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「万博、本当にできるんですか?」若手記者が見て聞いて感じたこと【開幕1年前企画第3弾】

2025年大阪・関西万博開幕1年前企画のラストを飾る第3弾。今回は大阪の若手記者「正直レビュー」です。

開幕500日前を迎えた昨年11月末以降、大阪府内の至るところに、公式キャラクター「ミャクミャク」があふれるようになりました。沿道のバナーや鉄道のラッピングなど、今や日常生活で「万博」に触れない方が難しい毎日。担当ではなくても、大阪の記者という立場上、避けては通れません。そんな中で取材を続ける若者は、この“国家的メガイベント”をどう見ているのでしょうか。

1970年大阪万博の話から、Z世代視点の「推しパビリオン」まで、大阪府や大阪市、経済界と日々向き合い、万博を隅から隅まで知り尽くした担当記者とはまた違うフレッシュな意見を聞くことができました。万博を巡る課題と共にお伝えします

大阪市内の沿道に掲げられた大阪・関西万博のバナー=1月

【ZもYもいる】メンバー紹介

今回登場する記者はこちらの3人。

藤本碧ふじもと・みどり記者=大阪グラフィックス部

「最先端が集まる万博で、太陽の塔のような爆発的アートがまた見たい」

大阪府出身、2017年入社。大阪支社管内15支社局のグラフィックデザインを担当。

岡田学時おかだ・がくじ記者=大阪社会部

「建設作業員などが不足する『2024年問題』で会場周辺を取材しました」

東京都出身、2023年入社。ものづくりを支える中小企業が多い東大阪など、大阪東部の河内エリア取材を担当。

古俣友理ふるまた・ゆり記者=大阪社会部

「開幕500日前に万博の歴史を取材。ちょっとだけわくわくしてます」

横浜市出身、2023年入社。1970年大阪万博が開催された大阪府吹田市を含む、大阪北部の北摂エリア取材を担当。

カメラマンは大阪社会部の行政担当で日々万博を取材する鶴留弘章つるどめ・ひろあき記者。聞き手は同じく行政担当の私、伊藤怜奈いとう・れいなです。

【行きたい?】「万博1000円なら…」

まずはズバリ、万博に行きたいかどうか。グラフィックス、河内、北摂とさまざまなバックグラウンドの3人。それぞれが取材で見てきた「リアルな万博」から、本音が飛び交いました。

伊藤)大阪府と大阪市のアンケートでは「万博に行きたい」方向で回答した人は33・8%でした。ぶっちゃけ、みなさんは万博に行きたいですか?

藤本)1970年大阪万博に憧れがあるので、行ってみたいです「太陽の塔」をデザインした岡本太郎さんの記念館や、大阪府吹田市にある1970年万博記念館にも行きました。当時は最先端のデザインだったんだろうなと思う建物や、おしゃれな配色のスタッフユニホームなどの展示が印象的です。

伊藤)今回はそんな視点で魅力は感じていますか?

藤本)「太陽の塔」のように象徴的なアートがあれば行きたいと思います。ただ知っている限り、惹かれる展示はまだありません。見た目よりも中身重視なのかもしれません

岡田)僕は行きたくないわけじゃないけど、わざわざ休みの日に高いチケット買って行くことには抵抗があります

伊藤)万博会期中に販売される「1日券」は、18歳以上の大人で7500円。岡田くんは7500円あったら何に使う?

岡田)なんかうまいもの食べに行きたいですね。高いですよ、とにかく。1000円なら行くかな。小学生みたいに、大人も1回無料で招待してほしいです

~大阪府の子ども無料招待~
府内外の小中高校に通う児童生徒と、入場券が必要となる4~5歳計約102万人が対象。2回目の招待について府は「各自治体に委ねる」としており、岡田記者が担当する東大阪市の野田義和のだ・よしかず市長は否定的な意向を示している。

伊藤)古俣さんは昨年11月30日の開幕500日前に合わせて、万博の歴史を取材していましたよね。

古俣)はい。1851年の第1回ロンドン万博からの歴史を書籍などで学び、記事にしました。当初は各国の技術を競う「展示メイン」の場だったのが、21世紀に入ってからは「人類共通の課題解決」にシフトしていったという歴史でした。

