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3次方程式と4次方程式の解法

$$
x=\frac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a}
$$

2次方程式 $${ax^2+bx+c=0}$$ の解法として、学校で散々暗記させられたこの公式。

実は、今から約4000年前の古代バビロニアでは既にこの式と実質的に同じ解法が知られていました。

一方、学校ではほとんど教えられることのない3次方程式と4次方程式の解法が発見されたのは、16世紀ルネッサンス期のイタリアです。

今日は、これらの公式を歴史とともに紹介したいと思います。

3次方程式の解法

世に出るまでの経緯

中世イタリアでは、数学者たちは名声と地位を得るためにしばしば数学勝負(互いに問題を出し合う公開討論会のようなもの)を行いました。

その時によく出題されていたのが3次方程式の解を求める問題です。当時は、3次方程式に一般的な解法はないと信じられていました。

(2次の項を含まない)3次方程式の解法を最初に発見したのはデル・フェッロだと言われています。彼の秘術を授かった弟子のフィオーレは数学勝負に勝ち続けました。

デル・フェッロの噂を聞いたタルタリアは独自に3次方程式の解法を見つけます。フィオーレはタルタリアを打ち負かそうと数学勝負を仕掛けるも、敗北。

この勝負で、タルタリアは大いに名声を高めたのでした。

タルタリアの噂を知ったカルダノはあの手この手を使って解法を聞き出すことに成功します。

タルタリアの方法を発展させて2次の項を含む一般の3次方程式の解法を見つけたカルダノは、タルタリアとの約束を反故にしてその解法を世に公表します。

タルタリアは激怒しましたが、カルダノも名声を独り占めするつもりはありませんでした。

このような経緯により、3次方程式の解法はカルダノの方法として世に知られることになったのです。

カルダノの方法

それでは、カルダノの方法を解説していきます。

まず、2次の項を消去するためにカルダノ変換を施します。
$${x^3+ax^2+bx+c=0}$$ に対して、$${X=x+\frac{a}{3}}$$ と変数変換すると、$${X^3=x^3+3\frac{a}{3}x^2+\cdots=x^3+ax^2+\cdots}$$ より2次の項を消去できます。
以降、3次方程式はカルダノ変換を施して以下の形とします。

$$
X^3+pX+q=0
$$

ここで、次の因数分解の公式に着目します。

$$
X^3+y^3+z^3-3Xyz = (X+y+z)(X^2+y^2+z^2-Xy-yz-zX)
$$

この公式において、$${p=-3yz}$$、$${q=y^3+z^3}$$となるように $${y}$$、$${z}$$ の値を決められたら $${X=-y-z}$$ が与えられた方程式の根の一つとなることが分かります。

$$
y^3z^3=-\frac{p^3}{27}、y^3+z^3=q
$$

より $${y^3}$$、$${z^3}$$ は2次方程式 $${x^2-qx-\frac{p^3}{27}=0}$$ の2根となります。

$$
y^3 、z^3 = \frac{q}{2}\pm\sqrt{(\frac{q}{2})^2+(\frac{p}{3})^3}
$$

ここで、

$$
y 、z = \sqrt[3]{\frac{q}{2}\pm\sqrt{(\frac{q}{2})^2+(\frac{p}{3})^3}}
$$

と決めると条件を満たし、根の一つ

$$
X=-y-z=\sqrt[3]{-\frac{q}{2}+\sqrt{(\frac{q}{2})^2+(\frac{p}{3})^3}}+\sqrt[3]{-\frac{q}{2}-\sqrt{(\frac{q}{2})^2+(\frac{p}{3})^3}}
$$

が求まります。

虚数への当時の反応

「還元不能の場合」

当時、カルダノの方法には弱点があるとみなされていました。

それは公式の中の平方根の中身が負になる場合です(これは3次方程式 $${X^3+pX+q=0}$$ が異なる3つの実根を持つための条件と一致します)。

$$
(\frac{q}{2})^2+(\frac{p}{3})^3 < 0
$$

この時は平方根の部分が虚数になりますが、厄介なのは全体の根そのものは実数となることです。

例えば、 $${x^3-21x+20=(x-1)(x-4)(x+5)=0}$$ をカルダノの方法で解くと $${\sqrt[3]{-10+9\sqrt{-3}}+\sqrt[3]{-10-9\sqrt{-3}} = (2+\sqrt{-3})+(2-\sqrt{-3}) = 4}$$ 。途中で虚数が出てくるのに最終的な答えは実数です。

当時は複素数など認められていなかったので、虚数が現れた時点で計算不能に陥ることになります。このケースは「還元不能な場合」と呼ばれました。これが、カルダノの方法に弱点があるとみなされた理由です。

これについてカルダノ自身は、虚数を形式的に認めて計算を続けることは「精神的な苦痛を横においておけば」それなりに辻褄が合うと言いながら、これ以上深追いはしませんでした。

