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全自動焼肉機(ウサギノヴィッチ)

 全自動焼肉機がAppleから発売された。Appleショップでは徹夜組も合わせて、三千人が表参道店では並んだらしい。
 全自動焼肉機の素晴らしいところは、液晶パネルにある。たった二インチのモニターにリテーナディスプレーを採用し、色の発色は4Kテレビにも匹敵する美しさであるとこである。そこに、「タン」「ハツ」「ミノ」「レバー」「ハラミ」「カルビ」と表示されるし、「レア」「ミディアム」「ウェルダム」とも表示される。文字の色は、往年のiPodを懐かしがらせる白黒ときている。
 そして、本体の方になると縦が七十センチ、横が二十五センチとなっていて、高さは十三センチ。一人から四人家族まで楽しめるようになっている。もちろん、脇に林檎のマークがついているし、箱を開けると「Designed by Apple in California」のカードが入っている。
 元々、AppleのCEOのティム・クックが日本に来て、安楽亭に行ったときに思いつらしい。ティムは焼肉の焼き方なんて知らない。ある種の無知だから。それを代わりに焼いたのが、安楽亭、西麻布五丁目店、アルバイト飯田紀夫くんだった。彼は、無心にティムに焼肉を焼いてあげた。他の店員は、自分が焼肉を焼いてあげる役でなくてよかったと思っていた。ただただ配膳していればいいだけだった。飯田くんは飯田くんの考えた肉の順番で肉を焼き、ティムに提供した。
 ティムは言った。
──まあまあだね。これだったら、叙々苑行くわ。最近、iPhoneが売れないから食費ケチってこっち来たけど、全然話にならんわ。と、英語で言った。
 飯田くんは、「叙々苑」という単語を聞いて、自分の焼き加減が叙々苑の人よりうまいと思われているかもしれないんだと思い込んだ。だから、彼は、何回もひっくり返す動作をするうちに少し疲れた右腕をどこかで休めたいと思っていたが、ブーストがかかり俄然やる気になった。
 しかし、彼は翌日六大学野球で先発の予定があって、本当はこんなことをしている場合ではなかったのだが、彼が翌週にどうしても好きな女の子とドイツ村に行きたいと彼女の方から誘いを受けたので、バイトのシフトを交換してもらい、今日出る代わりに、ドイツ村の日は出てもらう約束になったのだ。ちなみに六大学野球の結果はというと、五回五奪三振五四死球被安打七の三失点だった。チームはサヨナラで負けたので、彼がバイトのせいで負けたとは一概に言いようがない。
 ティムは食事が終わると、──アリガト、ゴチソサマ。だけ言って店を出た。そして、もうこの店には来ないと思い振り返り、iPhoneで一枚記念撮影をした。
 ちなみに全自動焼肉機は全世界で発売したが、日本では一万台を突破したが、アメリカでは三百台、イギリスでは二百台、中国では二千台だった。
 それでもティム・クックは新しい発明をしようと模索している。

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