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【読書】amazonの絶対思考/星健一 シンプルで明確な意義

もはや我々の生活の一部になっていると言っても過言ではない、巨大企業amazon。
その内部にいた人間の視点でamazonの戦略や強みを結晶化したような一冊だった。

以前書店で見かけて気になっていたのだが、ueblog様の書評記事にて俄然興味をそそられたため、購入に至った。

 冒頭、amazonを数字で分析する事から始まるこの本だが、最初から「amazon小売業態の利益率は多くても5.5%」という事実に驚かされた。

薄利多売を絵にかいた様な、そんな泥臭く発展を続けてきた企業だとは到底思えなかった。
これはキャッシュフローを重視し、投資を継続的に行うための戦略だと明言されて納得できたが、それだけでは企業は発展できるだろうか?

そんな疑問を抱えながらページをめくった。

顧客中心主義

 「お客様は神様です。」のようなセリフが高度経済成長の頃生まれ、今も呪詛のように残っている。amazonの顧客中心主義というのはそういった精神論めいたものとはニュアンスが大幅に異なり、明確なコンセプトとして基本理念に掲げている。

お客様を大切にするためには、お客様の利益を一番に考え、サービスやシステムがどうあるべきかを実現していく事が重要であり、それを実践する教育やカルチャー、意思決定プロセスが社員の末端にまで浸透しているという事である。

このコンセプトがamazonの絶対思考の根幹にあり、すべての判断基準の大本になっている概念である。

冒頭で挙げた利益率の話もそうだ。
一般の小売業態であれば、通常、原価に利益を乗せる形で販売価格を決定する。
しかし、amazonの場合は顧客を中心に考え、原価を安くできるようメーカーに交渉し、最安値付近で買えるように値付けをする。

 amazonは世界一の品ぞろえを目指すという理念も掲げている。
最も売れやすい主力商品もさることながら、ニッチな需要があるロングテール商品も常に在庫しているといった具合だ。

「amazonを開けば何でも手に入る」という成功体験を顧客に認識させ、顧客のネットショップを選択する時間や判断をamazonに収束する事ができるため、非常に合理的な戦略だと思う。

 その他にもマーケットプレイスにて事業者に出店させることも、品ぞろえを豊富にさせる戦略だ。
マーケットプレイスが楽天と大きく違う点は、amazonの商品ページに情報が全て組み込まれているところだ。

出店事業者は商品が売れ、amazonは在庫量が増え、顧客はインターフェースがわかりやすい。
この最適化されたシンプルなシステムは顧客中心主義というコンセプトの賜物と言えるだろう。

明確な基準

 amazonには14項目からなるリーダーシップ・プリンシプルという社員の行動規範が存在する。
これも顧客中心主義の理念を基に構成されている内容だ。

命題を割愛し、語弊をおそれずかみ砕いて書くと、

「顧客第一で、当事者意識持ち、新しいアイデアをシンプルに、多様な考え方を持ち、向上し、基準を高く持ち、人材育成の新しいメカニズムを常に考え、広い視野を持ち、リスク管理してスピード上げ、倹約し、傾聴して対話し、深度を深め、主張と参加を主体的に、結果を出す。」

リーダー=管理職ではなく、全社員がリーダーという意識を持って思考・行動する事が前提だ。

顧客を中心に考え、全社員がこの行動規範を持ち考え続ける、amazonの当たり前の考え方こそ、amazonの絶対思考なのだろう。

中でも参考にしていこうと思ったのが「Bias for Action」という項目だった。

ビジネスではスピードが重要です。多くの意思決定や行動はやり直すこともできるため、大掛かりな分析や検討を必要としません。計算されたリスクをとることも大切です。

「巧遅拙速」という四字熟語や、ひろゆき氏・1%の努力の「それは取り返しのつくものなのか」の概念と似ているが、「計算されたリスク」という発想は今までしてこなかったことに気づいた。

リスクと一口に言っても0か1かでしか考えていない自分の愚かさに気づけたのは私の中ではすごく大きい。

見えてきたamazonの課題

「強みを強調してきたが、amazonを辞した人間だからこそ見える課題もある。」

 エピローグ前の3ページに突如として課題が提示されて驚いた。
物事の良し悪しは表裏一体という事は理解しているが、それを書かない選択肢もあれば、小出しにすることもできたはずなのに、最後の最後にもってくる。
そんな誠実な書き方をされてしまうと今までの内容に手前味噌感が薄れ、反芻せざるを得なくなる。
これもアマゾニアンだった思考故のことかもしれない。

表し方に意表を突かれたが、思えば文中でも課題や困難を挙げていた。

・日本の都市のデザインはコンビニ、スーパーなど、日用品が手に入りやすい環境にあるため配送スピード=メリットと感じづらい

・独占禁止法への対応。アメリカではOKなことも各国の法整備状況によってはNGになってしまうこと(逆にコンプライアンス順守の徹底ができているとも)

・マーケットプレイスに模倣品などの悪質業者が紛れ込んでしまう事
→これもトライ&エラーができる環境にあるので改善に向かっている。

他にも顧客をデータとして捉えてしまいがちになること、排他的な組織になりそうなことを挙げていた。

しかし、こういった洞察ができることはこの企業の強みであり、「amazonはいつか倒産する、だから常に1日目」という感覚を裏打ちする課題の分析なのだと思った。


■気づいた事・思った事・取り入れる事

・高利益が全てではなく、明確なコンセプトをもって戦略を立てるべき。

・すべての事はシンプルに、そしてスピーディに。

・判断の基準を理念ベースで考える(企業にしても個人であっても)

・やはり段取り八割。しかし、そこに意義がなければ意味がない。
(職業選択においても同じことが言えると思う。)

・組織は、同じ方向を向いていなければ組織ではないんだなと思った。

・文中で「正確な文章でなければ意味がない」みたいなニュアンスがあったのにジェフ・ゾベスと表記ミスがあり、人間味があっていいと思った。

・外部から見たamazonも知りたくて↓も買った。楽しみだ。


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