古俣記者の取材を基に藤本記者が作成した「万博の歴史」

伊藤)歴史を学んで、行きたくなったとか。

古俣)そうですね。私の担当の北摂エリアには1970年万博が開催された吹田市が含まれるので、行政の取材をしていると「1970年大阪万博はすごかった」という話をよく聞きます。熱く語る方が多いので、行ってみたいです。

【暑くて寒い】記者が見た夢洲

続いての話題は、万博会場となる大阪市の人工島・夢洲ゆめしま。取材で訪れたことのある藤本記者と岡田記者に、その印象を聞いてみました。

万博会場となる大阪市の人工島・夢洲=2月

伊藤)みなさんは実際に夢洲ゆめしまに行ったことはありますか?

藤本)私は昨年4月13日、ちょうど開幕2年前となる日に万博全体の工事の起工式があり、取材しました。岸田文雄首相が出席したのですが、日差しが直接当たってとても暑かったのを覚えています

くわ入れする岸田首相ら=昨年4月13日

岡田)僕はついこの間、建設作業員やトラック運転手などが不足する「2024年問題」の取材で夢洲を訪ね、パビリオンや橋脚を作っている作業員の人に話を聞きました。かなり気温が低い日だったので、海風が寒かったです

~2024年問題~
働き方改革関連法に基づく残業規制で、今年4月から適用された。建設業は残業時間の上限が原則年360時間に厳格化され、万博工事への影響が懸念されている。

伊藤)万博作業員はまさに打撃を受ける問題ですね。作業員の本音は聞けましたか?

岡田)「工期がぎりぎりだ」と言っていました。それと驚いたのが「何の工事をしているか分からない」という発言です。「『朝8時半に○○に来い』と言われて仕事をしているけど、何ができあがるのかは分からない」と。詳細な計画も知らないまま人手不足や短工期に苦しむ現場の声を聞いて、政府や大阪府、大阪市が推し進める万博像とのギャップを感じました

木造巨大屋根「リング」の建設現場=昨年11月

伊藤)グラフィックス部の藤本さんから見て、会場シンボルの木造大屋根「リング」はどうでしょうか。

藤本)以前、夢洲に行った際には跡形もない状態でした。なので本物は見たことないですが、あれは色が付くわけではないんですよね。工事途中の骨組みが露わになっているように見えます。木造だから「ひらパー」(=大阪・枚方の遊園地「ひらかたパーク」の略称)のジェットコースター「エルフ」みたいだなって思ってしまいます。

伊藤)リングの設計者、藤本壮介さん「1970年万博のときは太陽の塔だけが丸い空を見ていたから、2025年万博ではみんなで見られるように」と、あのデザインにしたそうです。

藤本)なるほど。そういう意図を聞くと納得というか、見方は変わりますね。ただちょっと無機質すぎて、これ自体が「おしゃれだな」という感じはしないですね。これが1970年万博でいうところの「太陽の塔」ということでしょうか?

伊藤)実は、1970年万博では運営側が用意したシンボルは別にありました。太陽の塔は数ある展示の1つだったんですが、それが結果的に今でも残るレガシーになったということです。なので、もしかしたら2025年万博も、終わってみたらリングじゃないシンボルが誕生しているかもしれません

【おすすめ】私の推しパビリオン

シンボルになれるコンテンツのカギとなるのは、何と言ってもビジュアルの強さですよね。ちょっとだけ仕事の話題とは離れますが、次は「万博は映えるのか」について聞いてみました。X(旧ツイッター)やインスタグラムを日常的に使っているというみなさん。共同通信大阪支社のnoteアカウントで連載中のマガジン「万博パビリオンの歩き方」をスマホでスクロールしながら、「推しパビリオン」を教えてくれました

