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小学生が「鉄棒の達人」になる方法を元教師が解説!!8割の子どもがプロに変わる!!【後編】



上達の柱③ 技の到達度に点数を付ける


練習スケジュールとスモールステップだけでは、加速度的な成長は訪れません。上達の柱の3本目は、「技の到達度に点数を付ける」ことです。個別評定といったりします。

体育の授業で運動能力を向上させる要素の2つ目でもあります。

全ての鉄棒技に共通する点数化の方法は、「角度を点数化」することです。

基本的に、鉄棒の真下を0度(0点)。真上を180度(180点)とします。例えば、こうもり振りは、真下からスタートするので、最初は0点です。

30点の角度で回っている写真

そして、ぶら下がることに慣れてくると、少し揺れることができるようになります。この時点で20~30点ぐらい。さらに恐怖心が少なくなり、楽しくなってくると、60点。70点と振ることができるようになります。

「80~90点までいけばこうもり振り降りは成功する」ということを伝えておき、その点数を目標に、少しずつ角度をつけてこうもり振りをできるようにしていくのです。

これが全てのこうもり系統の技に応用できます。

膝掛け回転系統の技も同じです。真下を0点、真上を180点とし、回転した角度を点数化していくのです。

「120点までいった人で、成功しなかった人はいない」と伝えると、何とか120点まで到達しようと、1回1回に集中するようになります。

この「点数化」することには、3つのメリットがあります。

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①成長が実感できない時期でも、10点上がるだけで前進していることを感じられる

②明確な基準と目標をもちやすいので、やる気が出る

③1回1回の練習に必ずフィードバックをもらえるので、モチベーションが持続する

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とにかく、この点数化は、ほんの少しの成長を実感できるので、練習に対するモチベーションが持続するのです。

そして、スモールステップをさらに0点~90点、技によっては180点まで細分化するので、1つの技が10ステップ~20ステップのスーパースモールステップの状態になります。

あとは、その階段を1段1段着実に上っていけばよいのです。

簡単に、着実に成長が実感できる。どこまでいけば成功するかの目安が分かりやすい。だからこそ、毎日のようにやる練習も、常にやる気がみなぎります。

上達の柱④ 効果的な補助の方法


上達に必要な4本の柱の最後は、「補助」です。補助がある場合とない場合では、上達速度に、5~10倍の違いが出ます。

補助のメリットは大きく分けて2つです。

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①安心して取り組むことができるので、フルパワーのパフォーマンスを発揮できる

②「できた」経験を先取りできる

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大人がそばにいて、途中までしか回転できなくても、持ち上げてくれることは、何よりも安心感があります。大人が補助をする時と、そうではない時は、回転角度が30~40度違うことが多いです。

そして、補助では毎回、技を最後までやらせ切ってしまいます。ですので、「できた!」という感覚を毎日のように積み重ねることになるのです。

その内、「できた」という感覚が当たり前になり、身体が追いついてきます。そうなると、ある日、するっとできてしまいます。

それでは、補助の具体的な方法を、膝掛回転系統の技とこうもり系統の技で分けてお伝えします。

膝掛系統の技を上達させる補助の方法

結論から言えば、「脇をもって持ち上げる」です。

後方片膝掛け回転、地獄回りは、後ろに倒れて、その遠心力を使って前面から上がる技です。ですので、鉄棒正面に立ち、上がってきた瞬間に両脇を両手で追いかけ、本人の動きが止まりそうなときに、脇に手を当てて、そのまま上に無理なく押し上げる補助を行います。

ただ、補助にもスモールステップがあります。

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【後方片膝掛け回転の補助】
①鉄棒の上で、ロックしてない方の足を「いーち、にーい、さん」と振ったタイミングでおしりを後ろに下げることを教える(「後ろに下がって、一瞬止まる」)
②鉄棒の上に乗っている子どもの両脇を持ち、「いーち、にーい、さん」のタイミングでおしりを下げたら、脇をグッと持ち、ストップさせる
③「これが後ろに下がるということだよ。」と伝え、2~3回繰り返す
④身に付いてきたら、両脇を持ったまま、完全に大人がコントロールする形でゆっくり一周させる(両脇はずっと持ったまま。鉄棒下で補助者は手の向きを切り替える)
⑤「これが一周する感覚だよ。そんなに難しくないよ。」と伝える
⑥自分一人でチャレンジさせ、鉄棒の真下を通過したら両脇を両手で追いかけて、止まった段階で持ち上げる(角度で点数を伝える)
⑦120点程度の段階までくれば、両脇を持ちあげるのではなく、手を添える程度の感覚にする(途中で止まってもすぐ下に手がある状態ではあるため落ちる心配はない)
⑧そのまま添えている手に触れずに一周回り切れば達成

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これは地獄回りにも全く同じ方法で補助をすることができます。大事なのは、一つ一つの部分の合格基準を体感させること。そして、両脇サポートで自然に回転できるようにさせることです。

