「万博、本当にできるんですか?」若手記者が見て聞いて感じたこと【開幕1年前企画第3弾】
2025年大阪・関西万博開幕1年前企画のラストを飾る第3弾。今回は大阪の若手記者の「正直レビュー」です。
開幕500日前を迎えた昨年11月末以降、大阪府内の至るところに、公式キャラクター「ミャクミャク」があふれるようになりました。沿道のバナーや鉄道のラッピングなど、今や日常生活で「万博」に触れない方が難しい毎日。担当ではなくても、大阪の記者という立場上、避けては通れません。そんな中で取材を続ける若者は、この“国家的メガイベント”をどう見ているのでしょうか。
1970年大阪万博の話から、Z世代視点の「推しパビリオン」まで、大阪府や大阪市、経済界と日々向き合い、万博を隅から隅まで知り尽くした担当記者とはまた違うフレッシュな意見を聞くことができました。万博を巡る課題と共にお伝えします。
【ZもYもいる】メンバー紹介
今回登場する記者はこちらの3人。
藤本碧記者=大阪グラフィックス部
岡田学時記者=大阪社会部
古俣友理記者=大阪社会部
カメラマンは大阪社会部の行政担当で日々万博を取材する鶴留弘章記者。聞き手は同じく行政担当の私、伊藤怜奈です。
【行きたい?】「万博1000円なら…」
伊藤)大阪府と大阪市のアンケートでは「万博に行きたい」方向で回答した人は33・8%でした。ぶっちゃけ、みなさんは万博に行きたいですか?
藤本)1970年大阪万博に憧れがあるので、行ってみたいです。「太陽の塔」をデザインした岡本太郎さんの記念館や、大阪府吹田市にある1970年万博記念館にも行きました。当時は最先端のデザインだったんだろうなと思う建物や、おしゃれな配色のスタッフユニホームなどの展示が印象的です。
伊藤)今回はそんな視点で魅力は感じていますか?
藤本)「太陽の塔」のように象徴的なアートがあれば行きたいと思います。ただ知っている限り、惹かれる展示はまだありません。見た目よりも中身重視なのかもしれません。
岡田)僕は行きたくないわけじゃないけど、わざわざ休みの日に高いチケット買って行くことには抵抗があります。
伊藤)万博会期中に販売される「1日券」は、18歳以上の大人で7500円。岡田くんは7500円あったら何に使う?
岡田)なんかうまいもの食べに行きたいですね。高いですよ、とにかく。1000円なら行くかな。小学生みたいに、大人も1回無料で招待してほしいです。
伊藤)古俣さんは昨年11月30日の開幕500日前に合わせて、万博の歴史を取材していましたよね。
古俣)はい。1851年の第1回ロンドン万博からの歴史を書籍などで学び、記事にしました。当初は各国の技術を競う「展示メイン」の場だったのが、21世紀に入ってからは「人類共通の課題解決」にシフトしていったという歴史でした。
伊藤)歴史を学んで、行きたくなったとか。
古俣)そうですね。私の担当の北摂エリアには1970年万博が開催された吹田市が含まれるので、行政の取材をしていると「1970年大阪万博はすごかった」という話をよく聞きます。熱く語る方が多いので、行ってみたいです。
【暑くて寒い】記者が見た夢洲
伊藤)みなさんは実際に夢洲に行ったことはありますか?
藤本)私は昨年4月13日、ちょうど開幕2年前となる日に万博全体の工事の起工式があり、取材しました。岸田文雄首相が出席したのですが、日差しが直接当たってとても暑かったのを覚えています。
岡田)僕はついこの間、建設作業員やトラック運転手などが不足する「2024年問題」の取材で夢洲を訪ね、パビリオンや橋脚を作っている作業員の人に話を聞きました。かなり気温が低い日だったので、海風が寒かったです。
伊藤)万博作業員はまさに打撃を受ける問題ですね。作業員の本音は聞けましたか?
