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【映画】ルックオブサイレンス 備忘録 大虐殺の陰にあるもの

1965年9月30日事件、インドネシアの大虐殺の真相を映画を撮るという口実で加害者側にインタビュー実演してもらうという前作『アクトオブキリング』。今日はその続編、兄を殺された被害者が加害者たちにインタビューする『ルックオブサイレンス』を見た。

当時のスカルノ大統領政府の中で一部の軍人と共産党員によってクーデター未遂が起きる→スハルト将軍率いる国軍がクーデター鎮圧→共産党員とその支持者を粛清。50~100万人もの共産党員や市民の大虐殺→スハルトの独裁政権が30年続く。

デヴィ夫人ことデヴィスカルノはこのスカルノ大統領の第3夫人でこの事件でスカルノ大統領が失脚したこともあって日本に渡ってきた。

今でもその加害者たちが権力を握っており、殺人部隊のリーダーが街に住んでて幅を利かせている。なので被害者にインタビューしても口を閉ざして真実を誰も語りたがらない。それで加害者に映画を撮るという名目でインタビューしたのが前作だった。

悪夢にうなされることもあるが、加害者は自分の罪についてあまり自覚的ではなく、嬉々として当時の状況を語る。

ルックオブサイレンスでも加害者たちは楽しそうに、虐殺を語っている。罪の意識はさほど感じられない。今も加害者たちが権力を握ってる立場なので、被害者でさえ、黙っていた方がいい・過去を忘れたい、なぜ掘り返すんだと言ってしまう。もう傷は癒されたんだと、自らに言い聞かせるように言う。

冷戦時代、インドネシアのこの事件にも資本主義と共産主義の対立が陰に隠れている。当時のスカルノ政権は外国の力を締め出し、自国で自立しようとしたが、経済政策は深刻な食糧不足とインフレを招いた。スカルノ政権は中国など共産圏の支持を集めようとし、西側欧米とは距離を取っていき、国連からも脱退。

アメリカなど西側諸国が東南アジアの共産圏化を恐れてベトナムにも介入していたタイミングでこの事件。アメリカCIAが反共産主義を煽り、スハルト政権を援助してたとも言われている。

そして虐殺を行った殺人部隊のリーダーたちはインタビューで共産主義者は信仰心もなく、ひどい奴らで、妻を交換してセックスしてるような連中だと真面目に答える。そう聞かされたと。

そして今でも学校は共産主義者は神を信じない、共産主義者はまともな仕事につけない、共産主義者は残酷だ、だから政府は取り締まったと、子供たちに教育している。

世界情勢、プロパガンダ、被害者でさえ忘れようとする現実

兄を殺した被害者が加害者にインタビューしにいくが、その加害者の男はもう死んでいた。残された妻とその息子たちに話を聞いた。息子たちは父親がそんな残酷な事をしてるなんて知らなかったし、聞きたくないと拒絶する。しかし虐殺を嬉しそうに語っている映像や加害者自身が書いた本がちゃんと残っている。

息子たちは過去の傷をまた開くなと怒り始める。被害者は復讐をしにきたわけじゃないと切ない目で語りかける。でも通じない。

力で抑えられた街の静寂のなかにある声なき叫びを聞き逃してはならないと強く思った。


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