Z世代にとってはスマホは体の一部です。

藤本記者は「ドイツ」

ドイツパビリオンで来場者に配られる「サーキュラー」というマスコットがお気に入り。“もけもけ”していてかわいい。

(c) MIR_LAVA_facts and fiction

岡田記者は「中国」

ふんだんに使われた竹がイケてるなと思います。迫力ありそう。


中国国際貿易促進委員会 (CCPIT)提供

古俣記者は「スイス」

私はスイス!(即答)。建物の周りにたくさん咲いているお花の前でインスタグラムのストーリーを投稿したいです。

ⓒNüssli-Herz-Bellprat

古俣)どれもかわいいですね。SNSのアイコン用にも良さそうです。

藤本)Vlog(ブイログ=日常を撮影した動画コンテンツ)も撮れそうですね。

古俣)こう一覧で見ると、写真を撮るのが目的になるかもしれないなと思います。ディズニーランドにも写真のためだけに行く人がいるじゃないですか。「映え」も、万博に行きたいと思う立派な理由だと思う。

伊藤)たしかに。そういう意味では今回は期待できますよ。2005年愛知万博の海外パビリオンは「日本側が建てた施設に各国が入る」形。今回は50カ国ほどが独自デザインのパビリオンを建てる予定です。独自建設型のパビリオンは、今問題になっているように時間もお金もかかります。だけど、無事に完成すればすごい景色になると思います

藤本)「映える万博」にするためにも、開幕日に全てのパビリオンが完成していることが大事ですよね

【あと1年】本当にできるの?

万博開幕まで残り1年。最後は聞き手の私を含めた4人の記者が取材を通して抱いた疑問や、現状の課題について話し合いました。

伊藤)みなさんは、それぞれの経験から感じている、万博の「ここを直してほしい」という要望などはありますか

岡田)僕は本当にあと1年でできあがるのか?という懸念があります。「2024年問題」で取材した作業員の人は「コンビニやトイレの少なさ、遠さ」を嘆いていました。とにかく労働環境が劣悪な印象です。伊藤さんは万博担当として、推進側と現場の温度差は感じますか?

伊藤)建設作業ではもちろん感じますが、私が思うのは展示内容目玉とされた「空飛ぶクルマ」は商用運行が限定的となる見通しで、海外パビリオンも当初独自の建設を予定していたうちの数カ国が「簡易なデザイン」に移行することが決まっています。経費は膨張するのに、中身はしょぼくなる。この反比例の現象は感じています。

岡田)運営側の言葉に責任が感じられないですよね。だから本当に万博できるのかな?って思ってしまう。そういう疑問を持った時点で来場意向というか、温度が下がるんです。

藤本)私は「わかりにくさ」も課題だと思います。万博の前売り入場券について整理したグラフィックスを作ったことがあるのですが、本当に種類が多くてわかりにくい

藤本記者が作成した前売り入場券の価格表

古俣)たしかに。テーマも同じくわかりにくい。歴史の流れを学ぶと、国威発揚型から課題解決型に移行する中でテーマが重要視されるのは分かるのですが、「いのち輝く未来社会のデザイン」というのは抽象的で、何でも網羅できる。どういった展示が見られるのかが、テーマからは見えてきません。そのへんをもう少し具体的にPRしてほしいと思います。

【おわりに】まずは「万博」でググってみよう

さて「正直レビュー」を終えて、得たものはあったのでしょうか。3人に感想を聞いてみました。

古俣)元々行きたいと思っていましたが、海外パビリオンをちゃんと見てもっと行きたくなりました。展示内容だけでなく、ビジュアルを知ることも大事だなと思います

岡田)当初よりは行きたくなりました。でもやっぱり高いし、ひねくれている僕からすると、国主催のイベントにお金払って行こうという気にはならないんですよね。本気で「成功させたい」と思っているのならば、もう少し盛り上げ方を工夫すべきだと思いました。

藤本)やっぱり知らないと「行きたい」って生まれないですよね。ミャクミャクは向こうから来てくれるから、それと同じように「万博の中身」ももうちょっとこっちに来てくれるといいなと思います

ありがとうございました!

開幕1年前企画の最終回は、1970年大阪万博、そもそもの万博の歴史、そして現場の声、さまざまな角度から万博について考えてみました。
開幕まで残り1年。本当に無事開幕できるのか。万博取材に携わる者として、一つ一つの事象を丁寧に検証しながら、課題追及を続けていきたいと思います。(伊)

共同通信大阪社会部の行政担当記者による、万博の歴史や現状が簡単に分かる記事やポッドキャストはこちら。

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