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久世物語⑫【発展期】久世の品質を世界へ

当社は今年創業90周年を迎えました。
90は語呂合わせで『クゼ』と、まさに久世の年。

長い歴史の中には創業者や諸先輩の苦労や血の滲むような努力があります。
私たちがどのような会社で、どのような思いが受け継がれてきたのか。
「久世物語」をお届けいたします。

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【第12回】久世の品質を世界へ

キスコフーズの海外進出

 2000(平成12)年頃から大手食品メーカーが次々と海外への展開を図る中、久世も積極的な海外進出を目指す。先鞭をつけたのはキスコフーズである。
日本で初めてフォンド・ヴォーを商品化したキスコフーズは、原料となる仔牛の骨をニュージーランドやオーストラリアに求めていた。フォンド・ヴォーの販売増加に伴い原料の安定調達を図るため、より安価な製品をつくるためにニュージーランドやオーストラリアに足を運び、海外拠点の設立を模索し始めた。


 2002(平成14)年、現地調査に基づき、ニュージーランドの製造会社、ハイテクフーズ株式会社と交渉を始める。
もともと、ニュージーランドやオーストラリアは肉の生産管理品質に定評があり、2000(平成12)年初頭から発生したBSE問題以降も、世界的に管理体制ナンバーワンの評価を得ていた。特にニュージーランドは上質な乳製品に恵まれ、上質な小麦なども豊富なことから、ハイテクフーズ社はバターに小麦粉を加えて加熱攪拌したバタールウを日本に輸出していた。


 2003(平成15)年よりニュージーランドでのフォン・ド・ヴォーの委託生産が開始された。しかし、工場の立ち上げまでには幾多の課題があったという。
2002(平成14)年の段階では、ニュージーランドの工場側ではフォンド・ヴォーなどはシェフがつくるという概念が強く、工場で製造するという発想がなかった。そのため、まずは必要な製造機械や設備を導入、さらに商品開発担当を出向させ、製造の指導を開始し、ニュージーランドでの生産体制を整えた。そしてニュージーランド産のフォンド・ヴォーは、キスコフーズの成長に伴い、順調に生産量を増やしていった。


 ニュージーランド生産拠点の成功により、2005(平成17)年にはイタリアでトマトソースの委託製造を開始する。原料を輸入して日本で加工するのではなく、現地で生産しコストを管理。こうして海外における生産体制が安定した2011(平成23)年、ハイテクフーズ株式会社が財政困難に陥ったことをきっかけに、資産すべてを久世に売却したいという話が持ち込まれる。

この話を受けて同年5月、清水工場の生産補完と海外への販路拡大を目的にキスコフーズ・インターナショナル・リミテッドが設立されたのである。


海外事業部の設立

 キスコフーズ・インターナショナル・リミテッドの設立と並行して、久世本体でも中国進出の準備が進められていた。


 2005(平成17)年、大手取引先が中国本土に出店したため、出店準備にあたった。この時同行した健吉は、成長著しい中国の圧倒的なパワーを実感する。特に都市部では外食産業が急成長していた。
外食チェーンの発展とともに成長を遂げた久世がこれまでに培ったノウハウをつぎ込めば、新しい市場が広がるかもしれない。健吉は中国進出への大きな可能性を感じて帰国する。

 そして5年後、お客様の出店を機に現地卸問屋の上海峰二食品有限公司から、2010(平成22)年の上海万博に食材を納入するために人財の派遣と協力を要請されたのである。同じ卸といっても、上海峰二食品は創業10年ほどの企業。大きなイベントへ食材を卸した実績はなく、経験豊富な久世に協力を求めたのである。その要請の応え、社員1名が上海峰二食品に出向した。

 こうして2011(平成23)年2月1日、キスコフーズの海外生産拠点設立にさきがけ、海外での活動を統括するための海外事業部がスタートした。
そして、9月には海外統括会社である「久世(香港)有限公司」が操業する。さらに翌年1月、上海峰二食品有限公司に出資して現地での食材卸売事業に進出。
5月には中国内陸部での業務用食材卸業展開のため「久華世(成都)商貿有限公司」が設立されたのである。

中国におけるブランド向上へ

 設立当初、久華世(成都)商貿有限公司は中華食材の卸売業に取り組んだが、その結果はかんばしいものではなかった。
中国では企業によって関税率が変わったり、検疫検査局の対応が異なる独特の商習慣が残っていた。また、冷凍物流の歴史が浅く、渋滞が慢性的な都市部には冷凍配送車が乗り入れられないという問題もあった。こうした環境のもと、久世がこれまでに日本で培ってきたワンストップサービスのノウハウをいかに活用するかが課題となった。


 そこで、まずは成都に出店している日系レストランをターゲットに営業活動を開始する。この頃、中国では洋食、特にイタリアンが流行り始めており、国内では入手しづらい久世の輸入食材は歓迎された。
また、成都の駐在員向けに日本の食材の提供を行っており、そこで得た人脈から新たな取引のネットワークが構築されるようになる。


 久世は競合する他の卸とは異なり、キスコフーズという自前の商品開発・製造機能を持つ点が大いに評価された。日本の食材を扱う地元のディストリビューターと単なる卸業として競合するのは厳しいものの、キスコフーズが持つ開発機能や製造機能によって、久世は中国で手に入りにくい上質な商品を適切な価格で提供することができる。
さらに、上海からの基幹物流の構築により、中国全土のみならず世界各国から商材を調達することができた。実際、輸入商材を扱う他の卸でも、オリジナルの商材や物流まで構築できるところはほとんど存在しない。また、久世は日本と同様に、現場との強固な連携による顧客との信頼関係を築いている点も大きな強みであった。


こうして、久世の中国における存在価値は徐々に高まっていく。


(次回へつづく)


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