「せきこめる」という言葉
恥ずかしながら、わたしは知らない言葉が多い。
社会人歴10年以上を重ねながらも、最近覚えた言葉もある。
喫緊
「喫緊の課題」と聞いた時、キンキンの課題かと思った。
キンキンに冷えたビールみたいなイメージで、めちゃくちゃ早よせなアカン課題かと思った。
知らなかったら知らないで、文脈や前後の雰囲気から何となく想像で捉えても、あながち間違いでもない気がする。
振り向ける
「AIで業務を効率化した分、空いた時間を事業拡大に振り向ける」という使い方。
振り向く、という日本語自体は知っているが、そんな言い回しもするのか、と最近になって知った。
せきこめる
この言葉は使ったことがない人がほとんどであろう。
「立ち込める」みたいなイメージに、「急きたてる」というニュアンスも加わり、より強いものがなにか覆いかぶさってくるように感じる人がいるかもしれない。
あるいは、堰を切ったように感情が込み上げてくるような、エモーショナルな何かを感じる人がいるかもしれない。
「せきこめる」という言葉の使い方について、実例を用いてご紹介したい。
職場にナメた後輩がいた。
営業職として支店に勤務していた時、一緒のチーム、隣の席で仕事をしていた後輩くん。
営業職というのはいろんな場面でストレスを抱えるもので、チームの若手で飲みに行く機会も多かった。
その日は先に3人で飲んでいるところに、残業を終えた後輩くんが合流した。
私「お疲れお疲れー。今頼んだやつもう全部来てるから、あと好きなん何でも頼みや〜。」
テーブルには枝豆や豚平焼きなど、とりあえずの肴が並んでいた。
後輩「僕、この中で先輩がどれを頼んだか分かりますわ。どうせコレとコレ、先輩が頼んだんでしょ。いつもおっさんみたいなんしか頼まんから。」
そう、胡瓜の一本漬けとシメサバは確かにわたしが頼んだ。
しかし、女性に対しておっさんだなんて、なんてナメた後輩。
後輩くんとは帰る方向が一緒。
さんざん飲んだ帰り、混んだ車内で並んで吊り革を握って立っていた。
前の席が一つ空いたので、酔ってフラフラな後輩くんに「座りや」と言うと、スッと座った。
「いいですよ、先輩どうぞ」「いやいや」「え?いいんですか?」というラリーは一切ない。
そして席に座った後輩くんから放たれた一言。
「先輩、足腰強いっすね〜」
その言葉が衝撃的すぎて、「先輩、足腰強いっすね〜」を、わたしが勝手に開催しているその年の“わたしの流行語”に即ノミネートしてやった。
わたしのことを先輩だとも女性だとも思っていない、なんてナメた後輩。
後輩「先輩ってスイーツとか食うことないっしょ?」
確かに、わたしはお酒を飲むからスイーツを食べる機会は一般女性と比べて少ないのかもしれない。
後輩「サーティーワンとかも食ったことないっしょ?」
私「サーティーワン食べたことぐらいあるわな。ナッツトゥユーとか好きやで。」
後輩「あぁ、それナッツが入ってるからっしょ?アイスよりもナッツ食いたいからっしょ?もうツマミとしてアイス食ってますやん」
わたしの手にかかれば、アイスクリームがツマミに変わるのか。
可愛くないからってスイーツを食べないという安直な偏見を披瀝する、なんてナメた後輩。
後輩「先輩って、足腰強いし、メンタルも強いし、体も強いっすよね〜。どんだけ免疫強いんすか。」
確かにわたしは仕事を病欠したことは一度もない。
後輩「先輩風邪とかひかないっすもんね〜。救急箱の常備薬とかも全然使わなくて、使用期限切れで捨てるだけっしょ?買うだけ無駄ですよ。
先輩が咳き込んでるところすらも見たことないっすもん。
どうやったら咳き込めるんすか?
喉に指突っ込んだら咳き込めるんすか?」
咳き込むことを望む人など居るはずもないから、咳き込むを可能動詞にする人は居ない。
「せきこめる」そんな言葉はこの世に無い。
わたしは普段デスクでは寡黙なはずだし、営業スタイルだって派手ではない。
身長だって一般女性より控えめだし、ごく慎ましやかな銀行員だ。
それなのに、どんなに咳き込みたくても咳き込めないほど「屈強な奴」という烙印を押され、なぜこんな扱いを受けるのか。
「せきこめる」という言葉。
二度と誰も使わないでほしい。
二度と使うことのない語彙を無駄に増やしてくれる、なんてナメた後輩。
しかし、わたしのことをよく分かっているかわいい後輩。
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さて、次回の #クセスゴエッセイ は
「エレベーター・イップス」
をお届けします
お楽しみに〜
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