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場所はいつも旅先だった

「そのままでいいんだよ」

そう言ってくれるような本にときどき出会う。
いや、ほんのたまに出会う。

ほんのたまにという言葉があっているかわからないが、そこそこ珍しいという意味だ。

だからそんな本に出会ったら、それは大切な一冊になる。毎月毎年読み返すわけでもないけど、幾度となく訪れる(泣く泣くの)本の断捨離タイムをくぐり抜けて本棚に鎮座し続ける。

私にとってそんな一冊が、松浦弥太郎さんの『場所はいつも旅先だった』である。

サンフランシスコのアパートで恋人と過ごした土曜日の午後。ニューヨークの老舗古書店で大切なことを教わった日。18歳のときに初めてアメリカを旅してからずっと、いくつもの出会いと、かけがえのない日々をくれた場所はいつも「旅先」だった。『暮しの手帖』編集長の著者が、自身の旅について飾らない言葉でひとつひとつ綴った自伝的エッセイ集。軽やかな心で明日から旅に出たくなるような一冊。

学生のころ旅の楽しさを知りつつあった頃、旅はもっと豪快で奇想天外なことが起きなければ旅ではないという考えに囚われたときがあった。

当時、ネットには旅人のブログがたくさんあって(いまもあるのかな)、そればかり読んでいると彼ら彼女らの目をひくエピソードがゴロゴロと転がっていたのだ。それと比べて自分の旅はなんだかこじんまりしているように感じて、ちょっと落ち込んでいた。

そんなときに本書を読んで、「そのままでいいんだよ」と言ってもらえたような気がした。何気ないワンシーンのなかに価値があることを、この本は教えてくれる。派手なことは起こらない、ちょっとした人とのやりとりがある、見る人が見たら「退屈」というのだろうか、でもそこに旅情がある。

きっとこの本とは、ずっと付き合っていく気がしている。

22/05/20

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