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読書日記・2023年上半期まとめ

読書日記を月一回は書きたい。
そう思いながら、全く書けていない今日この頃です。
せめて上半期に読んだ本をまとめておこう、と思い立ちました。

上半期ベスト10!とか選べたらいいのですが、選びきれなさそうなので、読んだ本の中から良かったもの・印象に残ったものを時系列で。
思いつくままにあれこれ書いてます、どうぞ気楽にお読みいただければ。
(一部、Twitterで過去につぶやいた内容も含んでおります。)
(怪奇幻想小説、ホラー、怪談が多いけれども、基本、ジャンルごったまぜです。)

1月

漫画『トーマの心臓』(萩尾望都/小学館)

昔から好きな漫画。お正月休みに再読し、やはり良い……となりました。
私事ですが、少し前に「一九九九年の人身御供」という短編小説を書きまして。
その中に「十子」(とうこ)という少女を登場させました。
読んでくれた方から「これは、トーマの心臓に出てくる少年トーマのオマージュ?」と聞かれ。
そんなつもりはなかったんだけど、と思いつつ、今回読み直してみたら「ほんまオマージュやな……」と納得。
やっぱり好きな作品って、無意識の領域にまで多大な影響を及ぼしているものなんですね。
小説を書く時は意図せぬ真似事になってしまわないよう、気をつけねば。

『秋雨物語』(貴志祐介/KADOKAWA)

中短編四作品を収めたホラー短編集。
どれも面白かったけれど、「フーグ」「こっくりさん」が秀逸な怖さ。
どちらも救いのなさが非常に良きです。
(いや、「こっくりさん」の結末はある意味では救いなのか……?)

『生物SFアンソロジー なまものの方舟』(井上彼方・編)

文学フリマで購入した本です。
実在の生き物から架空の生き物まで、豊かな生物多様性で楽しいアンソロジーでした。
特に好みだった作品は下記の通り。
「大予言」(伊藤なむあひ)
「オニロユリバオの遠征」(野咲タラ)
「遠くのお城で、あまたの馬が」(暴力と破滅の運び手)
「眠るイルカたち」(鞍馬アリス)
「水深八一七メートル、超深海」(和倉稜)

面白いアンソロジーを読むと、自分でも作りたくなっちゃいますね。
(というわけで、今、小説アンソロジー「もし今、○○に戻れたら」を作成中です。)

2月

『ピエタとトランジ』(藤野可織/講談社文庫)

大好き推し作家・藤野可織さんの長編小説。
単行本で出た時に数回読んでいるので、こちらの文庫本は購入後しばらく積んでいました。
が、なんとなく新しい小説が読めない(脳が疲れている)時に再読。
何回読んでも好きだなこのお話!と元気が出ました。
シスターフッドと連続殺人と世界の終わりが好きな方にオススメ。

漫画『ある設計士の忌録』シリーズ4巻(鯛夢/ほん怖コミックス)

Twitterでフォロワーさんが面白いと紹介されているのを見て。
最初の1巻はKindleで買いましたが、これは好き!紙の本で読んで置いておきたい!となり、2巻以降(「疫神」「鎮め物」「山の神」)は紙で購入。
漫画家さんが知り合いの工務店さんから聞いた話、という「実話怪談」。
民俗学、建築物(特に古い建物)と自分の好きな要素が詰め込まれていて大変楽しかったです。
しかし出てくる建築物や祟りがあまりに凄まじいので「こんなことが本当にあるの……?」と思っちゃうくらい。
ただ、お話のディテールが細かくてリアリティがあるので、「広い世の中にはこういうこともあるのかも」と自然に思わせてくれます。
続巻、早く出ないかな。

『ずっとお城で暮らしてる』(シャーリィ・ジャクスン、市田泉・訳/創元推理文庫)

海外翻訳物はそんなに強くなくてあまり読めていないのですが、シャーリィ・ジャクスンはとても好きな作家。
特に一押しなのが『ずっとお城で暮らしてる』です。
月一回のオンライン読書会で選者に当たったので、これを選びました。
参加者の中には同じくシャーリィ・ジャクスン好きな方もいて、大好きな作品について語り合えて幸せでした。
初めて読んだ方から、自分とは違った角度からの感想も聞けて良かった。
読書会、良きです。

詩集『人工島の眠り』(ゴタンダクニオ)

