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藤田真央 モーツァルトピアノソナタ全曲演奏会第3回

 去年の3月末に始まった、王子ホールでのモーツァルト全曲ソナタシリーズの第3回〜華麗なる輝きを放ち〜の初日を聴きに行ってきた。
前日の夜に花散らしの雨が降ったせいで、4月のわりにはひんやりとした空気。
王子ホールでのシリーズは、運良くこれまでチケットを確保できていて、3回目までは全て聴かせていただいている。
Verbier Festival の時のような、短期間にまとめて全曲を弾くツィクルスとは違い、半年置きというスパンだからこそ、回を追うごとにどんどんピアニストが成長していく姿を見られるのも楽しみの一つ。
チャイコフスキーコンクール入賞前に決まっていた企画だ、と、どこかで読んだけれど、よくぞ絶妙なタイミングでぴったりなシリーズをスタートしてくれたものだと、ホールに来るたびに感謝してしまう。
 今回は1月から続いた海外公演(フランスの音楽祭やロンドンでのオーケストラとの共演、イスラエルでのエッシェンバッハ&イスラエルフィルとの1週間に渡る共演、そしてシャイイ指揮でのミラノ・スカラ座デビュー)を経て、世界のマエストロ達との共演によって更に才能を開花させ、ますます日本人離れしたセンスの音楽をたっぷり聴かせて頂いた。

 第3回のプログラムは、ヴァリエーション楽章を含む2曲のソナタを、F-durの2曲のソナタで挟む構成。
ピアノソナタ第2番 へ長調K.280
ピアノソナタ第6番 ニ長調K.284「デュルニツ」
休憩
ピアノソナタ第11番 イ長調K.331「トルコ行進曲付き」
ピアノソナタ第12番 へ長調K.332

 F-durの2曲は毎日でも聴きたい、弾きたい大好きなソナタ。
トルコ行進曲付きは、皆んな弾く超有名なソナタだけれど、藤田さんならどう弾くのか聴いてみたい。K.284は3楽章のヴァリエーションが難し過ぎて、辛くて弾けないと中学生時代に刻まれた苦手意識・・・って具合に、個人的な期待とトラウマを抱えて着席したのだが、ひとたび演奏が始まればそんな事はすっかり忘れさせられる。

 語りかけてくるような音色の一音一音やフレージングに耳を傾けていると、目の前に広がる即興的な空間に引きこまれ、それを正確なコントロールで表現する演奏技術とバランス感覚にただ魅了される。
今回はヴァリエーション楽章が2曲入っていたこともあり、いつも以上に即興性を感じたけれど、どこまでが戦略で、どこからがその場のインスピレーションなのか境い目がわかりにくいところが、独特の持ち味で巧さだとも思う。

 藤田さんによって無限に引き出されるアイディアを聴いていると、シンプルで明確なモーツァルトの音楽の裏側に潜む、無限の可能性を秘めた「宇宙」を想像せずにはいられない。宇宙とか言ってるとオカルトみたいに聞こえるけれど、人間とか地球とか超えた創造主の世界に、どうしても頭が行ってしまう(笑)こんな作曲家は他に知らない。
アンコールは2曲で、モーツァルトのK.533から第1楽章と、ラフマニノフ編曲のバッハのガヴォット。
ガヴォットは、4月1日がラフマニノフの誕生日だから選んだのかはわからないけれど、目覚ましい演奏だった。モーツァルトのK.533は玄人好みの曲で、普通に弾くとつまらなくなりがちなところ、藤田さんにかかると色んな魅力を引き出して弾いてくれるので、今まで知っていたK.533とはまるで違う曲のようだった。このソナタは次回第4回のプログラムにK.570と、恐らく得意としているK.311と一緒に組まれているから非常に楽しみ。


web別冊文芸春秋でスタートした藤田さんの語り下ろしによる連載➡︎指先から旅をする

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