ジェニィ

『ジェニィ』 ポール・ギャリコ

転職する時、業務の引継ぎや、新しい職場の人間関係、見えないルールを教えてくれる人がいるといないとでは、全く違う。転職ですら新しい環境に慣れるのは大変なのに、もしある時目覚めたら、見える世界や自分の姿形さえ違っていたとしたら?

主人公のピーターはロンドンの裕福な家に住む8歳の男の子。街には石炭トラックが行き交う時代。人間の男の子だったピーターは、ある事件の後目覚めると真っ白な猫になっていた。我が家に帰ろうとするとばあやにものすごい剣幕で追い返される。人間の足が頭上から降ってくる。怖い猫にいじめられる。食べ物や飲み物はどうやって手に入れたらいいのだろう。どこで休めばいいのだろう。猫のルールが全くわからない。

そんな時に現れたのが美猫とは言えないが、ひときわ性格の良い雌猫ジェニィ・ボウルドリン。彼女は猫のルールを知らないおかしな白猫ピーターに、毛繕いの仕方、獲物の獲り方、猫との付き合い方などを懇切丁寧に教えていく。

この物語は冒険で満ち溢れている。この二匹の野良猫たちは連れ立って、ロンドンからジェニィのルーツがあるグラスゴウへ旅をする。(これまたワクワクする方法で!)頼りなかったピーターが食べ物を拾えるようになり、ネズミと対決するようになり、やがて愛する存在を守ろうとするまでに成長する。この『ジェニィ』はゲームデザイナーの小島秀夫さんが本や映画などを紹介する『創作する遺伝子 僕が愛したMEMEたち』 に入っていた本。母性や彼の作品作りにについて彼に影響を与えたという。冒険したい男の子を自由にさせながらも導き、愛を持ってサポートする存在。そして甘えさせてくれて、誤ちも許してくれて、花を持たせてくれる女。最高。「そんな女いねーよ」と思うけれど、自分が男だったらこういう女に出逢いたい。

冒険、成長譚としても面白い本作は、作者の猫愛が根底に流れている。1頭のグレート・デンと24匹の猫と暮らしていたという彼。私は猫を飼ったことがないので初めて知った体のパートごとの毛繕いの仕方、嬉しい時のしぐさ、喧嘩の仕方など、猫の描写が細やか。猫と暮らしたことのある人なら、よくわかるに違いない。『吾輩は猫である』の外国版かも。

ドキドキワクワクの各エピソードだけでも面白いが、最後にそうくるか!というストーリー全体も素晴らしい。特に猫好きの人におすすめ。

155. 『ジェニィ』 ポール・ギャリコ

2020年読んだ本(更新中)
2020年読んだマンガ(更新中)
2019年読んだ本:77冊
2019年読んだマンガ:86冊
2018年読んだ本:77冊
2018年読んだマンガ:158冊

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