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私たちは回遊している③ 何もない町、本庄

©大洞博靖

埼玉には、ないものが沢山ある。
埼玉には海もないし世界遺産もない。

特に、私の住んでいる本庄市は本当に何もない。

歴史的建造物は色々とあるにはある。高偏差値を誇る高校もある。だが、他を圧倒するようなコンテンツはなく、町おこしもうまくいっているとは言い難い。
つまり、「何もない」というのは謙遜ではなく、愚直な表現としての「何もない」なのである。

でも、「ないことの強み」もある。
本庄は実は、明治期に遷都先の候補になったことがあるほど災害が少ない町なのである。

埼玉と群馬の県境“空港整備”を構想、直接海外と結ばれる可能性(2024年1月4日 埼玉新聞)
https://www.saitama-np.co.jp/articles/61387

地盤が強いため、近年では国際空港を作ろうという計画まで立ち上がっている。

舞台版『埼玉回遊』のダンスシーンのうち最も激しかった場面では、ダンサー達が驚くべき跳躍力で闊達に飛び回り、埼玉県北の地盤の強さを表現するかのように、床を大きく踏み締めていた。
力強い足音の轟きは、県北の大地の逞しさへの賛美歌のようでもあった。

何度観ても飽きない、途轍もなく魅力的なダンスの振り付けのひとつひとつから、私は勝手に、沢山の賛美を受け取っていた。

地震が増えてしまった日本。
南海トラフの不安が高まる一方の日本。
そんな日本でも、海のない埼玉の、何もない本庄であれば、ここにいれば私はきっと、向こう数十年は、芸術と離れ離れにならずに済むのだ。



あの日、存在感のありすぎる像の置かれた異空間に青い風が吹き、藍染の垂れ幕はガーランドのように揺れ、舞台上には、埼玉の文化が大集結していた。

海への憧れは絶えないが、神川町の温泉施設ではサバの養殖がおこなわれているので、サバの回遊を観ることもできるし、美味しいサバももちろん食べられる。
快晴率が高いので、青い海原に出会えない代わりに美しい青空に恵まれている。



埼玉には、ないものが沢山ある。埼玉には空港もないし、テーマパークもない。
特に、私の住んでいる本庄市は本当に何もない。

何もないのに離れがたい。
よくわからない魅力に縛られて離れられなくなり、6年以上もの月日を経た。

私は何もないここで、何かを生み出しながら生きていく。


©大洞博靖

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