文学フリマきっかけで仲良くしていただいているゴタンダクニオさんの詩集。
コンパクトで美しい装丁の詩集です。
どの詩もすべて平明なわかりやすい言葉で綴られていますが、驚くほど豊かで広い世界が一つ一つの詩の向こうに広がっている。
優しく切ない、懐かしい気持ちを呼び起こされる詩が多かったです。
心が疲れた時にページをめくって読み返したい、そんな一冊でした。

3月

『椿宿の辺りに』(梨木香歩/朝日文庫)

梨木香歩さん、好きな作家さんです。
こちらの『椿宿の辺りに』も、現実的なお話(四十肩とか)から始まって、土地と家の歴史、人間の無意識の領域までを包摂した梨木さん独特のワールドへつながっていく。
壮大なお話で読みごたえがありました。

『f植物園の巣穴』(梨木香歩/朝日文庫)

『椿宿の辺りに』がこの作品とつながっている、とのことだったので、気になって読み返しました。
なるほど、こちら読んだ時は普通にこれで完結していると感じたけれど、『椿宿の辺りに』を読むと、二つの小説で本当の完結だったんだな、と。
より深く味わうことができて良かったです。

『領怪神犯』(木古おうみ/角川文庫)

公務員コンビが神々(と呼ばれてはいるけれど、はたして本当に神なのかはわからない存在)が引き起こす異常現象を調査していく物語。
読む前は、民俗学ホラーみたいな感じかと思っていたのですが、神々の造形や能力などはオリジナルなもので、日本古来の神々、妖怪との共通点はほとんどありません。
事件解決ではなく調査するだけ、なので、やや物足りないところもあるのですが、人知を超えた現象に対してはそれくらいしかできないよな、という妙な納得感もありました。
ラストのほうで思わぬ展開もあり、良い意味で予想を裏切られ、面白かったです。

『山形怪談』(黒木あるじ/竹書房文庫)

ご当地怪談が最近盛んです(主に竹書房文庫で)。
山形にはご縁がなくてまだ行ったことがないのですが、好きな怪談作家・黒木あるじさんの作なので外れはないかな、と購入。
結果、大当たりでした!
近年の怪談は少なめで、過去の歴史に丹念に取材した怪談がメイン。
山形独自の土着信仰にまつわる話が多く、民俗学好きの怪談好きにオススメです。

4月

『異形コレクション 伯爵の血族 紅の章』(井上雅彦・監修/光文社文庫)

書き下ろしホラーアンソロジー『異形コレクション』、大好きなシリーズ。が、本格的に読み始めたのは2020年の『ダーク・ロマンス』からなので、それ以前の巻は少しずつ買い揃えて読んでます。
(なんせ五十巻以上あるから、なかなか揃わない……でもそれもまた楽し)
『伯爵の血族 紅の章』は吸血鬼がテーマ。
こちら2007年の刊行なので、今から16年前ですね。
今も活躍中の作家さんが、この当時はこういう作品書いていたのか、とか、この作家さん初めて読んだな、とか作品以外の読みどころも面白かったです。
特に好きだった作品はこちら。
「它川から」(倉阪鬼一郎)
「春浅き古都の宵は……」(森真沙子)
「蝶の断片」(加門七海)
「死の谷」(間瀬純子)

漫画『ピエタとトランジ』1巻(キスガエ、藤野可織・原作/KADOKAWA)

藤野可織さんの原作が好き過ぎるので、コミカライズされたものはちょっとね~、などと思っていたのですが。
WEBで試し読みしてみたら、ピエタもトランジもイメージ通りの、いや自分でイメージしていた以上に生き生きとして可愛らしい。降参です。
コミックを買っちゃいました。
いやー楽しい面白い。
漫画から入って原作も読んでみた、という読者さんも増えるといいなあ、と思いました。

『村田エフェンディ滞土録』(梨木香歩/新潮文庫)

オンライン読書会の課題図書として読みました。
梨木香歩さんは上でも書いたように好きな作家さんなのですが、作品数がとても多いので、まだ全部は読めていなくて。
なので、こちら『村田エフェンディ滞土録』も初めて読みました。
最初、タイトルの意味がよくつかめなかったのですが、エフェンディは「先生」、滞土録は「土耳古(トルコ)滞在の記録」の意でした。
梨木さんらしい幻想味もありつつ、1889年のイスタンブールという時代風俗と歴史を丹念に取材していて重厚な小説。
ラストは涙なしには読めなかった……。
「国とは一体何なのか」という作品の問いは、現代にも通底していると強く感じました。
こちら、『家守綺譚』『冬虫夏草』と共通するシリーズ。
『家守綺譚』は何度も読んでいる大好き本で、また読み返したくなっちゃいました。