一方、カルダノとほぼ同時期のボンベリは、虚数の計算規則を形式的に定めて、いくつかの3次方程式を実際に解いています。

このように、虚数は一旦認めると便利な道具なのですが、当時の数学者たちには容易に受け入れられなかったようで、あのデカルトでさえも軽蔑的な意味を込めて「想像上の(imagimaire)数」と呼んだのでした。

さて、虚数を認めるとカルダノの方法によって3次方程式の3つの根すべてを表現できるようになります。

3次方程式 $${X^3+pX+q=0}$$ の3つの根は以下の通り

$$
\sqrt[3]{-\frac{q}{2}+\sqrt{(\frac{q}{2})^2+(\frac{p}{3})^3}}+\sqrt[3]{-\frac{q}{2}-\sqrt{(\frac{q}{2})^2+(\frac{p}{3})^3}}
$$

$$
\omega\sqrt[3]{-\frac{q}{2}+\sqrt{(\frac{q}{2})^2+(\frac{p}{3})^3}}+\omega^2\sqrt[3]{-\frac{q}{2}-\sqrt{(\frac{q}{2})^2+(\frac{p}{3})^3}}
$$

$$
\omega^2\sqrt[3]{-\frac{q}{2}+\sqrt{(\frac{q}{2})^2+(\frac{p}{3})^3}}+\omega\sqrt[3]{-\frac{q}{2}-\sqrt{(\frac{q}{2})^2+(\frac{p}{3})^3}}
$$

ここで、$${\omega}$$ は1の原始3乗根 $${\frac{-1+\sqrt{-3}}{2}}$$ である

ヴィエトによる回避法

「還元不能の場合」を虚数を使わずに解く方法として、ヴィエトの三角関数の3倍角の公式を利用するものがあるのでここで紹介します。

3次方程式 $${x^3+px+q=0}$$ において $${x=\lambda X}$$ とおくと、 $${\lambda^3X^3+p\lambda X+q=0}$$ となります。ここで、 $${\lambda = 2\sqrt{-\frac{p}{3}}}$$ とおけば $${\lambda^3 : p\lambda = 4:-3}$$ が成り立つので

$$
4X^3-3X+\frac{q}{2}\sqrt{(\frac{3}{-p})^3}=0
$$

と変形されます。

ここで、「還元不能の場合」の条件を見てみると
$${(\frac{q}{2})^2+(\frac{p}{3})^3<0 \Leftrightarrow (\frac{q}{2})^2<(\frac{-p}{3})^3 \Leftrightarrow (\frac{q}{2})^2(\frac{3}{-p})^3<1 \Leftrightarrow -1<\frac{q}{2}\sqrt{(\frac{3}{-p})^3}<1}$$ より

$$
\sin 3\theta = \frac{q}{2}\sqrt{(\frac{3}{-p})^3}
$$

を満たす角 $${\theta}$$ が存在します。
3倍角の公式

$$
4\sin^3\theta - 3\sin \theta + \sin 3\theta =0
$$

より、 $${X=\sin \theta}$$ が上記の方程式の根であることが分かります。

つまり、角の3等分によって「還元不能の場合」が攻略できるわけです。

4次方程式の解法

フェラーリの方法

4次方程式の解法は、カルダノの弟子のフェラーリによって発見されました。

ここでは、その後に工夫された方法を紹介します。

まず、3次の項を消去するためにカルダノ変換を施します。
$${x^4+ax^3+bx^2+cx+d=0}$$ に対して、$${X=x+\frac{a}{4}}$$ と変数変換すると3次の項を消去できます。

以降、3次方程式はカルダノ変換を施して以下の形とします。

$$
X^4+pX^2+qX+r=0
$$

2次以降の項を移行して、両辺に $${2kX^2+k^2}$$ を加えて整理すると、

$$
(X^2+k)^2=(2k-p)X^2-qX+(k^2-r)
$$

となります。この右辺が $${(Xの1次式)^2}$$ の形になるように $${k}$$ の値を決めます。

そのためには、右辺の判別式 $${D=q^2-4(2k-p)(k^2-r)=0}$$ となればよいので、求める $${k}$$ の値は以下の3次方程式を解くことで得られます(カルダノの方法で任意の3次方程式が解けることは既に証明済みです)。

$$
8k^3-4pk^2-8rk+4pr-q^2=0
$$

この式を分解方程式と呼びます。$${k}$$ の値が求まると、もとの式は

$$
(X^2+k)^2=(\sqrt{2k-p}X-\frac{q}{2})^2
$$

となり、最終的には以下の2つの2次方程式に帰着されます。

$$
X^2\pm(\sqrt{2k-p}X-\frac{q}{2})+k=0
$$

最後に

以上、3次方程式と4次方程式の解法を紹介しました。

歴史を辿りながら学ぶと、それらの意義がより一層理解できて面白いですね。

最後に、参考にした書籍を掲載しておきます。


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