膝掛上がりだけは、鉄棒の後ろから上に上がるので方向は逆ですが、原則は同じです。両脇を持って揺らしてあげて、揺れが大きくなってきたら「いーち、にーい、さん」のタイミングで持ち上げてあげることです。両脇を持って、です。

補助に慣れてくると、子どもの動きに合わせて自然に手を持つ、添えることができるようになってきます。意外と簡単にできるのでお勧めです。

こうもり系統の技を上達させる補助の方法

こうもり系統の技も、両脇の補助が最も大切です。しかし、それ以外にも大切な補助があるので、そのことも記しておきます。

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【こうもり振り降りの補助】
①鉄棒にロックした足が外れないように、常にすねに片手を添えておく。外れそうになった場合は、補助者の手がストッパーになるようにしておく
②お腹に手を添えて、こうもり振りを大きく振ることができるように優しく押す(10点~60点の段階)
③こうもり振りが60点に到達したら、こうもり振り降りを体感させ始める
④大人の補助で80~90点まで来た時点で、両脇をもち、「ここまでの高さになったら足を外します」と伝え、外させる
⑤こうもり振りをやらせ「いーち、にーい、さん」を声を掛けて振りをサポート。80点~90点にまで来た時点で、お腹と胸の間あたりに手を添える。(この時点では片手はお腹・片手はロック足のストッパーという状態)
⑥添えた手で子どもの体重を支えながら、足を外させる(手がお腹にきたら足を外すように伝える)
⑦何も言わなくてもタイミングが習熟してきたら、手はお腹に触れず、追いていくだけにし、万が一落ちることがあったら受け止めれるようにしておく(「次は自分でやってみる?手はずっと下にある状態だから大丈夫だよ。」と予告してやらせるか、ある時にいきなり手を添えないまま「できてしまった」という状態を作ってしまうかは、子どもの性格と状態次第。様子を見て適宜判断。)

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振りを大きくするときは、お腹に手を添えて、角度を少しずつ上げてあげる。60度を超えたら、持ち上げる補助をする。そして、足のロックのストッパーとしての補助も行っておく。これらは、この先のこうもり系統の技全てに応用できます。

例えばこうもり大車輪の補助でも、共通の補助が基本となっています。

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①鉄棒の上に座る姿勢・バランスをサポート
②後ろに倒れて回転する過程は全て、足のロックストッパーとして片手を添えておく(補助者が右利きの場合は左手)
③回転の角度が60度(60点)に到達するまでは、補助者の右手は常に子どものお腹の下を追いていくようにする(落ちることがあっても受け止めることができるため)
④60度を超えたあたりで、左手のロックストッパーを外し、両手で脇を持つ、もしくは押さえる形で追跡していく
⑤勢いが足りずに回転が途中で止まる場合は途中で受け止める
⑥140点あたりを超えてくると、手を添えて、再度にポンと押してあげる程度でよくなる
⑦ふとした瞬間に一回転し切り、達成

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補助を繰り返し行っていくと、補助の原理原則が分かってきます。そうなると、子どもが欲している補助が自然と見えてくるようになるので、補助者の技術も上がっていくのです。

また、筆者は映像を撮って子どもの様子と、補助のタイミングを毎日のように確認していました。このような確認作業を行うと、演技者・補助者両方ともの成長レベルが、また一段とアップすることでしょう。

鉄棒運動がもたらす運動効果

鉄棒を集中的に行うことによって、様々な波及効果が他の運動や能力に対しても生まれました。「運動に対する主体性」「感覚統合」「非認知能力」という観点で解説をします。

運動に目覚める

鉄棒は、ボール運動とは違い、はっきりと「できる」「できない」が分かれる運動です。だからこそ、技ができたときの喜びは、他の運動では味わえない質をもっています。

チーム運動と器械運動は、上達に必要となる力が異なります。フィールドを広く見渡し、状況によって変わるベストプレーを判断することを得意とする子ども。一つの技に拘って、一人で何度も練習し、ひたすら自分の記録に挑戦していく子ども。皆から認められ、注目されるのは前者が多いです。

しかし、後者のようなプレーヤーも、相手が驚くような技を決めると、「お前、やるな」と認められ、「分野は違えど、自分も活躍できる運動があるのだ」と自信をもつきかっけになります。

筆者は、「今まで運動はあまり好きではなかったけれど、楽しくなってきた!」という声を、学級担任時代に何度も耳にしました。この鉄棒という種目は、運動があまり得意ではない子どもを運動好きにさせてしまう可能性を大いにもっているのです。

子どもの中の確固たる成功体験が、他のスポーツ分野への挑戦を促し、結果的に、豊かな人生を送るために必要な「運動を楽しむ姿勢」を養ってくれるはずです。

平衡感覚・固有感覚が養われる

感覚過敏・感覚鈍麻を抱える子どもへのアプローチとして、鉄棒が1つの選択肢としてあげられることがあります。足を地面から離し、頭を逆さまにしたり、回転したりと、不安定な姿勢を楽しむ運動であるからこそ、様々な感覚への刺激が可能となります。