『NOVA 2023年夏号』(大森望・責任編集/河出文庫)

女性作家のみのSFアンソロジー。
分厚くて読みごたえあり。とても楽しく読めました。
特に気に入った作品は下記の通り。
「あるいは脂肪でいっぱいの宇宙」(池澤春菜)
とにかくノリが良いダイエットSF。
「今日もずくしか食ってねぇわ」とか笑えてしまう。
ダイエットという身近な話から始まったのに、最後の解決策は非常にスケールが大きくてスカッと感がありました。
「セミの鳴く五月の部屋」(高山羽根子)
特に不可思議なことは起こらない、でもSFだなあ、と感じさせる魅力的な作品。
世界と人と物語の関わりを考えさせられるお話でした。
全編に漂う、とても静かな空気感も好き。
「さっき、誰かがぼくにさようならと言った」(最果タヒ)
これも好きな雰囲気の作品。
心のこもらない「愛している」の言葉で生まれる琥珀の結晶と、AIとの言葉のやりとり。
言葉って何だろう、心って何なんだろう、と考えてしまいました。
「ビスケット・エフェクト」(勝山海百合)
遠い遠い未来の、宇宙会談の場で供される一枚のビスケット。
その源を辿ってゆくと、海を見に行きたい、とバイクに乗った少女がいて……壮大かつ詩情豊かな物語です。
「ヒュブリスの船」(斜線堂有紀)
一番強烈だった作品。
時間ループものだけど、繰り返される時間がとにかく地獄。
死んでも地獄、生き返っても地獄。それが果てしなく続く……。
そしてラストまで読むと、さらに戦慄。
斜線堂有紀さんは『異形コレクション』にもよく登場していていつも面白く読んでいるのですが、今回は本当、この人いったいなんでこんな恐ろしい話を書くんだろう……というくらいの恐怖と絶望感でした(めっちゃ褒めてます)。
「ぬっぺっぽうに愛をこめて」(藍銅ツバメ)
牧歌的なタイトルにだまされそうだったけど、こちらもじんわりと怖いお話でした。
これは愛ゆえに起きてしまった悲劇なのか。
生き物を殺して食べる、ということについても色々考えてしまいました。
誰しも食べなくては生きてはいけないんだけど。

『北海道怪談』(田辺青蛙/竹書房怪談文庫)

ご当地怪談シリーズ。
田辺さんは関西の怪談、大阪の怪談をたくさん書かれていていつも興味深く面白いので、当然こちらも購入。
でも関西の方なのになぜ北海道?と思っていたら、夫さん(作家の円城塔さん)が北海道出身という縁で、とのこと。
北海道ならではの怪談、厳しい開拓の歴史にまつわる悲しいお話などが特に心に残りました。

『無垢なる花たちのためのユートピア』(川野芽生/東京創元社)

読むのがもったいなくて、つい積んでしまう。
そういう本がありますね。
こちら『無垢なる花たちのためのユートピア』もそんな一冊でした。
表題作は雑誌掲載時に読み、こんな作品に出会えるなんて生きてて良かった、長年探し求めていた世界にやっと出会えた……と感じ入り、川野芽生ファンになってしまいました。
その後、歌集『Lilith』や掌編集『月面文字翻刻一例』を読み、ますます好きになったのですが、その間、こちらの本はさらに熟成を深めておりました。
表題作ほか数編はすでに雑誌等で読んでいた(しかも繰り返し読んでいた)という理由もあるのですが、まあ、とにかくもったいなかったので……。
結果、読んでみて思ったのは「もっと早く読めば良かった!」(おいおい)。
特に「卒業の終わり」という作品は、SF的設定でありながら現代社会の様相、女性の置かれた立場を非常に鋭く切り取っています(SF的設定だからこそ、ここまで書けたのかもしれない)。
深く共感し、感心させられました。
同時に、川野さんのような若い世代の女性にこういう思いをさせているのは、彼女たちよりも少し上の世代である自分たちの責任でもあるのよな……と反省も深く……。
SFやファンタジーが好きな方だけでなく、今の世の中に生きづらさを感じている方にもぜひ読んでいただきたい一冊です。

