見出し画像

『花嫁のための最高の結婚式』

  私は幸せになりたかった。

「結婚しよう」
 7年付き合っていた彼がそう言った。
 私はずっと、その言葉を待っていた。
 彼の異国の瞳をみながら、私は「はい」と言った。

 7年も待たされた。
 彼はモテるから、よく他の女の人のところへ行っていた。
 それでも、私はずっと待っていた。
 そして私の元に戻ってきてくれた。

 ああ、嬉しい!
 結婚式を最高のものにすると決めた。
 
 もちろんジューンブライド。
 結婚式は6月に行う。
 そのほかにも、花嫁が幸せになるためのジンクスやおまじない。
 端から端まで調べ上げた。
 花束も、ドレスの色も、リングの宝石やカタチ。
 すべて花嫁が幸せになるもので揃えた。

 そうして待ちに待った結婚式当日。
 当日は雨が降った。
 しかし、関係ない。
 これは幸せになるためのものだから。
 完璧。
 これで、幸せになれる。

 …………。
 ……なんてこと。
 私としたことが『サムシングフォー』を忘れるなんて。
 
 サムシングフォー。
 結婚式に身につけると花嫁が幸せになれる、4つのもの。
 何かひとつ古いもの。
 何かひとつ新しいもの。
 何かひとつ借りたもの。
 何かひとつ青いもの。

 こんな有名なジンクスを忘れるなんて。
 どうしよう。どうしよう。

 これじゃあ、幸せになれない。

「大丈夫か?」
 震えて立てなくなった私を彼が支える。
 不安そうな瞳で私を見つめる。
 私も彼を見つめ返す。

 ーーああ、そうだ。
 思いついた。
 一度にサムシングフォーを、
 全て取り入れる方法を。


 結婚式のチャペル。
 私は幸せの花嫁として、
 バージンロードを歩く。

 挙式で彼はずっと俯き涙を流していた。
 彼が私のベールを脱がせる。
 彼の俯いていた顔がようやく私を見る。
 ああ、幸せだ。
 客席からも驚きの声が響き渡った。

 私は幸せのジンクスを取り入れた、
 “最高の花嫁”だものね。
 サムシングフォーも、一度に全て、
 身につけることができたもの。
 1品で、4つすべてを補える。

 それは彼がずっともっていた古いもの。
 それは私にとっての新しいもの。
 それは私が彼から借りたもの。
 そして、とても綺麗な、綺麗な、
 青いもの。


 あら、あなた、まだ泣いているの?
 そんなに、片方から涙を流して。

 あなたはもう、半分が見えないけれど。
 でも構わないでしょう?

 これからずっと一緒だから。
 もうこれで、私から離れないでしょう?

 だって、これは、
 “花嫁”を幸せにするためのもの、
 なんだから。

おしまい。


サポートしていただきました費用は小説やイラストを書く資料等に活用させていただきます。