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野球選手のためのプライオメトリクス

■野球に必要な要素

野球では、投げる、捕る、打つ、走るなどの同一動作の繰り返しが行われます。
これらの動作をうまく行うためには、「スピード」、「パワー」、「敏捷性」など、高いレベルの体力が必要になります。1)

野球に必要な要素

様々なトレーニングプログラムがハイレベルなパフォーマンスの維持と傷害の予防に役立っていることが多くの研究により明らかにされています。2,3)

■プライオメトリクスとは

その中でも『プライオメトリックトレーニング』は、神経生理学的メカニズムに基づいたストレッチ-ショートニングサイクル(SSC)と呼ばれるトレーニング(SSC)方法です。4)

筋肉には、素早く伸ばされた直後に素早く縮むという性質があります。
これを『伸張反射』と呼びます。

プライオメトリクスはこの伸張反射や筋肉や腱の弾性成分を利用することで、パワーを高めるトレーニング方法になります。5)

具体的には連続したジャンプや段差から飛び降り着地した瞬間にジャンプするなどの動作になります。

要は「瞬間的に力を発揮する能力」を鍛えるのがプライオメトリクスになります。


■プライオメトリックトレーニングの効果

いくつかの研究では、定期的なプライオメトリックトレーニングは、思春期のアスリートの神経筋機能とパワー、スピード、敏捷性などの体力を効果的に高めることが報告されています。6,7)

そして、それにより爆発的なパワーを必要とするスポーツのパフォーマンスを向上させることができるとされています。8-10)

瞬間的な力発揮は、ピッチングやバッティングなどの短い時間で大きな力を出さないといけない動作に非常に重要な要素です。


特に高校生以上になるとウエイトトレーニングにより筋肥大・筋力向上を図ると思いますが、この「瞬間的な力発揮」が上手くできないと、いくら筋力をつけても、競技のパフォーマンスにはつながりません。

そして、これを行うのはパフォーマンスをピークに持っていきたい試合の約2ヶ月前が良いとされています。

夏に本番を迎える高校・中学球児はまさに今の時期に取り組むべきトレーニングになります。


では、どのような種目を行えば良いのでしょうか?

野球選手を対象にした研究において、科学的に効果が実証されているプログラムがあります。


■野球選手のプライオメトリックトレーニングの科学的根拠

プライオメトリックトレーニングの実践方法について
高校野球選手対象にした一つの論文11)から、解説したいと思います。

まず研究の概要です。


〈方法〉

■対象
高校野球選手21名
プライオメトリックトレーニング群(11名)とコントロール群(10名)の2群に無作為に分類

■プライオメトリックトレーニングプロトコル
頻度・期間:週3回(1時間)×8週間
(ウォームアップ(動的ストレッチ、5分)、クールダウン(静的ストレッチ、5分)を必ず実施)

回数・セット数:
1〜4週目 12回×3セット
5~6週目 12回×4セット
7〜8週目 12回×5セット

休息時間:セット間30秒、各種目間1分

トレーニングプログラム:先行研究を参考12,13)

*コントロール群はプライオメトリックトレーニングを行わず、一般的な野球のトレーニングのみ実施


■測定項目
・最大筋力(左右の握力)
・筋持久力(腹筋:60秒間の回数)
・敏捷性(反復横跳び(1.2m間隔):20秒間の回数)
・パワー(立ち幅跳び)
・バランス(左右の片足立ち:120秒の可能かどうか)


■統計学的解析
8週間のプライオメトリックトレーニング後に、時間(トレーニング前後)とグループ(2群)の有意な相互作用効果が生じたかどうかを確認するために、反復測定分散分析を使用

〈結果〉

8週間のプライオメトリックトレーニングの後、左手の握力、反復横跳び、 立ち幅跳びにおいて、時間と群との間に有意な相互作用効果が認められ、コントロール群よりもプライオメトリックトレーニング群の方がより有意に大きな改善を示した



以上の結果より、『高校野球選手に対するプライオメトリックトレーニングは主に「最大筋力」、「敏捷性」、「パワー」の向上に有効である』ことが示唆されました。

この研究では直接野球のパフォーマンス(球速やスイング速度)は評価されていないのは残念で、実際それらが向上するかは不明ですが、立ち幅跳びや筋力との相関関係があるため、少なくとも影響は与えると推測されます。


また、通常の野球練習を継続した群との比較ですから、やはりそれとは別に体力トレーニングをする必要性もこの研究からわかります。


この研究で使用された具体的なプライオメトリックトレーニング種目に関しては以下になります。動画で方法を紹介していますので参考にしてください。


■野球選手のプライオメトリックトレーニングの実際

Kim S, et al. Phys Act Nutr. 2022 より

〈種目〉

・Squat jump
(スクワットジャンプ)
・Split squat jump
(スプリットスクワットジャンプ)
・Pike jump
(パイクジャンプ)
・Double-leg hop
(ダブルレッグホップ)
・Double-leg zigzag hop
(ダブルレッグジグザグホップ)
・Single-leg hop
(シングルレッグホップ)
・Lateral barrier hop
(ラテラルバリアージャンプ)
・Skip
(スキップ)
・Depth jump
(デプスジャンプ)
・Depth jump with Lateral
(デプスジャンプwithラテラル)

Kim S, et al. Phys Act Nutr. 2022 

*動画内ではこの他に以下のスタンダードなプライオメトリック種目を追加しています。

・Counter movement jump
(カウンタームーブメントジャンプ)
・Counter movement jump  with arm swing
(カウンタームーブメントジャンプ withアームスイング)


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