『文學界』5月号「12人の〝幻想〟短編競作」特集

『文學界』、普段は買わない雑誌ですが、この特集が読みたくて購入。
〝幻想〟とカッコ付きになっている理由は分からないんだけど、私にとっては、これは良い幻想だなあ、と感じられる作品が多く、読みごたえのある良い特集でした。
こんな風に濃度の高い幻想小説を書いてみたい、と思える作品も。
特に好きだった作品は以下の通り。
「メランコリア」(山尾悠子)
「マルギット・Kの鏡像」(石沢麻衣)
「ラザンドーハ手稿」(高原英理)
「奇病庭園(抄)」(川野芽生)
「串」(マーサ・ナカムラ)
特に、「串」の神話的でおおらかな雰囲気の裏側に漂う怖さ。
ラストでそれが凝縮されて提示される。ぞわっとしました。
川野芽生「奇病庭園(抄)」はまだ続きのある、長いお話のようです。
単行本が8月に発売予定で、当然すでに予約済み。
全貌を読むのが楽しみでなりません。

5月

『踏切の幽霊』(高野和明/文藝春秋)

社会派ミステリとホラーが上質な融合を遂げた作品。
舞台は1994年、一枚の心霊写真から始まる物語です。
ミステリ部分の謎を追っていく展開に引きつけられるだけでなく、謎が解けた後、幽霊は存在しなかった、となるのではなく、やはり幽霊は存在していて(少なくとも主人公にはそれを感じ取ることができて)……となるお話。
そういうところがすごく好きでした。とても切ない結末ではあるのですが。
第169回直木賞候補作に選ばれています。
この記事を書いている時点では選考結果はまだ出ていないのですが、さてどうなるか。
賞レースにはそこまで興味は無いのですが、自分がとても良いと感じた本が世間的にはどう評価されるのか、ちょっと気になります。

『異形コレクション ヴァケーション』(井上雅彦・監修/光文社文庫)

大好きシリーズ『異形コレクション』の最新刊。
特にこの巻は充実しており、どれも傑作、と思ってしまうほどでした。
特に好きだった作品は以下の通り。
「島の幽霊」(芦花公園)
「田休み」(宇佐美まこと)
「ジャイブがいなくなった」(最東対地)
「今頃、わが家では」(新名智)
「休暇刑」(平山夢明)
「デウス・エクス・セラピー」(斜線堂有紀)
「ファインマンポイント」(柴田勝家)
「あの幻の輝きは」(井上雅彦)
「双葩の花」(空木春宵)
「オシラサマ逃避行」(牧野修)
「声の中の楽園」(王谷晶)

『アーサー王ここに眠る』(フィリップ・リーヴ、井辻朱美・訳/創元推理文庫)

こちらもオンライン読書会の課題本。
アーサー王伝説は好きですが、その周辺作品というのはあまり読んだことがなく。
こちらも課題本でなければ読んでみることはなかったでしょう。
(選んでくれた読書会メンバーに感謝!)
アーサー王を、同時代に生きる少女の視点から綴った物語です。
この作品でのアーサー王は、伝説に描かれている高潔な英雄ではなく、粗野で乱暴な山賊の親玉、という感じ。
そんな彼を、神秘的な力を持った理想の王である、と人々に信じさせるため、吟遊詩人(魔術師)はどのような手腕を振るったのか。
伝説が伝説として成立していく過程が描かれ、物語を書いている人間として、非常に興味深かったです。
主人公の少女が男の子の振りをして吟遊詩人の従者として働いたり、ひょんなところで出会った少女が実は女装している少年だったり、とジェンダーを越境して少年少女たちが活躍する面白さもありました。
男性の生きづらさ、女性の生きづらさ。
その反対に、男性として生きる利点や楽しさ、女性として生きる利点や楽しさ。
主人公がそのどちらも味わう立場となることが物語に奥行きを与えていますし、今の世の中に通じる話でもあるな、と思いました。

『じゃむパンの日』(赤染晶子/Palmbooks)
赤染晶子さん、芥川賞作家さんですが、実は私、小説は読んだことありません。
こちらのエッセイ集も話題になっていることは知っていたのですが、読んだことのない作家さんだからな……と特に興味は覚えず。
が、本屋さんでぱらぱらと立ち読みしてみたら、もう十数年も前に新聞で読んだエッセイが載っていました。
とても短いエッセイでしたが、ずっと心に残っていたもので。
(京都の弘法市にまつわる、切なくて優しいお話です。)
筆者のお名前は失念してしまっていたけれど、これを書いたのは赤染晶子さんだったのか……と。
購入してじっくりと読んでみたら、ほかのエッセイもとても良かった。
若くしてお亡くなりになったのが非常に残念です。

『葛原妙子歌集』(川野里子・編/書肆侃々房)

