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《秘密の箱で泣く先生》【統制環境とキャリア30】

『呆気ないモンだな』

「、、、そうですね」

『、、、先生はさ、アイツが死んだ時、どんな感じだったの?』

「、、、アイツ、というのは?」

『、、、アイツだよ。分かってて、気づかないフリ?』

「、、、そうですね。馬鹿が、、、と」

『まさか、ではなくて?」

「まさか、とは思いませんでしたね。何でだろう、、、」

『馬鹿が、か、、、
今の先生を見たら、アイツ、、、名前、何だっけ?』

「、、、忘れました」

『忘れるワケないじゃん』

「、、、では、記憶にございません、では、いかがでしょう?」

『まぁ、いいか。
多くのヒトは呆気なく死ぬし、呑気に生きてる。
でも、ほんとうは、全部、繋がってく。
生きてる生きてく、、、
いや、
始まりがまた始まってゆく、かな』

「ましゃ、ですね?」

『先生も、ラジオの影響で、そう呼ぶ様になったの?』

「どう、お呼びしたらイイのか、いつも困るんです。AKIRAは私が初めて、自分で購入したCDです。この歳まで、CDを買ったコトがなかった人生だったので。で今は、伝言から殆ど全部、アルバムは揃えてます。
でも、やっぱりAKIRAは、毎日、欠かさず、聴いております」

『分かるよ。それは、分かる。
それに呼び方は、30年、ずっと追っかけてる俺でも困ってる。
野郎夜の時には、皆で、福山、福山、って呼んで、泣いてるんだけど、日常ではさ、福山さん、もオカシイし、福山雅治って呼ぶのもさ、距離を感じるし』

「ましゃ、で、イイんじゃないですか?」

『恥ずかしいのかもな』

『恥ずかしい?
そんな感情がまだ、残ってるんですか?』

『この社長室を出たら、別人になるんだよ。
ステージの魔物みたいに、この場所では、俺は別人になれる』

「、、、」

『、、、何だよ?』

「佐久間様は、そちらの、ご自宅という名のお部屋には?」

『一度だけ?
多分、後にも先にも、あん時だけ、かな。
俺がさ、間違って、酔い潰れたんだな。
あっ、そうだそうだ。
野郎夜に連れてったんだよ、横浜に。
それで、福山、アイツは凄いな、とか言って興奮してる佐久間さんと、そうそう、まずは伊勢佐木町で飲んで、、、古い店で、佐久間さんの昔の知り合いの店。
その後、新宿に戻ってきて、そうか、横浜までタクシーで、そっから湘南新宿ラインかな、、、それとも、東横線で渋谷経由、、、そこら辺から、覚えてないな。最後は多分、いつもの歌舞伎町で。
まぁ、いいや。
でさ、気づいたら、あの親父、俺のベッドで寝てんだよ。隣で、イビキかいて、、、
アレっ、てなって、、、
慌てて、起きて、ふざけんな、とか、何とか言って起こして、、、』

「なるほど。そういう流れで、あの開かずの間に、、、
起きて、その時、どんなご様子でした、佐久間様は?」

『、、、秘密だよ』

「、、、そうですか。
社長の記憶の箱に、そっと仕舞われてるんですね」

『違うよ。
気持ち悪くて、思い出したくないだけ、、、』

「、、、そう、しておきましょう」

『いや、ほんとうに、違うから。
くそっ、あの親父。
死んでも、俺の記憶に残っていやがる』

「死んだ、から、、、ですよ」

『、、、先生が言うと、重いよ』

「田代が自殺した時、私は、、、
そうですね。アレは自殺です。間違いない。
でも、司法はそうとは判断しなかった。
そうでもしないと、色々、収まりがつかなかった。
普通は、自殺にするんですけどね。
責任を死人に押し付けるために。
そんな普通は、普通ではないんですけど。
でも、田代の場合は逆だった。
田代が自死を選んで、自ら命を絶ったコトは、関係者にとって不都合が多すぎた。
私は、、、そうですね、、、馬鹿が、そんなコトで、命を絶って、何してるんだ、馬鹿が、馬鹿が、、、
と、いまだに、自分を責めてますよ。
田代を殺したのは、私です。
私が私の手で殺したのなら、その方が良かったかもしれない。
そしたら、私は刑を”正しく”受けるコトも、罰せられるコトもできた。
もう、アイツには、謝るコトも、、、できない。
できないんですよね。
だって、、、」

『、、、そうだよ、先生が全部、悪いんだよ。
ほんとうに先生が、悪いんだよ。それで、一回、死んでるの。
だから、死ぬまで、先生は俺に仕えるんだよ。
一生、俺がコキ使って、死ぬまで、、、
死んでも、俺が面倒を見るよ。だから、安心して、生きててよ』

「、、、」

『、、、』

「、、、イヤ、だな」

『、、、それが、先生の罰だよ』

「、、、そうです。門番として、勘定奉行として、お仕えいたします」

『感情の見えない門番兼勘定奉行として。
もう、始まってるんだよ、二回目の人生が』

「、、、私、そんなに表情がないですか?」

『もう、極寒の阿寒湖の、ツルッツルの氷上のような表情だよ。ダンロップのタイヤも歯が立たないくらいに、ツルッツルすぎて、何にも映らない』

「、、、それは、良かった」

『何で?』

「、、、秘密です」

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