療育の分野には、感覚統合という考え方があります。発達のアンバランスは、出生後の様々な感覚を十分に体験させていないから起こるという視点をもつものです。

小学1年生の段階で、「不安定な場所に極度の不安を覚えてしまう」ような感覚に凸凹を抱えている子どもは、実は結構いるものです。鉄棒は、そのような子どもにとって、楽しみながら、生活に必要な様々な感覚を養う絶好の機会となるのです。

その感覚の代表格となるのが以下の2つです。

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①平衡感覚・・・傾きに関するバランスを調整する力

②固有覚・・・筋肉や関節の力の入れ具合を調節する力

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これらの感覚は、原始感覚といい、人間が生存していくために必要な感覚とされています。

生存のために必要なのですから、当然、どの運動にも共通して必要となる感覚です。感覚統合については、また別の記事で解説しますが、幼児期のずり這いやハイハイの経験が不十分で、感覚にアンバランスを抱えている子どもは、意外なほど多くいるのです。

そのような子どもは、跳び箱運動や、鉄棒運動が得意ではなかったり、ボールと自分との距離感が分からなかったり、ボディイメージが養われていなかったりします。

そのような全ての運動の根底となる感覚を磨くこともできるのが、鉄棒運動です。(遊具遊びも非常に効果的です。)

非認知能力が育まれる

そもそも、なぜ筆者が鉄棒運動を長期的に取り組ませようと思ったのか。それは、非認知能力を育成しようとしたからです。

非認知能力は、テストの点数では測ることができない、その人間がもっている性格や気質を含めた「生きる力」です。中でも重点を置いていたのが、やり抜く力(GRIT)、レジリエンス(自己回復力)、主体性です。

鉄棒は、一朝一夕でできるような運動ではありません。長期的に取り組むからこそ、成果が現れる運動です。

だからこそ、目標を決めた後も、粘り強く、淡々と努力する必要があります。その自分の思い描くゴールに向かって、ひたすら情熱を燃やし、毎日やるべきことを淡々とこなし、最終的に達成の喜びを味わう。これこそがやり抜く力です。その力が鉄棒運動では、大いに育まれます。

また、最初は上手くいかない経験ばかりであったのが、一度を技を身につけることによって、成長スピードを速め、次々と技を覚えていきます。この「例え失敗しても、自分ならやり遂げることができる経験」こそが、レジリエンスの源となります。

レジリエンスは逆境力とも言われます。人生で現れる困難を乗り越えていくという、とても重要な生きる力です。だからこそ、長期的にその力を育むことができる鉄棒運動は、教育的価値が大変高いものであるといえます。

そして主体性。筆者の学級では、教師に言われなくても、友達同士誘い合って、毎日、毎休み時間、子どもたちは、鉄棒を練習しに行っていました。これこそが主体性です。

おそらく、友達と技を見せ合うことや自分自身が成長していくことが面白くて仕方がなかったのでしょう。その成長する喜び・分かち合う喜びを味わえるのも、鉄棒の醍醐味をいえます。

鉄棒一つで、これだけの相乗効果を生むことができる。一石二鳥、三鳥、四鳥を狙うことができる運動なのが分かっていただけたのではないでしょうか。

まとめ


最後に、この年度に発行していた学級通信の内容を紹介します。

学級通信

運動が苦手と本人が思っていればいるほど、成功させたときの効果は凄まじいものがあります。その成功体験の濃密さが、その子どもを「変えて」いくのです。

この3学期の時期は、毎日10人~15人ほどの子どもが、新しい技が次々とできるようになっていました。1日5分、蒔き続きてきた種が、次々と芽吹き始めた時期でした。

学級の好きな遊びアンケートでは、鬼ごっこやドッジボールを差し置いて、鉄棒、縄跳びが1位となっていたほどです。(縄跳びも毎日のように行っていました。)

もちろん、この記事で紹介したような成長は、学級という「友達と楽しく成長を競い合える環境」だからこそ実現したものです。ただ、個人で試してみても、確実に効果はあると言い切れるほど、確証のある内容です。

鉄棒は一度連続して回り続けることができる「回旋感覚」を身に付けると、驚くほど他の技に対する習得スピードが加速します。

この記事には、「だるま系統」や「空中技系統」の教え方は記していませんが、回旋感覚を身につけさせた状態で、補助の原則を応用すれば、きっとかなり速いスピードで、できるようになるはずです。

やり始めて1か月で成果が次々と出る子どももいれば、3か月、半年かけでグッと伸びる子どももいます。大切なのは、毎日少しずつを継続することです。

一人でも多くの子どもが運動の楽しさを心から味わい、一つでも多く自分の可能性を信じることができるようになればと、願っています。

もし、「よかった」「参考になった」と思う方がいれば、SNS等でシェアしてくれるとうれしいです。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

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