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「花屋日記」11. どこまでも邪魔なファッション脳。

 私はめんどくさいスタッフだったのだろう。そもそも新人なのにハタチではないし、中途半端にキャリアがあって、花の経験もまったくのゼロではなかったから。例えば店長に
「ピンクとイエローは絶対混ぜちゃいけない色だから」
と言われた時も
「なぜですか?」
「だって、ピンクは優しくてイエローは元気な色だから、普通混ぜないでしょ?」
「でも、例えばやわらかい色合いもありますし、お客様のお好みによってはその取り合わせも注文される可能性はありませんか? そういう場合もお断りした方がいいのでしょうか」
そんなことを率直に聞いてしまっていた。

 なぜならドリス・ヴァン・ノッテンだってその2色を合わせていたし、イエローだってクリーム系やライムイエローなら「元気いっぱい」にはならない。様々な色合わせが個性を生むのだし、だからこそミウッチャ・プラダやコンスエロ・カスティリオーニのクリエーションは面白いのだ。制限してしまうのは勿体ない。
 ファッション脳の私は、まだそんな風に考えていた。今思えばそもそもジャンルや方向性が違ったのだろうし「入ってきたばかりで生意気な」と思われていたに違いない。

 他にも「うちの店のイメージじゃないから、かすみ草は使ってはいけない」と言われていたのだが、ある日、花のことにあまり詳しくない男性のお客様に
「バラと、かすみ草的なもので花束を予約したいんだけど。細かいことは任せるから」
と言われたので、私はあまり深く考えずにそのままを店舗用のオーダーシートにメモってしまった。それをたまたま目にした店長は激怒して
「かすみ草はダメって言ったでしょう?」
「すみません、かすみ草そのものという意味ではないんです。お客様がフィラーフラワー(隙間を埋めるためのボリュームある花)の意味合いでおっしゃったのを、そのまま書いてしまって。もちろん他の花を使います」
「他の花ってなによ! そんなのないでしょう? 責任とりなさいよ」
「ホワイトレースフラワーで代用できるかと思ってました。バラとの相性もいいですし...」
 以前、プライベートで受けていたレッスンの際によくレースフラワーを使っていたので、ついそう受け答えしてしまった。自分としては、お客様のニュアンスと店の方針を両立させるためにベストを尽くしたつもりだったのだが、もちろん店長の怒りを助長させてしまったのは言うまでもない。

「○ルメスみたいな新人」はどこまでも厄介者だったのだろう。その後、私は分かりやすくシフトから外されたり、身に覚えのないことで理不尽に叱られたりするようになってしまった。このまま解雇されるのではないかと思ったほどだ。

 そのきつい風向きが変わったのは、ほんのちょっとしたきっかけだった。

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