寝てる場合じゃなかった
荒川静香さんのイナバウアーで一斉を風靡した曲、トゥーランドット(誰も寝てはならぬ)。
ドイツのバイエルン国立歌劇場で観劇したオペラは、ドイツ語上映・英語字幕だったので、残念ながら全くストーリーが分からなかった。
それでも、劇中にあの名曲を生で聴いた感動は忘れられない。
3年前、友人のつぼみん(仮名)と2人で行ったドイツ旅行で、オペラ観劇のほか、観光、グルメ、ショッピングなど、全力で堪能していた。
つぼみんの憧れのブランド、RIMOWAは、ドイツ発祥だ。
わたしは全く知らなかったが、高品質でスタイリッシュなスーツケースで有名なブランドらしい。
日本にもリモワの商品を取り扱うところはあるが、本場ドイツの方が品揃えも豊富で、現地価格で購入する方がお得だと言う。
本場のリモワの店舗に行き、つぼみんは何度もスーツケースを鏡の前で合わせてみたり、コロコロ転がしてみたりしている。
高額商品であることと、かなり大型のスーツケースであることから、簡単に手が出せるわけではないが、次第に物欲がムクムクと膨らんでいく様子が目に見えた。
わたしたちは8泊分の荷物を詰め込んだ超大型スーツケースを携えてドイツに入国している。
そこへさらに超大型スーツケースを購入すると、荷物のかさが倍になり、移動することすらままならないだろう。
帰りの飛行機の荷物預け入れも追加料金が発生しそうだし、ややこしくなりそうだ。
わたしはつぼみんを制した。
「つぼみん、なんぼなんでも無理あるで。
持って来てるスーツケースが偶然今壊れたりしたら、買わなしゃあないけどさ。
スーツケース2個やなんて、エスパー伊東2人分、いや、それ以上やで。」
そう言うと、つぼみんは名残惜しそうにリモワの店舗を後にした。
その翌朝、ホテルの部屋で着替えた服や荷物を整理しているつぼみん。
見てみると、確かに壊れていて、鍵が閉まらないようになっている。
これからまだ数日ドイツを観光し、飛行機を乗り継いで日本に帰国する。
その間、鍵が閉まらない状態のスーツケースで荷物を運ぶのはあまりに危険すぎる。
つぼみん、絶対にやってる。
これはもうつぼみん、あなた絶対自分でやってもてる。
非力なつぼみんに、スーツケースを故意に壊すことなどできるはずない。
偶然に決まっている。
でも今、こんなにタイミングよくスーツケースが壊れてくれるなんて、疑わざるを得ない。
夢遊病か。生き霊か。
夜中、暗闇の中ハンマーでやっちゃってる悪いつぼみんの姿が目に浮かぶ。
わたしは今出せる一番優しい声で言った。
「つぼみん、リモワ寄っていいよ。
一緒に行こう。」
でもつぼみん、あなたは絶対にやってる。
その日、早速リモワに行き、前日すでに目をつけていたロイヤルブルーのスーツケースを即購入したつぼみんは、満足気な表情だ。
ホテルへ帰る道すがら、スーツケースを転がす姿を何枚も写真に撮らされた。
つぼみんは美人だ。
知人男性に頼まれてセッティングしたコンパに一緒に来てもらうと、「木村文乃が来たかと思った」と男性陣が驚くほどだ。
つぼみんと知り合って13年。
いろんな角度から君を見てきた。
いろんな顔を持つ君を知ってるよ。
でも、リモワのスーツケースを転がす君が、今まで見てきたどんな姿より、一番綺麗だよ。
でもつぼみん、あなたは絶対にやってる。
つぼみんは、元の壊れたスーツケースをホテルで処分してもらう方法やマナーをすぐさま確認した。
メモとチップを添え置き、ホテルに処分を依頼した。
その数日後、楽しかったドイツ旅行を終え、関空に帰ってきた。
便が到着した後、預けた荷物を受け取るのに群がる人たちの中、新しいリモワのスーツケースが回転寿司のように流れてくる様子を、つぼみんは誇らしげに眺めていた。
帰国してしばらく経った日のこと。
わたしはファンである和牛さんが出演するDVDを拝見していた。
言わずと知れた吉本興業の実力派漫才師だ。
ツッコミの川西さんの移動シーンに映り込んだスーツケースは、見覚えのあるリモワのものだった。
川西さんはリモワのスーツケースを使っておられる、、!
わたしは、すぐさまつぼみんにLINEした。
わたしもリモワ欲しい。
このシリーズのこのタイプのこのサイズのが、わたしも欲しい。
すぐにつぼみんから返事が来た。
あの名曲トゥーランドット(誰も寝てはならぬ)は、もしかしたらこのことを歌っていたのだろうか。
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さて、次回の #クセスゴエッセイ は
「RIMOWAのスーツケース」
をお届けします
お楽しみに〜
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