見出し画像

『中国行きのスロウ・ボート』村上春樹

村上春樹について書くなんて気がひける。だけどまぁ、がんばってみましょう。先日読んだ『注文の多い注文書(本99)』に村上春樹の短編『貧乏な叔母さんの話』が取り上げられているので、収録されているこの本を読んだ。

『1Q84』『騎士団長殺し(本20)』と新作が出て話題になるたびに「私はかつて村上春樹が読めなかった」と恐る恐る告白すると、「それわかる」「自分もそうだった」と返してくれる人がいてホッとする。別に村上春樹ファンだって、その発言で私を糾弾したりしないだろうけど。学生の私は、あの文体が、世界がダメだった。そして村上春樹好きのBFが「悪くない」というのが鼻について鼻について、「だったら好きって言えばいいじゃん!!!!」と糾弾した。そんな彼ならではの世界が味わえる村上春樹初の短篇集。

私が好きなのは芝生を刈る学生バイトの話と、ホテルで会った女から不思議な話を聞くもの。そう、今、私は村上春樹を読みきることができる。「なんでこんなに仕立てのいい服を着た謎の女が都合良く現れるんだ・・・」「なんでこんなにたやすく女の子と寝られるんだろう?」とか思うけど。意味を理解するとか(ちゃんと解読するととても深いらしいけど)ではなくて、彼の小説は、違う世界を味わう体験、アトラクション的なものなのかもしれない。例えば「プールに入る」ような。その行為は「お腹を凹ませたい」「早く泳げるようになる」とかそういう目的はあるにはあるにしても、水の世界に浸るという、普段の、重力と空気の世界とは異なる秩序の中に身を置くということが本質なんじゃないか。だから、重力と空気の世界の人からは生理的嫌悪感が立ち上がる。どうだろう?

かつてアンチだった人には読めるようなきっかけがあって、その話を聞くのも面白い。ある人は、旅行中、日本語に飢えていたときに日本人旅行者に渡されて、だった。私の場合は社会人になって、例のBFとの最後の旅行となった竹富島旅行の飛行機の中で。何を読んだか忘れたけど。

103 中国行きのスロウ・ボート


この記事が参加している募集

#読書感想文

189,460件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?