葛原妙子さんの短歌が好きで、以前からちょこちょこと読んでいました。
しかしちゃんとした歌集は手元になく、セレクション本のようなものだけ。
古本で少しずつ揃えていくしかないかな、と思っていたので、全歌集から1,500首を厳選したというこちらの歌集が出た時は喜びいさんで購入しました。
寝る前の時間などに少しずつ読み進めて、読了。
折に触れて読み返す一冊になると思います。
一番好きな短歌は、こちら(おそらく代表歌)。
 
  他界より眺めてあらばしづかなる的となるべきゆふぐれの水

最近出した個人誌『水にまつわる奇譚集』に収録した掌編小説「水葬都市」では、エピグラフとして次の歌を使わせていただいております。

  はふり處(ど)のあらざる石と水の町葬送はまづ舟をえらびき

こちらの短歌はヴェネツィアを舞台に詠まれたもののようですが、「水葬都市」の世界にあまりにぴたりと合っていたもので……。

6月

『十二神将変』(塚本邦雄/河出文庫)

塚本邦雄の短歌がとても好きです(難解なものが多いので理解できているとはとても言えないけれども……)。
塚本先生は小説のほうもたくさん書いておられ、こちら『十二神将変』もその一つ。
以前読んだことがあったのですが、河出文庫で新版が出たので購入、再読しました。
これ、私は好きな小説……だけれども、ひと様に気軽におすすめはできないな、とあらためて思ってしまいました。
短歌と違って難解さはそこまでではない(旧仮名遣いだけど、慣れたらわりと読めます)けれど、この独特の美意識、世界観。
耽美的な小説とも言えるのですが、単に美しいだけでなく、人間の業の深さや欲望といった生々しさをも包含している耽美です。
読み終えた後、絢爛豪華な食卓で濃厚なフルコース料理(もちろん酔いの回りが早い、強めのお酒つきで)を頂戴したような気持ちに。
あまりにこの小説のインパクトが強かったため、ほかの小説はまだ読む勇気
が出ず、何冊か積んでいる状態です……。

塚本先生の短歌、好きなものは山ほどあるのですが、今一つ挙げるなら、次の一首でしょうか。

夢前川(ゆめさきがは)の岸に半夏(はんげ)の花ひらく生きたくばまづ言葉を捨てよ

『綺羅と艶冶の泉鏡花<戯曲編>』(東雅夫・編/双葉文庫)

泉鏡花の戯曲、有名どころはおそらく以前に読んだことがあるはず。
なのだけれど、今回、こちらの本で「夜叉ヶ池」「天守物語」などを読み返してみて、やはりこういうものをとっくりと味わうにはそれなりの年を重ねることも必要だったんだな……と実感しました。
若い頃読んだ時には読み切れなかった諸々が、鮮やかに目の前に現出した気がします。
と同時に、言葉ひとつひとつから、より深い叙情を感じ取れたという満足感も。
『高野聖』なども、もう長いこと読んでいませんが、今読むと違ってくるのでしょうか。
またゆっくりと読み返してみたいと思いました。
この本で初めて読んだ「多神教」「山吹」「お忍び」なども、とても良かったです。

『幻想と怪奇 ショート・ショート・カーニヴァル』(新紀元社)

大変楽しくて読みごたえたっぷりの一冊でした。
テーマは「過去の作家・作品に関連するもの」。
元ネタがわかるとより面白い作品もあり、知らなかったけど読んでみよう、となる作品もあり。
特に好きだったものは以下の通り。
「浪花のラヴクラフト」(柴田勝家)
「あかつきがたに」(勝山海百合)
「外科室2.0」(斜線堂有紀)
「翻訳家と悪魔」(植草昌実)
「移植」(井上雅彦)
そして第1回「幻想と怪奇ショートショートコンテスト」最優秀作、「無色の幽霊」(西聖)。
確かにそこに存在しているはずなのに目では捉えきれないものを書く、という難題にチャレンジした作品。
描写力に圧倒されました。さすがの最優秀作品。
また、コンテストの二次通過作までの選評も掲載されており、それを読んでいると、これも読んでみたかったなあ……と思える作品が幾つもありました。
そこだけがちょっと残念でした。
そしてもし第2回のコンテストがあれば、また挑戦してみたいな、という決意を新たに。
(第1回も応募するにはしたのですが、結果は、まあ……聞かないでください。)


以上、2023年上半期の読書振り返りでした。
下半期も引き続き、いろいろ読んでいきたいと思います。
(了)





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