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『ヴィンセント博士のミステリーサンプル』第2話を知っているか

第1章【国王陛下のマーチ】


■場面:オープニング

主人公・ヴィンセントのナレーションからスタート。
キャラ紹介しつつ、グレイとの出逢いを振り返る。

※BGM:クラシックっぽいピアノ曲

ヴィンセントN
「俺の名前は、ドクター・ヴィンセント。
アメリカ生まれアメリカ育ちの、優秀な植物学者だ。
(強調して)ちなみに俺は、イギリスという国とイギリス人が、
大嫌いである」

ヴィンセントN
「そんな人間がどうしてロンドンにいるのか。
さぞかし疑問に思うだろう。
学術論文について、あらぬ疑いを掛けられた俺は、
亡命を余儀なくされたんだ」

ヴィンセントN
「失意の縁で出逢ったのは、ひとりのカフェ店主だった。
 彼の名前は、グレイ。
高慢ちきで皮肉屋、イケすかない英国紳士。
 ……しかし、その灰色の頭脳は、なかなか見どころがある」

ヴィンセントN
「『よき思考には、よき休息を』とは、
アメリカの心理学者マース博士の言葉だったか。
そんなわけで俺は、息抜きの時間をグレイのカフェで過ごすようになった。
もっとも、イギリスの紅茶は、相変わらず口に合わないけれど」

※BGM:クラシックっぽいピアノ曲
→徐々に小さくなる。次のシーンにかぶる

場面:グレイのカフェ『speedy』(朝)

午前11時。店内は閑散としている。
グレイ、キッチンで作業している

   ※SE:カップを磨く音(キュッキュッ)
※SE:お湯が静かに沸騰している音(コポコポ)
   ※SE:時計が鳴る音(ボーンボーン)

グレイ
「……おや、もうこんな時間ですか。
  今日は寝坊でもしたんですかねえ」

ヴィンセント、店に入ってくる
力なくグッタリしている

   ※SE:扉が開く音(ガチャン)
   ※SE:扉のベルが軽く鳴る音(チリーン)

ヴィンセント
「(深い溜息)は――っ……。
 モーニングセットをくれ。焼いたトマトは抜きだぞ」

  ヴィンセント、窓際にあるお決まりの席へ向かう。
  椅子に荒っぽく腰を下ろす

   ※SE:小さな足音(タタタ)
   ※SE:椅子に腰掛ける音(ドサッ)

ヴィンセント
「(深い溜息)ふーーっ……」

グレイ
「やれやれ、おはようくらい言ったらどうです?
 束の間の青空も曇ってしまいますよ」

ヴィンセント
「(恨み節っぽく)朝方、眠りにつこうとしたら、
浮かれたロンドナーが、大通りでお祭り騒ぎを始めた。
(頭を抱えて)ノイローゼになりそうだ」
  
グレイ
「ああ、トゥルーピング・ザ・カラーの準備でしょう。
 6日後に、国王陛下のご生誕を祝う式典が行われるんです。
 仏頂面のイギリス人も、今の時期はご機嫌ですよ」

ヴィンセント
「(憎々しげに)アメリカ人の俺には関係ない話だな。
まったく……不運なことばっかりだ」

グレイ
「(軽く笑って)ふふ、聞いてほしそうな顔ですね?」

ヴィンセント
「(照れ臭そうに)笑うなよ。
 大学の植物園が何者かに荒らされたんだ。
 おかげで素材が手に入らない。研究も一時中断ってわけだ」

グレイ
「なるほど。穏やかじゃない事件ですね。
 犯人は野ウサギかキツネか、あるいは彷徨う幽霊か?」

ヴィンセント
「グレイにしては非科学的な推理だな。幽霊なんているわけないだろう。
 俺は無神論者で現実主義者だ。目に見えないものは信じない」

グレイ
「ロマンを持つこともユーモアのうちですよ。
 イギリスで人気のあるお屋敷は、
古くから幽霊が住んでいるものです」

  グレイ、食事のプレートとカップを提供する
  ヴィンセント、少し笑顔になる

   ※SE:食器を置く音(カチャカチャ)
   ※SE:カップに紅茶を注ぐ音(コポポポ)

グレイ
「さあ、熱いうちにどうぞ。
 今朝の一杯はラプサンスーチョン、世界で最初に作られた紅茶です。
 独特な香りで、淀んだ視界も開けるでしょう」

ヴィンセント
「(軽く嗅いで)へえ、これは……。
松葉で燻製にしてあるのか。まるで魔女の薬だな」

  ヴィンセント、一口啜る

ヴィンセント
「(ホッと一息ついて)意外な味わいだ。
 ミルクを入れたことで甘みと優しさが広がる。
 (強がって)……嫌いじゃない」

グレイ
「カフェインも多く含まれています。
 ブラックコーヒーを大量に摂取するより健康的だと思いますよ。
 白衣に零してシミだらけにもなりませんしね」

ヴィンセント
「(ちょっと悔しそうに)うっ……。
 この店で唯一気に入らないのは、
 そうやって客の私生活を覗いてくるところだよ!」

  ヴィンセント、黙々と食事を始める
  そのとき、店の電話がけたたましく鳴り響く

   ※SE:電話の鳴る音(ジーンジーン)

