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物語で描かれていた「AI/人工知能」が現実になるかもしれない

月ごとにテーマを決めて、小説を通して出会った興味を深掘りしていくことを抱負にした2024年。

3月に選んだテーマは「AI/人工知能」。

現代において、飛躍的な進歩を遂げている「AI/人工知能」について、その目をみはるほどの成長スピードは肌身で実感していたものの、実際のところ「何がすごいのか」はあまり理解できていなかった。

また、「AI/人工知能」を扱った物語は今までも多く存在していたけれど、そのどれもが遠い未来に起こる出来事だと思っていた。

しかし、今やその世界が、現実になろうとしているのかもしれない。

物語の世界で描かれていた「AI/人工知能」とは?

物語のなかで描かれる未知の最先端技術は、どちらかと言えば「SF」と呼ばれるジャンルで扱われることが多かった。

人型ロボットやアンドロイド、はたまたタイムマシン。
遠い未来に実現されるかもしれない夢の技術。

しかし、当時においては「SF」に過ぎなかった技術が、今や現実のものとなったケースもある。

たとえば、岡嶋二人さん『クラインの壺』は、PCや携帯電話すら普及していない1989年に刊行されたにもかかわらず、RPGゲームの舞台となる仮想世界に入りこむ主人公たちの姿が描かれていた。

知ってのとおり、その技術は現在、空間コンピューティングという分野におけるVR(ヴァーチャルリアリティ)技術として実用化されており、世間でもお馴染みのものとなりつつある。

また、野崎まどさんの小説『タイタン』では、AIが社会を統制することによって人類が「仕事」から解放された社会が描かれている。

この作品では、「タイタン」と呼ばれるAIが、人間の脳とも言える基幹部と無数に細分化されたロボットAIを使い分け、これまで人がこなしていた労働をすべて代替することを可能としていた。

自動運転ロボットの自動制御技術によって、医療、建築、交通など、あらゆる領域においてAI「タイタン」が人の手を借りずに稼働する世界においては、人が働く必要は全くない。

この物語の主人公ですら、心理学を「仕事」ではなく、あくまで「趣味」として学んでいたほどなのだから。ストレスフリーで夢のような世界だ。

しかし、これは創作の世界だと割り切れないほど、AIは現実でも想像を絶するスピードで進化している。

2015年の時点で、当時、存在している職業の約半数が失われる可能性があるという研究報告があったように、近い将来、AIの普及によって「人の仕事が奪われるのではないか?」と危惧しているかたも多いのではないだろうか。

そんなふうに、AIに対して様々な意見が噴出するなかで、最近、『電気じかけのクジラは歌う』という小説を読んだ。

この作品では、人工知能による作曲アプリ「jing」が世の中を席巻した世界で、作曲家と呼ばれる職業が絶滅の一途をたどっている社会が描かれている。

物語のなかの世界ではあるけれど、新しい音楽を創る喜びや、まだ聴いたことのない曲を見つけるといった楽しみは、未来でも当たり前のように存在すると思っていた。

しかし、実際に今、AIは動画や文章、イラストなど、創作の領域にまで進出しており、『電気じかけのクジラは歌う』で描かれる出来事が、そう遠くない未来に起こる可能性は十分にあるのかもしれない。

そんな複雑な想いが頭のなかを渦巻くにつれて、今一度、「AI/人工知能」について学んでみたい、知ってみたいという気持ちが強くなった。

人間の知能はプログラムで実現できるのか?

まず、知りたかったのが「AI/人工知能」とは何をきっかけに生まれて、どのように進化を遂げてきたのか。その成り立ちについてだった。

そこで、「AI/人工知能」の成長過程が記された本がないか調べているうちに出会ったのが、松尾豊さん『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』

この本では、黎明期の人工知能開発から何度も訪れたAIブームの流行り廃りを経て、どのように「AI/人工知能」がブレイクスルーを遂げたのかが分かりやすく描かれている。

何が違うかというと、人工知能について報道されているニュースや出来事の中には、「本当にすごいこと」「実はそんなにすごくないこと」が混ざっている。(p.33)

