンテーションをする姿が見られました。外国語活動では、「Web会議システム」でオーストラリアの小学校とオンライン授業を展開しました。図画工作の授業では、アニメ監督をゲストティーチャーとして招聘し、アニメーションについて学びを広げ、子どもたちがコマ撮り動画をつくる活動が展開されました。
 プログラミングでドローンを操縦する活動では、「上に〇〇センチ飛ぶ」「右に○○度曲がる」「前進する」「左に〇〇度曲がる」「前進する」といった動きを端末でプログラミングし、実際にグループで試行錯誤して飛行させ、課題解決していきました。ドローンが思うように飛ばないこともありましたが、子どもたちは目を輝かせて夢中に取り組んでいました。
 学びたくなるような課題を設定し、ゴールに向かう道筋のなかで試行錯誤し、いろんな学びを深めていく――日本の学校は、このようなプロジェクト型(課題解決型)の学習活動をもっと取り入れていく必要があると考えています。
 また、学びを進めていくうえで、テクノロジーは必要不可欠です。テクノロジーのツールは、子どもが目を輝かし、学びに夢中になる力を持っています。
 さらに、テクノロジーは、個別最適化(一人ひとりへの適切な支援)という点でも威力を発揮します。たとえば、「読み」に困難のある児童に早期に指導・支援を行う「多層指導モデルMIM(Multilayer Instruction Model)」があります。緑野小学校では1年生からタブレット端末を使ってアセスメントを行い、読みに困難を抱える傾向のある児童には、家庭と連携をとりながら、適切な教材を用意するなどして支援にあたりました。
 こうした取り組みを続けるうちに、(もちろんテクノロジーの導入だけが理由ではなく、子どもたちがワクワクするような教育活動の展開をするなかで)不登校の児童が減っていき、最終的にはゼロになりました。
 適切な支援を通じて授業に主体的に参加できるようになったこと、そして何よりも学ぶことを「楽しい」と感じられるようになったことが大きいと感じています。

■ICTが「苦手」な教員などいない

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この続きは、2022年3月刊行予定『校長の挑戦』に掲載します。お楽しみに!


執筆:教職研修編集部
制作協力:株式会社コンテクスト

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「校長の挑戦」は下記の『校長の覚悟』の続編です。
ぜひ、こちらも併せてお読みください。


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