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座席表エンターテイメント

「最近な、正社員で働きたいな思うねん」
「お前にできんのか」
「そんなん簡単やろ」
「簡単ちゃうで。一回り年下のバイトリーダーにアゴで使われるフリーターのお前に何ができんのか」
「イヤな言い方すな。お前ができんのやったら簡単やろ」
「正社員ナメんなよ」
「ほんならお前、会社で何してんねん」
「会社最大のビッグプロジェクトや」
「何や」
「飲み会の座席表づくりや」
「しょーもな!」
「アホか。会社の飲み会言うたら最大のビッグイベントやぞ。あのな、飲み会には上座と下座があってやな、上手に並べんとアカンねん。そやから座席表づくりを任されるのはエリート中のエリートや」
「そんなん簡単やんけ。アイウエオ順に並べたったらええやん」
「は?なんて言うた?アイウエオ順?アホか。そんなんやからお前、3年後、野垂れ死ぬしかないフリーター言われんねん」
「言われてへんわ」
「アイウエオ順してみい、そんなんしたら大変なことなるで。ハーバード帰りのクリス松本副社長と最強のお荷物社員クソ山クソ太郎が隣同士になってまうやんけ」
「クソ山クソ太郎!そんな奴おらへんやろ」
「お前、クソ山クソ太郎の臭さ知らんやろ。そんなん隣にしたらクリス松村副社長、気ィ失ってまうわ」
「どんだけ臭いねん。てかクリス松村言うてもうてるやん」
「あのな、会社で大事なんは序列や。偉い人順で並べんねや。せやけど課長とか同じ役職の奴いっぱいおるやろ。そういうときはさらに勤続年数順で並べんねん。でも勤続年数が同じ奴もいっぱいおるやろ。そういうときは卒業した大学の偏差値順で決めんねん。でもそれには大きな問題があんねや」
「何や?高卒か?」
「アホか。高卒なんか下の下や。端の端の端のテーブルのない席や。鍋持って食べるとこや」
「よりによって鍋料理!」
「あのな、広島大卒とアリゾナ州立大卒のどっちが上か決められん」
「めんどくさ」
「どっちが上か徹夜で考えて社長の決裁取んねん」
「お前の会社ヒマやろ」
「もう徹夜で案作ってな、決裁取んねん、社長だけやないで。主任、チーフ、係長、課長補佐、主幹、副課長、課長、部長、部門長、本部長、常務、専務、ここまでで1週間や。そこまで来てな、チーフの斎藤ウィリアムの経歴詐称が発覚すんねん。全部やり直しや」
「斎藤ウィリアム誰やねん!」
「一からやり直しや。チーフ、部門長、プロダクトマネージャー、エリアマネージャー」
「さっきと変わっとるやないけ」
「ゼロカーボンダイレクター、SDGZ監督官、エッセンシャルメンタルコーチ、係長、課長、いかりや長、部長」
「課長と部長のあいだに、いかりや長おるやん。そして、いかりや長の仕事内容を教えてくれ。いかりや長はいかりやの長やろ。働く職場いかりやの長やろ。ほんなら働く場所いかりやで働く者を教えてくれ」
「そら荒井注とかおるやろ」
「もはやドリフ長やん。そしてドリフ長の会社での役割を教えてくれ」
「ほんでな、常務、専務、ここまで来るのにまた一週間や。もう地獄や」
「お前の会社、飲み会の準備しかせえへんやん」
「で、やっと社長にたどり着くねん。もう完璧な座席表や。非の打ちどころのない。何きかれても答えられる。けどな、社長のダメ出し食らうねん」
「なんでや?」
「序列を越える社長のお気に入りがおるんや」
「頭おかしなるわ。てかそれを先に聞け」
「社長の右腕、社長の懐刀、社長の相談役、中でもな、最強はなんか分かるか?」
「なんや?」
「社長の愛人や。社長の愛人、斎藤ウィリアムや」
「斎藤ウィリアム!」
「斎藤ウィリアムが大逆転のナンバーツーや」
「すべてを凌駕する斎藤ウィリアム!」
「けどな、斎藤ウィリアムに二股疑惑が発覚すんねん」
「斎藤ウィリアム発覚しすぎやろ」
「二股相手、誰や思う?」
「誰や」
「オレや」
「まさかのお前登場!そやけどそれお前ヤバいやつちゃうん」
「詰んだ思うたわ。終わった思うたわ。けどな、大逆転や。社長な、寝取られマニアやったんや」
「寝取られマニア!もうついていかれへん」
「社長、ウィリアム、オレや!オレも今や会社のナンバースリーや。せやからお前、正社員で雇ったるわ。社長に言うとくわ」
「ほんまか?で、オレの仕事は何や?」
「シュレッダー係や」
「辞めさしてもらうわ」

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