人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの/松尾豊

「AI/人工知能」には、何ができて、何ができないのか。
その正しい認識を持つことが、理解への第一歩となるという。

「推論」や「探索」といった能力を使って、将棋やチェスで人を打ち負かすことができるようになったものの、現実の問題には対応できないジレンマを抱えていたこと。

「知識」をAIに詰めこむことで、人間との対話を実現させることができたものの、その「知識」の表現の仕方について、人が扱うレベルまで到達させることができなかったこと。

そして、「ディープラーニング」と呼ばれる技術によって、50年もの間、阻まれ続けていた「特徴量」の壁に風穴を空けるに至ったこと。

ちなみに「ディープラーニング」については、言葉として知っていたものの、何が何だか全くもって理解していなかったので、業界に衝撃が走るほど、どれだけ画期的な技法だったのかをこの本で知ることとなった。

さすがに、この文章内ですべてを語るには、自分の説明力も記事のスペースも圧倒的に足りないので割愛するけども。

世の中の「相関する事象」の相関をあらかじめとらえておくことによって、現実的な問題の学習は早くなる。なぜなら、相関があるということは、その背景に何らかの現実の構造が隠れているはずだからである。(p.166)

人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの/松尾豊

個人的に、本のなかの天気予報を例にした説明ががわかりやすかった。
ああいう例をスマートに使えるようになりたい。

ポッドキャストで「生成AI」について学ぶ

前述の本は、「AI/人工知能」の歴史とその技術の進捗について、ストーリーに沿って学ぶことのできる本だった。

しかし、この本が発刊されたのは2015年だったので、ここ数年で社会を賑わせている「生成AI」と呼ばれる技術についてはそこまで深く触れられていない。

そこで、たまたま見つけたのが、「日本IBM」が今後、数年間の間に世界を形作ると考えられている7つのビジネストレンドについて、各分野の専門家とディスカッションしているポッドキャスト。

本当に無料で聴いていいのか疑ってしまうくらいには、興味深い内容に感心してしまうなか、7つのビジネストレンドの一つに「生成AI」が選ばれていた。

対談を聞いていて、特に印象に残ったのが「AIのリスク管理」の部分だった。

「生成AI」は、人間の生活を豊かにする技術ではあるものの、社会を大きく揺るがす力も秘めている。人々が使う電気を効率的に生みだしながら、恐るべき兵器にもなりうる「原子力」のように。

だからこそ、秩序や倫理を踏まえてコントロールするべき事象であると、対話のなかで二人は語っていた。

驚くべきスピードで進化する「生成AI」に対して、使用におけるグレーゾーンを狭める規制や法律を整備したり、ユーザーが安心して使えるように、透明性を高めること。その必要性を、確かに感じるディスカッションだった。

企業は今、あらゆる形態の AI を 取り入れるための競争を繰り広げており、競合他社よりも早く、かつ効果的に 生産性を高める方法を模索している。しかし、セキュリティー、プライバシー、 知的財産権を最優先しなければならないことは今後も変わらない。(p.13)

「成長を賭けた7つの決断」レポート

最後に

結局のところ、「AI/人工知能」は人間を超えることができるのかもしれない。物語で描かれていたような「AI/人工知能」が、生活の基盤となった世界がいつか訪れるのかもしれない。

しかし、その「AI/人工知能」を扱うことができるのも、また人間でしかないのだ。

それならば、「AI/人工知能」の進化に恐れをなすよりも、その技術の高さを受け入れたうえで、正しい認識をもって「AI/人工知能」と共存する社会を、職業に関係なくすべての人々で作り上げていくことが重要だと思った。

とても興味深かった「AI/人工知能」について。
個人的に、引きつづき学びたいテーマだった。

それはともかくとして、4月のテーマは「植物」について。

偶然、「AI/人工知能」と対極にあるようなテーマになったけれど、「植物」もまた、人との共生が必要不可欠な存在だ。

自然環境サステナビリティとも密接な関係にある分野なので、これからの社会でどのように「植物」が関わっていくのか。気になる。


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