グレイ
「おや、騒々しいですね。
せっかくのティータイムだと言うのに。
 私がこの店で唯一気に入らないのは、あの電話の音ですよ」

  グレイ、電話に歩み寄る

   ※SE:歩く足音(カッカッ)
   ※SE:電話に出る音(ガチャ)

グレイ
「はい、カフェ・speedyです。
午後の営業は2時からですが……」

グレイ
「(少し高揚して)
……ああ、あなたでしたか。
 ふふっ、先日の茶葉が足りなくなったようですね。
 ちょうどクランペットが焼き上がったところです、
 一緒にお届けしますよ」

グレイ
「ええ、それではのちほど。
(意味深に)とても楽しみにしています」

  ※SE:電話を切る音(カシャン)

  グレイ、明らかに嬉しそうな様子
  ヴィンセント、興味を惹かれつつも素知らぬ顔をする

ヴィンセント
「……何だ、聞いてほしそうな顔だな?」

グレイ
「ちょっとした事件が舞い込みましてね、
今からロンドン市警へ向かいます。
暇を持て余した学者さんなら、ご同行いただいても構いませんが?」

  ヴィンセント、暇と言われてムッとする

ヴィンセント
「(拗ねた感じで)俺は忙しいんだ。
この世界には無限とも言える草花が育つ。
そのミステリーを解明するため、時間がいくらあっても足りない」

グレイ
「それは大事なお仕事ですね、ドクター。
……しかし、ちょっと残念ですよ。
あなたも私と同じ、スリルを行動起因とする
特殊体質だと思っていましたから。
美しい花では飽き足らず、根っこに潜む毒まで食らう……」

グレイ
「(距離を詰めて妖艶に)
ねえ、気付いているでしょう? ヴィンセント。
あなたは刺激不足で乾ききっている。
……私が潤してあげましょうか?」

  グレイ、わざとからかう
  2人、痴話喧嘩のように言い合いになる

ヴィンセント
「(ツンとして言い返して)
素敵なお誘いだがお断りする、ミスター・グレイ。
俺にはロンドンの水が合わないんでね」

グレイ
「(さらに煽って)おやおや。
これだけ英国の紅茶を嗜んでおいて、冗談がお上手なことだ。
あれがないと目が覚めないくせに」

ヴィンセント
「(怯みつつ言い返して)くっ!
あんたって人は、英国一嫌味が上手いな……っ!」

   2人、仲良く口論になる
   わーわー揉めつつ徐々にFO

   ※BGM:メインテーマっぽい曲→盛り上がってCO

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第2章【ダイヤモンドは永遠に】


■場面:ロンドン市警・会議室(昼)
   午後12時。グレイ、警察署の会議室に通される
   ジョーンズ警部、大声で出迎える

   ※SE:オフィスのざわめき(わいわい)
   ※SE:軽い足音(タタタッ)

ジョーンズ
「(明るく)おう! よく来たな、ミスター・グレイ。
あんたの到着を待ってたんだ!」

グレイ
「遅くなってすみません、ジョーンズ警部。
 同行者と口喧嘩になってしまいましてね」

ジョーンズ
「同行者? ひょっとして、そこのクールな青年のことか?」

   ヴィンセント、グレイの背後から歩み出る
   憮然とした表情

グレイ
「ええ。彼の名前は……」

ヴィンセント
「(拗ねた感じで)グレイ、挨拶くらい自分で出来る。
 俺はドクター・ヴィンセントだ。スペンサー大学で植物学の研究をやってる」

ジョーンズ
「(握手して)へえ、グレイの相棒ってことでいいのか?
会えて嬉しいぜ、ドクター。
 スコットランドヤードへようこそ!!」
グレイ
「ジョーンズは、ロンドン市警の優秀な警部なのですよ。
UFO騒ぎから猟奇殺人まで、厄介な事件ばかり手掛けています。
ロイヤルファミリーにも一目置かれているとか」

ジョーンズ「ふはははは、そんなに褒めてくれるなよ。
 照れるじゃねえか!!」

ヴィンセント
「(小声で呆れたように)……グレイや国王陛下が面白がる男か。
 一癖も二癖もありそうだな」

グレイ
「(小声で)好奇心が疼いてきたでしょう?
 私に着いてきてよかったですねえ」

ヴィンセント
「(悔しそうに照れて)っ、うるさいっ……!」

グレイ
「(さらっと流して)さて、ジョーンズ警部。
挨拶も済んだところですし、
 今回の事件について、もう一度お聞かせ願えますか?」

ジョーンズ
「ああ、そうだな。2人とも、ひとまず手袋をしてくれ。
それから、この証拠品を確認してほしい」

  ※SE:カードをめくる音(ペラッ)

  ジョーンズ警部、袋に入った一枚のカードを取り出す
  赤インクで文字が走り書きされている

ヴィンセント
「……ふーん。一見、ただのメッセージカードだな。
赤インクで何か書かれてる」

グレイ
「これはラテン語の文章です。私が翻訳してあげましょう。
 よく聞いていてください」

グレイ
「『拝啓、国王陛下。
トゥルーピング・ザ・カラーの前夜、ロンドン塔に眠るダイヤを頂戴する。
あなたに神のご加護がありますように』」

  ヴィンセント、ハッと驚く

  ※BGM:ミステリアスな音楽

ヴィンセント
「これは……つまり、犯罪の予告状ってことか?」

■『ヴィンセント博士のミステリーサンプル』第2話終わり

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