岡田)「工期がぎりぎりだ」と言っていました。それと驚いたのが「何の工事をしているか分からない」という発言です。「『朝8時半に○○に来い』と言われて仕事をしているけど、何ができあがるのかは分からない」と。詳細な計画も知らないまま人手不足や短工期に苦しむ現場の声を聞いて、政府や大阪府、大阪市が推し進める万博像とのギャップを感じました。
伊藤)グラフィックス部の藤本さんから見て、会場シンボルの木造大屋根「リング」はどうでしょうか。
藤本)以前、夢洲に行った際には跡形もない状態でした。なので本物は見たことないですが、あれは色が付くわけではないんですよね。工事途中の骨組みが露わになっているように見えます。木造だから「ひらパー」(=大阪・枚方の遊園地「ひらかたパーク」の略称)のジェットコースター「エルフ」みたいだなって思ってしまいます。
伊藤)リングの設計者、藤本壮介さんは「1970年万博のときは太陽の塔だけが丸い空を見ていたから、2025年万博ではみんなで見られるように」と、あのデザインにしたそうです。
藤本)なるほど。そういう意図を聞くと納得というか、見方は変わりますね。ただちょっと無機質すぎて、これ自体が「おしゃれだな」という感じはしないですね。これが1970年万博でいうところの「太陽の塔」ということでしょうか?
伊藤)実は、1970年万博では運営側が用意したシンボルは別にありました。太陽の塔は数ある展示の1つだったんですが、それが結果的に今でも残るレガシーになったということです。なので、もしかしたら2025年万博も、終わってみたらリングじゃないシンボルが誕生しているかもしれません。
【おすすめ】私の推しパビリオン
藤本記者は「ドイツ」
岡田記者は「中国」
古俣記者は「スイス」
古俣)どれもかわいいですね。SNSのアイコン用にも良さそうです。
藤本)Vlog(ブイログ=日常を撮影した動画コンテンツ)も撮れそうですね。
古俣)こう一覧で見ると、写真を撮るのが目的になるかもしれないなと思います。ディズニーランドにも写真のためだけに行く人がいるじゃないですか。「映え」も、万博に行きたいと思う立派な理由だと思う。
伊藤)たしかに。そういう意味では今回は期待できますよ。2005年愛知万博の海外パビリオンは「日本側が建てた施設に各国が入る」形。今回は50カ国ほどが独自デザインのパビリオンを建てる予定です。独自建設型のパビリオンは、今問題になっているように時間もお金もかかります。だけど、無事に完成すればすごい景色になると思います。
藤本)「映える万博」にするためにも、開幕日に全てのパビリオンが完成していることが大事ですよね。
【あと1年】本当にできるの?
伊藤)みなさんは、それぞれの経験から感じている、万博の「ここを直してほしい」という要望などはありますか?
岡田)僕は本当にあと1年でできあがるのか?という懸念があります。「2024年問題」で取材した作業員の人は「コンビニやトイレの少なさ、遠さ」を嘆いていました。とにかく労働環境が劣悪な印象です。伊藤さんは万博担当として、推進側と現場の温度差は感じますか?
伊藤)建設作業ではもちろん感じますが、私が思うのは展示内容。目玉とされた「空飛ぶクルマ」は商用運行が限定的となる見通しで、海外パビリオンも当初独自の建設を予定していたうちの数カ国が「簡易なデザイン」に移行することが決まっています。経費は膨張するのに、中身はしょぼくなる。この反比例の現象は感じています。
岡田)運営側の言葉に責任が感じられないですよね。だから本当に万博できるのかな?って思ってしまう。そういう疑問を持った時点で来場意向というか、温度が下がるんです。
藤本)私は「わかりにくさ」も課題だと思います。万博の前売り入場券について整理したグラフィックスを作ったことがあるのですが、本当に種類が多くてわかりにくい。
古俣)たしかに。テーマも同じくわかりにくい。歴史の流れを学ぶと、国威発揚型から課題解決型に移行する中でテーマが重要視されるのは分かるのですが、「いのち輝く未来社会のデザイン」というのは抽象的で、何でも網羅できる。どういった展示が見られるのかが、テーマからは見えてきません。そのへんをもう少し具体的にPRしてほしいと思います。
【おわりに】まずは「万博」でググってみよう
古俣)元々行きたいと思っていましたが、海外パビリオンをちゃんと見てもっと行きたくなりました。展示内容だけでなく、ビジュアルを知ることも大事だなと思います。
岡田)当初よりは行きたくなりました。でもやっぱり高いし、ひねくれている僕からすると、国主催のイベントにお金払って行こうという気にはならないんですよね。本気で「成功させたい」と思っているのならば、もう少し盛り上げ方を工夫すべきだと思いました。
藤本)やっぱり知らないと「行きたい」って生まれないですよね。ミャクミャクは向こうから来てくれるから、それと同じように「万博の中身」ももうちょっとこっちに来てくれるといいなと思います。
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